自作小説の世界に召喚されたので俺は未完放置する(エタる)のをやめました!

冬塚おんぜ

第八十六話 「今度は何をするつもりだよ」


 殲滅公ギルデロット。
 それがここ――共和国と北方連邦の国境沿い、東のはずれのほうに位置するこの城の、かつての主だった男の名だ。
 ギルデロットは次々と女を娶り、犯して、産ませたらしい。

 馬鹿野郎か。
 設定の空白を上手いこと利用して悲惨な描写ばっかり挟みやがって。
 俺はね! ゆるいファンタジー世界を書きたかったの!

 しかも大昔に滅んだ小国の主だから、今更憂さ晴らしに成仏させるなんて事もできない。
 胸糞悪いので、魔王討伐の暁には落書きしまくってやろう。

 スプルルルルァトゥーーーー……いや、やめた。
 テーマーパークに改造してやる!

 ……この下らない思考を、一時中断しよう。
 どんなに誤魔化したって、前に進まなきゃいけないんだ。


 パーティメンバーはルチア、ジラルド、ビリー、そして俺の四人だ。
 この構成で廃城の探索って、リントレアの時を思い出すな。

 あの頃とは比べ物にならないほど、俺達は強くなったが。
 廃城にたどり着くまで、魔物と遭遇したりもした。

 どいつもこいつも、廃城を目指していた。
 魔物共は、そんなにレジーナとザイトンが愛しいのかね。
 この光景を見ると、魔王は本当にザイトン達の一件に絡んでないのか怪しいんだよな。

 実際レジーナがスナファに扮していた時の銃は、明らかにこの世界には存在し得ないものだ。
 魔王軍くらいしか使えない筈だろ。
 何故、それをレジーナが持っていたのか。
 謎は深まるばかりだが、あいにくと魔王に訊くチャンスが無かった。

 おのれ魔王め。
 それも織り込み済みって事か。
 一方的に話を進められる状況になってから姿を現すとは、なんて狡猾な野郎だ。


 *  *  *


 時は夕刻。
 群がる魔物共をさっくり倒した俺達は、カラスの鳴き声が響き渡る廃城へと辿り着いた。

 城の中は荒れ果てた様子は無く、清潔そのものだ。
 代わりに、一体の骸骨が俺達の目の前に現れた。

「敵か!」

 その骸骨は顔の右半分を黒く塗り、目の周りに星印を描いている。
 そして、真っ赤な丸い鼻を付けていた。
 服装から見るに、明らかに道化師のそれだな。

「魔物かね。廃城にアンデッドとは、月並みな組み合わせだぜ」

「私達に先回りして、侵入していたのでしょうか……」

 俺達が武器を構えると、骸骨は両手を出してカタカタと頭を振った。
 それから少しして、赤鼻を指差す。

「……な、何だよ」

 取れって事か?
 俺は恐る恐る、その赤鼻を引っ張った。

 すると、万国旗が骸骨の鼻の穴から出てくる。
 いや、だから何だよ!
 そんな舞台役者みたいな一礼されても困るわ!

「また何かするみたいですね」

「今度は何をするつもりだよ」

 時間がね?
 無いのよ!

 骸骨は懐から、トランプの束と、箸を取り出す。
 あー、掴めてきたぞ。
 箸だけに。

 そのトランプを空中にばら撒くんだろ?
 ――ほら、ばら撒いた。

 で、それを箸でつまむんだろ?
 ――ほらつまんだ!

 骸骨はつまんだトランプを一枚ずつ左手の上に重ねながら、最後に扇状に開いて俺達に見せてきた。
 それはハート柄のみで統一され、エースからキングまで綺麗に並べられていた。
 残りの柄は、床に散らばったままだ。

「おおー」

 ジラルド、ビリー、そしてルチアまでもが拍手している。
 骸骨はまた、それに対して一礼する。

 確かに凄いよ?
 ボラーロで出くわした道化師兄弟なんて足元にも及ばないよ?
 ……あー、アイツらの師匠ってお前だな。

 わかった!
 わかったから!

