自作小説の世界に召喚されたので俺は未完放置する(エタる)のをやめました!

冬塚おんぜ

第四十五話 「此処だ! 私だ! 私を見ろ!」


「勇者ファルド・ウェリウス殿!」

 アレクライル王国城下町付近の草原、飛行船発着場(仮)にて。
 飛行船から下りる俺達をハイテンションで待ち構えていたのは……。

「此処だ! 私だ! 私を見ろ!」

 頑丈そうな鎧に身を包んだ、ショートヘアの女騎士だった。
 乗馬ズボンなのも相まって、いかにも洋ゲーにありがちな装備に見える。
 細身で、顔も綺麗系なんだし……こういう無骨な出で立ちはちょっと勿体ないような気がしないでもない。

 そんな女騎士が、周囲に三十人くらいの騎士達を従えていた。

「えっと、はじめまして……連合騎士団の人達ですか?」

「然様! お初にお目に掛かる!
 私は連合騎士団“赤の隊”隊長、テオドラグナ・カージュワックである!」

 女騎士――テオドラグナの名乗りを受けて、俺達も挨拶する。

 こんなキャラはもちろん知らない。
 原作でも“くっ殺系”の女騎士枠は一応いるにはいるのだが、全然違う奴だ。
 オフィーリアって奴で、時期的にはそろそろ仲間になる筈なんだが。
 本来はフォボシア島の攻略で三ヶ月くらい経っている筈だし、もう少し待ってみると会えるかな。
 まさか尼寺に行った挙げ句、川で入水自殺なんてしてないと思いたい。
 名前の元ネタ的な意味で。


「勇者殿、貴公を男と見込んで頼みたい。ひいては、サザンギア要塞へとご同行願う」

「サザンギア要塞、ですか」

「書状を見ただろう」

「そうですけど、俺達だけで行くって話だったような」

 ゆうべ俺達が急遽起こされ、Uターンを命じられたのは他でも無い。
 サザンギア鉱山に隣接する要塞が魔物に占拠され、逃げ延びた連中から救援要請が出たのだ。

 とはいえ王国側も、飛行船からの火力支援では要塞を破壊してしまう。
 鉱山の作業員が人質に取られているかもしれない状況で、それはまずいという事で、あくまで砲撃に頼らない方向性で奪還する。
 そこに白羽の矢が立ったのが、勇者一行というワケだ。
 肩書きに伴った活動をしてきなさいって事だな。

 冷静に考えると、中々の無茶ぶりだ。
 それこそ飛竜兵でも使ったらいいんじゃないかって思うんだが……。
 などという俺の苦悩を余所に、テオドラグナは続ける。

「そこを何とか! 私も連合騎士団の端くれゆえ、腕はそこらの冒険者には決して劣らぬつもりだ。
 が、勇者を友軍に迎え入れられるとすれば、これほど心強い味方も居るまい?」

 どうやら本来は予定に無い所を、この女騎士も一緒に行く事にしたらしい。
 確かに心強いが、王様からの許可は取ってるんですかねえ……。

「ていうか、友軍に迎え入れるって。ファルドがテオドラグナさんを友軍に迎え入れるならまだしも、普通は逆――」

「――そうだろう!? そうだよな!? なあ、貴公! 貴公! 貴公!」

 何ちゃらトレインみたいな動きを高速でしながら、周囲の兵士達を指差して呼び掛けるテオドラグナ。

「カージュワック卿の仰る通りであります!」
「それがしも、卿のご慧眼に一点の曇り無しと愚考する次第!」
「この誘い、断る理由があるだろうか! いや、皆無なり!」

 また凄い連中が来ちゃったな。
 オタサーの姫よろしく、どいつもこいつもイエスマンばっかりだ。
 よく見ると女の兵士も混じってるが、些細な問題だろう。

「ジラルドさん、あいつら……」

「シン、それは言わない約束さ。あの生き方、アレはアレで痺れるってものだろ」

「そろそろ“痺れる”の定義がゲシュタルト崩壊しそうなんですが」

「大いに悩んどきな。そうやって、人は成長するのさ」

 ……俺はこんな事で悩みたくない。


「して、どうかな? 勇者ファルド・ウェリウス殿」

「ファルドでいいですよ」

「噂に違わぬ謙虚な青年と見た……ならば私の事もドーラと呼ぶが良い!」

 四十秒で支度しなきゃいけないかな?
 こっちのドーラお姉さんはどう見ても、くっころ系の女騎士だが。

「カージュワック卿のお許しが出たぞ!」

「何と寛大なお心か!」

「ファルド殿に嫉妬を禁じ得ない!」

 うるせえ!
 こいつら、うるせえ!
 最近ちょっとシリアス展開が続いたと思ったら、これだよ……。
 騎士っていうのはどいつもこいつも、脳筋じゃないと務まんねーのか?

