自作小説の世界に召喚されたので俺は未完放置する(エタる)のをやめました!

冬塚おんぜ

第四十七話 「根拠を言ってみろ」


 その夜、サザンギア要塞の正面入り口にて。
 宵闇を照らすのは、要塞の各所で立ち上る炎だった。

 具体的に何をやったかっていうと。
 まずテオドラグナ率いる連合騎士団は正面に待機。
 俺達勇者組は、要塞の側面に警備の薄い箇所があったのでそこに待機。

 そしてヴェルシェが単身で要塞に潜入、各所に爆薬を仕掛ける。
 人質が捕らえられている場所を発見、見張りを薬で昏睡させて建物内に潜入。
 で、牢屋の看守を次々とスコップで倒し、鍵を奪って牢屋を開放する。
 人質と一緒に脱出するのと同時に、スクロールを使って、仕掛けた爆薬の半分くらいを起爆。
 その際に、城壁の一部を爆破して裏口を確保した。

 要塞を防衛する魔王軍が混乱に陥った所を、連合騎士団が正面から突撃。
 裏口から勇者一行が侵入して挟撃の形を取る。
 連合騎士団が陽動している間に、俺達が合流。


 ――そして今まさに、ヴェルシェも人質を率いて合流してきた所だ。

「一箇所に纏めて捕らえてくれたから、すごーく助かったッス!」

「よくやった!」

 ゴブリン達と戦闘しながら器用に報告するヴェルシェと、それを聞く赤の隊。
 赤の隊は、この程度の戦力なら朝飯前らしい。
 息が上がってる奴は一人もいない。

「聞いたか! 皆の者、私達も続くぞ!」

 ドーラの号令で、攻撃は更に勢いを増していく。
 防衛側のゴブリン達は、すっかり弱気だ。
 小隊長をやってる筈のオークも、赤の隊やファルド達にばったばったと薙ぎ倒されている。

「カージュワック卿! 報告します! 勇者一行が採掘場方面を制圧!」

「この調子で完全制圧だ!」

 後半になると、いよいよ楽勝ムードだ。
 前線で戦うファルド、ジラルド&ビリー、そして俺。

 魔王軍の増援を片っ端から魔術で焼き払うアンジェリカ。
 怪我人が出たら治療していくルチア。
 魔王軍の何割かを引き付けながら、次々と爆薬で罠に掛けるヴェルシェ。
 解放された人質達も、赤の隊から武器を借りて一緒に戦っている。

「キエエエエエエ!」

 雄叫びを上げてやってくるゴブリンを、俺は狙い撃つ。
 真っ直ぐ近付いてきたら、そりゃあ当たる。
 最初の内は心配だったが、意外と何とかなるもんだ。


 だが、それも長くは続かなかった。
 ズシン、ズシンと音が響く。

「――な、なんだ!?」
「破壊した建物からです!」

「どっサァアアアアアイ!」
「ブモオォオオオオィ!」

 瓦礫をぶち破って現れる、三メートルくらいの高さの二人組。
 どちらも、その身長と同じくらいの長さの、大きな斧を持っている。
 一人はサイの頭をしているが、目は真ん中に一つしかない。
 もう一人は牛の頭をしていて、ぶっちゃけミノタウロスそのものだ。

「いい加減にしなサイ!」

「モー! どウシてそんなに貴方達は愚鈍ですの!?」

「クロップス様! モーロック様!」

 ゴブリン達が、二人の名前を呼ぶ。
 いたなあ、こんな奴等……。
 俺はパソコンから魔物図鑑を開き、情報を調べる。

 一つ目のサイ人間が、クロップス。
 ミノタウロスそのものな奴が、モーロック。
 こいつらは二人合わせて“混沌の双覇王”と呼ばれている。
 だがクロップスは目をやられると恐慌状態に陥るし、モーロックは火がトラウマだ。

 ちなみに没設定によれば、アンジェリカが魔女になってから戦う予定だった。
 少しばかり早いが、弱点が判ってる以上それほど苦戦する相手じゃないだろう。
 何より、味方も多いからな。

 ただ流石にあの巨体が二人分もやってくると、勇猛果敢な赤の隊も少し及び腰になるようだ。
 ドーラが騎士団の面々に指差しで指示を送り、物陰に隠れさせている。
 その間にも、クロップスとモーロックは空気を読まない説教を続けた。

「何というサイ低サイ悪な展開! 君達、ボーナスカットですよ!」
「ひいいい! お許しを!」
「死ぬ気で働きなサイ! 本気を出せばこんな連中、お茶の子サイサイでしょうが!」
「千里の道も牛歩からと言いますわよ!」

「それを言うなら千里の道も独歩からッス!」

 ヴェルシェがわざわざ奴等の目の前に出て、モーロックを指差す。
 何か策があっての事だろうが、指摘する意味あるのか?

