自作小説の世界に召喚されたので俺は未完放置する(エタる)のをやめました!

冬塚おんぜ

第七十一話 「あたしにいい考えがある」


 決闘が終わって魔女の墓場も帰った後。
 俺達は、ルーザラカをはじめとする六人の魔女共に事情聴取を行なった。

 色々と話し合った結果、最初の質問はこれだ。

「まず、魔女会サバトの参加者は、これで全員か?」

 魔女達全員が首を縦に振る。

「真偽判定したいけどダイスが無い……」

 メイ。お前は何を言ってるんだ?
 なんでダイスが必要なのか、皆目見当がつかないんだが。
 その気になれば、本音を吐かせる事なんて造作も無いだろ。

「嘘をついたら、口では言えないアレとかソレとかやるからな」

 と言ってやればいいのだ。
 それみろ。ルーザラカ達が涙目だ。
 みんなはドン引きしてるが、なあに、汚れ役を請け負うのも俺の仕事だ……。

「う、嘘ではないのじゃ! 本当に、わらわ達で全員じゃ!」

「石版の予言によれば、魔女会は三十名以上で執り行われるとされているんだが」

「それは大魔女会じゃ。小魔女会はこれくらいの人数なのじゃ」

「それ適当にでっち上げた話じゃないよな?」

 中にはそういう捏造も、なきにしもあらずだからな。
 もしも嘘だったら、殺しはしないが……。
 泣くまでくすぐり続けてやろうかな。
 ここで、メイが俺の肩を叩く。

「大丈夫だよ、シン。小魔女会はあります!」

「方々から怒られそうな口調はやめて差し上げろ」

「待て。何故、そやつが知っておるのじゃ」

「今はいいでしょ。で? 君達で全員なんだね?」

「くどいぞ。いっそ、全員で名乗るべきか?」

「別にそれはいいよ」

 名前とか訊いても覚えられる自信がない。
 そもそも本当の名前を言うのかも怪しいしな。
 だから、敢えて質問事項からは外したのだ。

 とりあえず、その真偽判定とやら(ダイスなんていらなかった)は終了だ。
 結局ヴェルシェが現場検証をしてくれて、証言と一致した形だった。
 ルーザラカ達は、俺達を騙すつもりは無いらしい。

 というワケで、次の質問だ。

「アンタ達、ルーザラカとはどういう関係なの?」

 この質問から得られた回答は、実にバラエティに富んでいた。
 ルーザラカの逃亡劇に同行した奴とか、この北の最果て付近に居を構えている奴とか。
 はたまた故郷に居場所が無くて魔王城に居候していたが、派遣先が北の牢獄街に決まった奴とか。
 誰もが、ルーザラカとは直接的な関係の無い奴ばかりだ。

 ただ一人、若い魔女達ばかりの中でひときわ異彩を放つ、老婆の姿をした魔女を除いては。

 その老婆は、不老不死や若返りの秘術を研究する前段階として、死霊術ネクロマンシーの研究をしていたのだ。
 ルーザラカとは付き合いも長く、コイツがリントレアに現れる前から交友関係にあったらしい。

 で、亡霊共とコミュニケーションを取れたのも、この婆さんに教えてもらったお陰だとのこと。

 なるほど。
 ちょっと、この婆さんは要チェックだな。
 次の質問も、自ずと順番が決まってくる。

「それぞれの得意分野を教えてほしいッス」

 これに関しては、ちょっと微妙だった。
 何が微妙って、今後の魔王軍との戦いで助けになりそうな魔術の持ち主が誰もいないのだ。

 石化に関する能力も、誰も持ってなかった。
 だがせめて、知識だけでもと思ったんだが。

「石化を解呪する方法を、どなたかご存知ではありませんか?」

 駄目だった。
 この質問も、全員がノーと答えた。
 やっぱり、そうそう上手くは行かないもんだな。

「そもそもお前ら、なんで魔女になったんだよ」

 これの回答も様々だが、みんな私利私欲によるものだった。
 まずルーザラカ。
 コイツは冬の聖杯の守人に一目惚れして、彼の気を惹くための力が欲しいのが理由だ。
 他は要約すると……。

 不老不死と若返り。
 ムカつく奴をボコりたい。
 タダ飯食いたい、働きたくない。
 誰とも関わらずにソロで冒険するだけの十分な力がほしい。
 手っ取り早く魔女チートで百合ハーレムしたい。