 こりゃファルドはお留守番で正解だな。
 今のアイツならキレて骸骨を粉々にしてたかもしれん。

 なるほど、じゃあ俺は冷静に対応だ。
 大道芸人に感動したら、やる事は一つ。

「ほらよ。案内の駄賃も兼ねてるぞ」

 金貨を一枚、骸骨に放り投げた。
 骸骨はそれを両手でキャッチ(箸もトランプも後ろに放り投げた)。
 そして、俺へと掛けより、何度もお辞儀してきた。

「気が変わらないうちに早くしてくれ」

 骸骨を急かし、俺達は奥へと進む。
 相変わらず、城内は綺麗だ。
 隅々まで掃除が行き届いていて、逆に薄気味悪い。


 *  *  *


 謁見の間と思しき場所。
 玉座には、朽ち果てた白骨死体がある。
 骸骨道化師はひざまずいて、それから暫くして玉座を横にずらした。

 その奥に、部屋はあった。
 階段を降りると、鍵の掛かった扉。
 骸骨は鍵を回すジェスチャーをしてみせた。

 なるほどね。
 ここで、貰った鍵が役に立つワケか。
 鍵を回して、扉を開ける。


 今までとは雰囲気の違う、牢獄じみた部屋。
 幾つもの死体が白骨化した状態で吊るされていて、視界は良くない。

「本当に、この奥にいるんだな?」

 大丈夫だ。
 こっちにはエンチャント系を完備した、百戦錬磨のタフガイが二人いる。
 ルチアもヒールがあるから傷を負ってもジリ貧にはならないだろう。

「あれかい」

 ジラルドが指差したその先に二人分の人影があった。
 近寄ると、それは紛れも無くレジーナとザイトンだった。

 藁のベッドに寝かされたレジーナ。
 対照的に、壁に繋がれたザイトン。

 よくよく目を凝らしてみると、ザイトンはあちこち傷だらけだった。
 どうやら、かなり拷問されたようだな。

「メイは、いないのか……」

 骸骨は俯き加減に首を振る。
 言葉は解っても喋れないってのは、どうも不便だな。

 ……いい事考えたぞ。
 筆談という手があるじゃないか!
 なんで今まで忘れてたのかね、俺は!

 紙とペンを取り出し、骸骨に渡す。
 骸骨も察しが良くて、すぐさま手元に持った。

「メイはどこ行った?」

《メイとは、どなたでしょう?》

「仮面を被った女で、なんていうか、マントを羽織ってる。そこの二人を連れてきた奴だよ」

《そのお方でしたら、皆様に手紙を届けるとおっしゃって、それきりです》

 ……マジかよ。
 じゃあ戻ってきてないのか。
 だから「無事に辿り着いてね」って言い回しだったのか。

 迂闊だった。
 日本語の用法というものは実際奥ゆかしく、アトモスフィアを読み取れなければ大切な連絡事項を見逃す事にもなってスゴイヤバイ級のウカツをやらかす。
 勝ち組サラリマンになるには、行間をしっかり読み取らねばならないのだ!
 かのミヤモト・マサシもそれで……。

 悪ふざけは終わりにしよう。
 今はシリアス重点だろ。

「ザイトン……えっと、そっちの司祭を拷問したのは誰だ?」

《部屋を拝見していなかったもので、わたくしは存じ上げません》

 暗にメイがやったって言ってるようなものなんですがそれは……。
 まあいいや。

「お前の素性は?」

《はるか昔、この城に勤めておりました道化師でございます》

 大昔なのに俺達の現代語が解るって、なにげにスペック高いよな。
 昔から言語体系が変わらなかったって事なのかもしれないが。

《お急ぎでしょうから、そろそろ》

「見張ってくれてありがとな」

 骸骨が懐から鍵を取り出し、ザイトンを解放する。

「ご苦労さん。さて、ビリーはザイトンを頼んだぜ。ルチアちゃんはレジーナを」

「了解だ!」
「はい」

 いいのかね。
 こんなにアッサリしていて。
 とはいえ俺達は、こうしてケリを付けた。
 あとはお持ち帰りして、石化を治す方法を探しつつ、アンジェリカとメイを探すだけだ。
 さあ帰ろう。


 ……と思った矢先に俺の肩を叩く指。

「ん? まだ何かあるのかよ」

《いずれ、遊びにいらして下さい。茶も出ませんが》

 返された紙とペンには、そう書かれていた。
 俺としては、ちょっと遠慮したい。
 遠いんだよな、ここ。


 ――あ。
 もう一枚、何か挟まってる。
 こっちは何だ?
 えーっと。


『来てくれてありがとう!
 シン君に朗報だよ!
 ザイトンが夏の聖杯の在り処を吐き出したの!
 嘘じゃないよ、ホントだよ!
 ギルゲス・ガンツァのコアに使われてるんだってさ!

 ザイトンの手駒も全部吐かせた。
 レジーナが使ってた銃は、本物のスナファから奪ったんだって。

 残りの手駒は、あたしのほうで消しておく。
 だから、シン君はファルド君達と一緒に、アンジェリカを探してあげて。
 その頃には、合流できると思う。

 ……回りくどくてごめんね。
 今は、こうするしかないんだ』


 やっぱりヴェルシェが言っていた、誰かが命を狙ってるのと関係があるのか?
 手紙を残したメイだって、何を企んでいるんだか皆目見当もつかない。
 この手紙を含めてここまでの流れが、誰かの仕組んだ罠だとしたら……?

 次から次へと疑問が溢れてくる。
 俺は、誰を信じたらいいんだろうな。

 本当はこんな事、やってる余裕は無いんだぞ。
 魔王を倒すのが、俺達の最重要課題だった筈だろ。

 それとも、やっぱり魔王の仕業なのか?
 ゴル○ムとか、ネオグ○ンゾンとかそういう感じで、何もかも魔王が裏で手を引いてるってオチだったりするのか?

 それはそれで大歓迎だ。
 魔王を倒せば全部解決するんだからな。

 だが、きっと一筋縄じゃ行かないんだろう。
 そんな気はする。



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