自作小説の世界に召喚されたので俺は未完放置する(エタる)のをやめました!

冬塚おんぜ

第四十六話 「そういう意味じゃねえ」


 馬車と違って、馬での移動は早い。
 足の速い馬を使っているのもあるんだろうが、何より小回りが利くのと寄り道を一切しないからだろうな。
 二日ちょっとでカロン平原まで来てしまった。
 そのまま南東へと突っ切る。これでようやく、道のりの半分だ。

 騎士さん達の汗臭そうな鎧にしがみつかなきゃいけないのは、この際だから我慢しよう。
 乗馬の経験なんて俺には無かったんだし。ヴェルシェも同じらしい。

 ファルドやジラルド、ビリーは普通に乗りこなしていた。
 特にファルドなんてアンジェリカを後ろに乗せていながら、普通に走らせている。

 ……意外だったのは、ルチアも馬を乗りこなせている事だ。
 何処で乗馬なんて習ったんだろうな。貴族の真似事で、親父のドナートに覚えさせられたのか?
 ヴェルシェは、そんなルチアの後ろに引っ付いている。


 そんな感じで暫く進むと、見えてきました。


 山の麓に連立する、六本の塔が。
 それを、石壁が取り囲んでいる。
 まさしくその姿は、要塞そのものだ。


「ちょっと規模が大きすぎるんじゃないですかねえ……」

 おっかしいな。
 サザンギアは確かに地図まで作ったが、縮尺を間違ったかな?
 軽く、五千人は収容できちゃう規模だぞ。
 この砦を作った奴に某スマホゲーをやらせたら、絶対に廃人になるだろ。
 だが、ドーラは全く恐れる素振りを見せない。

「正面から行くぞ」

「馬鹿じゃねえの!?」

 あ、やべ。また口が滑った。
 取り巻き騎士達の視線が痛い。
 だが、俺は何も間違った事は言ってない。言ってないよな?

「俺も、シンと同意見です。ドーラさん、考え直しませんか?」

「私もそう思うわ」

「ふむ、妙案だと思ったのだが。やはり危険か。夜まで待って、正面から夜襲を仕掛けるべきか?」

「何故、正面にこだわるのか」

 ツッコミせずにはいられない。
 ジラルドなんてルチアやビリーと内緒話しながら、ドーラを指差してるぞ。
 だが、ドーラは全く動じない。

「鉄拳騎士の末裔ゆえ、姑息な手段を用いる訳には行かぬのだ」

 はい、知らない単語来ました。
 誰だよ鉄拳騎士。冒険が落ち着いたら、歴史書でも漁るか……。

「カージュワック卿は常に正しい判断をなされる」
「然様! 突撃したかと思えば、その疾風怒濤の如き渦中にて、的確に事を運んで下さる」

 などと取り巻き連中は言うが……。

「それってみんなが空気を読むの前提よね!? 部外者を交えたら崩壊するパターンよね!?」

 アンジェリカが代わりにツッコミを入れてくれた。
 さっすがツッコミ専門はキレがあるな。

「……」

 黙る取り巻きズ。
 みんなで互いに顔を見合わせて、どうしようか迷っている。
 ファルド達も、各々で考え事をしているようだった。
 そんな中、ヴェルシェが沈黙を破る。

「自分は、賛成ッス」

「ヴェルシェ?」

「ようするに、ドーラさん達が正面から突撃している間、自分達は別行動しても問題無いって事ッスよね?」

「そうなるわね」

「だったら、自分達は自分達で、やる事やってればいいんスよ。
 ドーラさんの武器が判断力なら、自分達の武器は固い絆ッス!」

「あのさ、いいこと言ったつもりなんだろうけど……」

「つもりって何スか!?」

「だって。この人達はこの人達で、固い絆で結ばれてるから無茶な作戦も通るって考え方もできるじゃない」

「これ以上何をどう考えろっていうんスか! ぐぅ!」

 その場に泣き崩れ、砂利を投げるヴェルシェ。
 オチの付け方としては、まあ及第点かな……。

「それでリーダー!」

 秒速で立ち直るヴェルシェ。
 こいつのメンタルは、きっと形状記憶合金製だ。
 呼ばれたファルドのほうは、きょとんとした顔をしている。

「お、俺の事?」
「そうッスよ、ファルドさん! 自分は別に、夜襲でもいいと思うッス。皆さんは?」

「地図なら石版に載ってるが……」
「さっすがシンさん!」

「具体的な作戦は、これから詰めていく感じか」
「そういう事ッス」

 親指をグッと立てるヴェルシェ。
 随分と得意気にしているが、ジラルドが涼しい顔でその肩に手を置く。
 しれっとボディタッチしても嫌がられないのは、伊達男の風格が成せる業なのかね。

「人質はどうするんだい? 要塞を占拠した連中は多分、俺達の姿を見てるぜ」

「それも含めて、自分が何とかしてみるッス」

 任せろって言われてもな。
 ファルドも同感だったらしく、小声で話し掛ける。

「教えてくれ。ヴェルシェは何を?」

「忍び込んで、ちょっくら下ごしらえをしてきちゃおうと思うッス」

 下ごしらえ。
 ちょっぴり不安になりつつも、俺は同意した。
 多分きっと、他の連中も同じ感情を抱いているんじゃないだろうか。

 だが、ドーラは全く動じていない。

「知略に優れた軍師か。なるほど。仲間こそが最大の武器とは、よく言ったものだ」

「そうッスよ! ここは一つ、有能な自分がちゃちゃっと片付けちゃうッス!」

「お前はそのビンビンにおっ立てたフラグをしまいやがれ」

「シンさん、自分、女ッスよ。おっ立てるなんて、キャー!」

「そういう意味じゃねえ」

 何を勘違いしてるんだか知らんが、頬に両手を当ててくねくねするのをやめろ。
 誰かコイツの暴走を止めてくれないだろうか。
 俺は周囲を見回す。

「き、貴公……」
「お前さんって奴は……」
「アンタって最低ね」
「見損なっちまったぜ」
「君を軽蔑する!」
「まさかそんな事を言う人だなんて思いませんでした」

 お前等……!
 俺が反論しようとすると、ファルドが手を叩く。

「はい、そこまで! 今は遊んでる場合じゃないだろ!」

「だがファルド殿。これで少しは肩の力が抜けたのではないかな?」

「とっくのとうに抜けてますよ……」

 正直、魔王軍と戦おうというのに気が抜けすぎてる感はあると思う。

 それもこれも、シリアスブレイカーのヴェルシェとかいう奴のせいだ!
 まあ実際、なんやかんやで有能だから信じるけどさ。
 俺は頭が回るほうじゃないし、作戦を立てるならコイツを頼るのは間違いないだろう。
 あくまで俺は、きっかけを与えるのが仕事だ。



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