 しかもそれを言うなら、一歩だろ。
 ボケにボケを被せるんじゃないよ。

 案の定、魔王軍はみんなして「誰コイツ?」って目でヴェルシェを見ている。
 どうやら爆破した犯人だという事実にすら気付いてない。
 雑兵ばかりか、ここも。

「ちょっと! スルーしちゃうッスか!」

「お前うるサイ! 首と胴体をサイナラしたいのですか!?」

「やめてッス! なんスかその妖怪首置いてけみたいな!」

「ん? んん? んんん?」

 俺もちょっと何言ってるか解らん。
 エルフの里で語り継がれた伝承の類いか?

「モーいいわよ! ブチ殺すわ!」

「その案、サイ用します! やってしまいなサイ!」

 あっという間に乱戦になってしまった。
 まったく、堪え性の無い連中だ。

「傾向と対策は掴んだ! 皆の者、かかれ!」

「御意!」

「カージュワック卿の御心のままに!」

 こいつらもこいつらだ。
 それしか能が無いのか!
 とはいえそれが作戦として成り立つあたり、やっぱり実力者なんだと思う。
 実は事前に示し合わせていて、臨機応変に動けているのかもな。

 俺は、物陰で待機中のルチアのほうへ駆け寄る。

「今のうちに、ホーミング・エンチャントを頼む」

「あ、はい。標的はどちらに?」

「あのでっかいサイの化け物いるだろ。そいつの目に」

「解りました」

 何処に撃っても命中する仕様なら……。
 俺は、適当な木箱を使って屋根の上によじ登る。

「ちょろいもんだぜ」

 そのつぶらな目を潰してやる。
 真上に放った太矢は、ひゅるひゅると山なりの軌道を描く。
 そして――。

「んひいいいい! サイ悪!? 真っ暗で何も見えない!?」

 ドシンと倒れたクロップスは、そのままのたうち回る。
 モーロックやゴブリン共は慌てるばかりで、まったく助ける様子が無い。
 そうこうしているうちに、ジラルドがクロップスに魔術を使用した。

 眩い光と共に、クロップスの身体がスパークする。
 あれは原作でも使った、ブリッツショットだな。
 溜め込んだ電気エネルギーを一斉に放出、特定の相手だけを感電させる技だ。

「スネーキーフレイム!」

 アンジェリカの範囲攻撃で、ゴブリンとモーロックも丸焼きになる。
 ゴブリン共は完全にくたばったみたいだが、混沌の双覇王(笑)はまだ息があるな。


 ――だが、そろそろとどめという所で。

「ンだあテメー等!」

 月の浮かぶ夜空から、乱入者が現れた。
 禍々しい鎧に包まれ、チェーンソーを持った騎士。
 頭を覆い隠す兜は、先端が鳥のように尖っていた。
 そのチェーンソー野郎が、翼をはためかせて降りてくる。

「根性無しのボンクラ共が! 給料減らしちゃうヨォ? いいのかナァ? こーの、バカヤロッ!」

「ごめんなサイ!」
「ンモーし訳無い!」

 息も絶え絶えだったクロップスとモーロックは、そのままの姿勢で謝罪した。
 それだけなら気の抜けたコントだが、今はそれを馬鹿にしている場合じゃない。

「あー、あー。勇者君。聞こえてっか?
 中々に腕を上げたみたいだが、オレはよ……もうちょっと頑張りを見せて欲しかった」

「……」

 全員が、そいつを緊張の面持ちで見ていた。

「てっきり、勇者達だけで来るかと思ったら、こんな大所帯まで引き連れちまって!
 なあ? 期待はずれもいいところだゼ。だってこんなの、ズルじゃん!?」

「何を言ってるんだ、お前は!」

「脂の乗った勇者の肉をバラしてェ、魔王様に届けるのがオレの役目なんだよ! ヒャーハハハハァ!」

 俺はその台詞の内容を一つ一つ整理した。
 いつかにファルドから聞いた“黒い鎧”というのは、十中八九コイツの事だろう。

 だとすれば、カロン平原で戦った時にコイツが言ったであろう「素質はあるようだな」という呟きは、脂の乗った勇者という発言に繋がってるのか。

「つーワケで、お前は勇者の器じゃ無ェ。魔王様と兄貴はまだ待てって言ったが、オレぁもう待てねェ!
 次の勇者を見繕って貰う! だからお前は殺処分な! ハイ決定! ブッ殺す!」