「ちょっと、何勝手に決めてるんですか」

 アンジェリカが前に出る。

「貴公はアンジェリカ・ルドフィート殿で間違いないな?」

「そうですけど」

「確かに不躾な要求であった事は謝罪せねばならぬ。すまなかった」

「へっ!? あ、わ、解ればいいんですよ! いやそうじゃなくて!」

「良き戦友のようだな。ファルド殿」

「幼馴染みですよ」

「然様であったか。なればこその、厚い信頼関係と見える」

 などと勝手に納得するドーラ。
 いや多分、アンジェリカが言いたいのはあだ名で呼び合う間柄の事を言ったんじゃないかな?
 そこに、もう一人めんどくさい奴が飛行船から下りてきた。
 まったく、どこで油を売ってたんだか。

「ふぇー! 女騎士さんッスよ! 珍しいッス!」

「そうかあ?」

 ファンタジーじゃ割とありふれてるだろ。
 何故か、この世界じゃあんまり見掛けないが。

「然様。戦場いくさばにおいて、女は少ない。身体の構造的にどうしてもな。月に一度のアレがあるだろう?
 戦士しかり、魔術師しかり、それに悩まされ、本調子でないまま宿を探さねばならぬ事も多い」

 やだ、ちょっとこの女騎士さんったら。はしたないわ。
 不意に始まる、世界観によるセクハラパート2……。
 しばらく来なかったから油断してた。

「それに碌に処置をせぬまま冒険を続けて、血の臭いで魔物に気取られる事もままある。そして内容は伏せるが、色々な不幸がな……」

 すごいな。
 この、なけなしの幻想を次々とブッ壊しに来るスタイル。

「他にもあるぞ。男達によって、女冒険者を巡る諍いが起きる。お陰で貞操帯の価格は高騰する一方だ。全く嘆かわしい。
 何をどうとは具体的に指し示すのは、やめておこう。ウブな殿方には刺激が強すぎるな」

 ドーラお姉さんが、そう言って俺とファルドに目配せする。

「それでも私達が戦うのは、男の理屈と戦う為である! 男と結ばれるだけが女の幸せと考える輩の何と多い事か!
 私は一人でも多くの、そういった頑迷な者達の目を覚ましてやりたいのだ。あ、ちなみに性別は不問だ。迷信に育てられた女も多いからな」

 呆れる俺やドン引きしてるファルドとは違って、他のメンツは頷いていた。
 ルチアに至っては、発言の内容をメモしてる。
 女子組は、きっと何か思うところがあるんだろうな。

「気が合いそうですね。私達」

「ほう。アンジェリカ殿も、賛同してくれるか」

「開けっぴろげ過ぎるのはちょっとですけどね。女の子だけの時ならまだ解りますけど」

「それでは伝わる物も伝わるまい。“おあいこ”に持ち込むのが私のやり方だ。
 奴等の尻に棒を突っ込んででも、思い知らせてやるさ」

 この人、ちょっと過激すぎませんかね……。

「なるほどッス! つまり男の方々が下半身の話しかしてないからいけないんスね!」

「おうクソエルフはちょっと黙ってろ」

「どいひーッスぅううう!」

 いやしかし、ドーラは曲がりなりにも赤の隊を統率する立場。
 かなりの信頼を集めているのかもしれない。
 この手の女傑は、女性に人気があるもんな。
 ドーラの場合、お下品すぎるのが玉に瑕だが。

「ところで、ドーラさんと一緒に行くって話は王様に通ってます?」

 というアンジェリカの質問に、ドーラは顎に手を当てて考え込む。

「アポ無しですか!」

「あっはっは! すまん!」

「すまんじゃねーよ!」

 あ、やべ、つい言っちまった。

「カージュワック卿に何という暴言!」
「こやつめ、口の利き方を知らぬと見た」
「いかに勇者殿の仲間といえど!」
「我ら、容赦はせぬ!」
「覚悟めされよ!」

 どうしよう……。
 そこに、ドーラが割って入る。

「や め な い か」

 なんでアクセントが某自動車整備工みたいな感じなんだろう。

「連絡不足は私の落ち度だ。素直に非を認め、陛下に許可を求めてくる。皆の者、しばし待たれよ」

 と言って、ドーラは飛行船の入り口へと向かう。
 だが、途中で足を止めた。

「良いぞ。儂は許可する」

 出入り口から、王様がひょっこりと顔を出してそう言ったからだ。
 この王様も大概ファンキーすぎるところあるからなあ。
 そして王様が飛行船の内部に戻る。

 ドーラは無言のまま右の拳を天に掲げた。
 取り巻きの騎士達が、そこに拍手する。

「おめでとうございます!」

「おめでとうございます、カージュワック卿!」

「私は、やったぞ!」

「……ねえ、急ぎませんか?」

 と、ジト目で眺めるアンジェリカ。
 それには俺も同意せざるを得ないな。
 だが、ここで一つ問題がある。

「どうやって向かうんだよ。まさか徒歩とか馬車とかじゃないよな?」

 という俺の呟きを、ドーラが耳ざとく聞き付けた。

「安心しろ! 馬を使う!」

「ちょっと待って下さい! 飛行船は!?」

 またしても、ファルドが飛行船にこだわる。
 何かここまで来るともう、偏執的な何かを感じるな。
 モードマンから駄目出しされたのが、未だに後を引いているのか?

「空から行けば魔王軍の目に留まる。人質が死ぬかもしれん。
 今は取り残された兵士が時間稼ぎをしているだろうが、それが無駄になってしまう」

「だったら尚更、こんな所でくっちゃべってる余裕なんて無いでしょ! 行くわよ!」

「馬の手配の合間に時間つぶしをさせて貰った」

 いつの間に!? ドーラさん実は有能だった説。
 まあ、有能じゃないと騎士団の一部隊なんて任されないか。

「儂が手配しておったのだが」

「陛下、ありがとうございます」

 前言撤回。
 やっぱドーラさんポンコツだった……。



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