 ……うーんこの。
 正直なのは大変結構なんだが、もう少しお涙頂戴エピソードみたいなのをだな!
 相対的にルーザラカが一番まともっていうのもどうなんだ。

「魔王討伐に協力してくれる人は、いるかな?」

 というファルドの質問に至っては、みんなして顔を真っ青にして首を振った。
 みんな魔王の力を直接体験してるワケだし、中には魔王に忠誠を誓ってる奴だっているだろう。

「そっか……」

「ファルド君、この魔女達は割と自己中だから駄目だと思うよ」

「うーん。あんまりそういう言い方しないであげようぜ」

「優しいんだね、ファルド君は」

 やたら含みのある言い草からは、メイと魔女の因縁浅からぬ関係性が伺える。
 色々、酷い目に遭わされてきたみたいだからな。
 皮肉の一つも言いたいんだろう。

「ところで、君達は人殺しは経験した?」

 メイの突拍子もない質問に、全員が固まる。
 それから少しして、魔女達は口々に殺人を否定した。

「嘘か本当か調べる方法はいくらでもあるからね?
 寒空の下で柵に吊るして、両足に少しずつナイフで切れ込みを入れる拷問方法があってさ。痛いんだよね~、アレ」

「ううううぅぅぅ嘘では、嘘ではない! まだ、まだ殺してはおらぬ!」

「あはは。信じてあげるよ。今回だけは」

「メイ」

「なぁに?」

「もういいだろ」

 イライラしてるのは解るが、その辺にしてやらないと。
 それこそ、さっきルチアが言ったように同じ穴のムジナだ。

「で? どうするんだ、この奴隷セット」

 俺はみんなに、人数分用意された首輪と指輪を見せる。

「どうすると言われましても……」

「付けるの? それ」

「多分、満場一致で反対なのは確定的に明らかなんだが、それを踏まえてだな」

 わざわざ魔女の墓場、というかエリーザベトの思惑に乗るのも癪だ。
 とはいえ、このままお咎め無しで解放するのも違うだろ。
 特にコイツらは、確実に何かをやらかしてきた組だろうし。

 議論は長引いた。
 実はさっき質問事項を決める時もちょっと揉めたんだが、後回しにする事でひとまず落ち着いたのだ。
 再び蒸し返したのだから、やはり揉めに揉めた。

 メイが、突如として右手の人差指を立てる。

「あたしにいい考えがある」

 何その不穏な出だし。
 どこの司令官ですか。


 *  *  *


「結局、あいつらの口車に乗ってるじゃない!」

 アンジェリカは激怒した。
 アンジェリカには政治がわからぬ。
 だが邪悪とボケに対しては、人一倍に敏感であった。

 メイの言う“いい考え”とは。

「待遇改善を謳うなら、まず、あたし達が手本を見せたらいいんだよ」

 これ。
 文句があるなら自分でやってみろというよくあるアレを、実際にやってみちゃった感じだ。
 まあ筋は通ってるとは思うんだが、なんだか妥協に妥協を重ねた感がすごい。

 死ぬほど脅しておきながら、手本を見せるって言われてもな。
 何とも白々しい。

「確かに奴隷にするのは賛成ッスよ?
 でも、本人達に世界を救う気がないのに連れて行くのは、冒険の重荷にならないッスかね?」

「ん~、甘いねヴェルシェちゃん。あたし達は勇者のパーティ。
 勇者が動くことで、みんなの心に働きかけることだってできる。あたし達の役目って、言ってみれば“きっかけ”でしょ?」

「そんなに上手く行くもんスかねえ。どうッスか、シンさん」

「いや、俺に振るなよ」

「ここは石版の預言者に意見を求めるのが一番ッス! 自分、信用してるッスよ!」

 俺の左手を、ヴェルシェが両手でぎゅっと握る。
 いやに積極的だな。

 対するメイは――あ、笑顔。
 しかし、威圧感がハンパない。

「ヴェルシェちゃん、どうしちゃったの? 急に臆病になっちゃって。らしくないんだ~」

 メイも対抗して、俺の右腕に抱きついてきた。
 豊満なバストの感触が、ふにっとした感じの感触が。

「シン君は、わかってくれるよね?」

 仮面越しの上目遣い、くっそ、反則だ!
 据え膳にホイホイと手を出してなるものかよ!
 紳士の心、紳士の心を忘れるな。
 ……ふぅ。

「シン、まんざらでもなさそうだね」

「あの色ボケは放っておきましょ」

「そうだね」

「胸板と上腕二頭筋の乱舞……あ、鼻血」

 ルチアはアレか。
 もしかして両脇の二人を男体化させる妄想でもしてるのか。
 今後を決める大事な局面で、どいつもこいつも非協力的だな、オイ!

 もう(この議論を)ゴールしても、いいよね?

「預言者として、裁定を下す。
 この魔女達を暫定的に奴隷とし、まずは友達からはじめましょう」

「最低な裁定ッス。断固、意義を申し立てる所存ッス。そこの魔女! お前の罪を数えろッス!」

「え、わらわかえ!?」

「そうッスよ、ルーザラカさん。いや数えても言わなくて結構ッス」

 そしてヴェルシェの、両手を広げて振り向く新世界の神ポーズ。
 なんなんだ。流行ってるのかそれ。

「皆さん! 今まで自己中心的に生きてきた奴らと、どうして友達になれるッスか!」

「私もどうかと思うわ。だって、この人達が魔女になった理由、聞いたでしょ」

 メイは二人の異議申し立てに、少しも動じる気配が無い。
 ドヤ顔のまま、人差し指を左右に振る。

呉越同舟ごえつどうしゅうって言葉、知ってる?」

「ま、まあ、知ってるけど……」

「何か問題でも? 冬の聖杯の守人はルーザラカだよ?
 目を離した隙にまた石化なんてさせられたら、それこそマズいことになっちゃうじゃん」

「あんまり打算的な考え方はしたくないけど、俺も賛成するよ」

 ファルドはメイに賛成か。
 すると、メイ、俺、ファルドの三人が『奴隷魔女の待遇の模範を示す』案に賛成って事だな。
 反対派はヴェルシェとアンジェリカ。

「ルチア、アンタはどっちに付くのよ?」

 自身の鼻にヒールをかけている、みっともない姿のルチアがビクリと跳ねた。
 まさかここまでの話、上の空だったとかじゃないよな?

「えっと、私は……」



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