 黒い鎧は勝手に決め付けて、ファルドを指差す。
 右手に持ったチェーンソーが、ブロロンッとエンジン音を上げた。
 エンジンの排気口からは、赤黒い煙が出ている。

「狼狽えるな! まずはデカブツから殺せ!」

 ドーラの指示に従って、赤の隊がきびきびと動き出す。
 その間にも、ファルドと黒い鎧の睨み合いは続いていた。

「あれェ!? ビビっちゃった!? ビビっちゃったのかな!?
 あっちの女はオレなんてシカトして、勝手に解体ショーをおっぱじめやがったのに?」

「いつでも俺達を殺せる、そんな余裕がお前からは感じられる……!」

 そういえば、ファルドの剣はメダルが光っていない。
 ボスを相手にしたなら、普通は赤く光るのに。
 敵意は無いって事なのか、それとも俺が持った時から故障しちまったのか。

「早くしねーと、バラバラだぜぇ?」

「……」

「それともお前、先に仲間をバラバラにして欲しかったのか! それならそうって言えよ! ギャハハハ!」

 黒い鎧が地面を、ダンッと踏む。
 すると、赤黒い光の筋が幾つも生まれてあちこちに飛んでいく!

「あぁう――っ!」

 アンジェリカが一瞬で、切り傷だらけに……!?
 いや、バラバラにはなってない!
 皮膚を掠っただけだ!

 ダンッ。
 黒い鎧は続けてもう一度、地面を踏む。
 今度は、黒い鎧に背後から忍び寄ろうとしていたジラルドとビリー、そして壁際でクロスボウを構えていたルチアまでもが切り傷だらけになって吹き飛ばされた。

 やっぱり、バラバラにはされてない。
 どうやら黒い鎧は、完全に相手を舐めきっているようだ。
 お陰で命拾いしたとも言えるが、次は無いかもしれない……!

「ほら、次は――」

「――うおおおおああああッ!!」

 ファルドが雄叫びを上げて、黒い鎧へと走り寄る。
 乱暴に振り回した剣はしかし、鎧を掠めてすらいない。

「くっ、当たれ、このお!」

「ホラホラ、どうしたァ! それが勇者の戦い方かよ、みっともねー! ヒャーハハ!」

 ああくそ、挟み撃ちとかできたらいいのに!
 レイレオスとコイツの相対的な実力差が判らないから、迂闊に手を出すのも憚られる。
 ていうか、あの時は奇跡みたいなものだったし……。


 ――いや待て、よく考えろ、俺!
 俺達の最大の武器は、信頼関係の上に成り立つ連携だろ。
 途中でグダグダになろうが何だろうが強引に勝利をもぎ取る……執念の連携だろ!

 できるか、できないかじゃない。
 やらなきゃいけないんだ!

 特別に頭が良くなくても、応用力に優れてなくても、俺ができる全てをやらなきゃいけない。
 だって俺は、この世界を何割かは知っているんだから。
 パソコンで原作を見る。
 何度も目を通したから、該当シーンを探すのは朝飯前だ。

 よくよく考えてみて、俺はさっきの技の特性をやっと思い出した。
 原作の事を考えないようにしていたが、序盤から出てきていた黒い鎧については心当たりがあった。
 魔物図鑑と照らし合わせて、俺は疑惑を確信に変えた。

「おい、そこの黒い鎧! いや――お前の名前を知ってるぞ!」

「ああァ? 誰だテメー」

「俺はシン! お前を誰よりも知ってる男だ!」

 俺は黒い鎧を指差した。

「そしてお前は、黒血の騎士グラカゾネク! あの技でやっと解ったよ、お前の正体がな!」
「――!」

 グラカゾネクの動きが、ぴたりと止まる。
 ファルドの剣がそこに振り下ろされるが、チェーンソーに受け止められた。

「よく知ってるじゃねェか」

 だってお前を作ったのは俺だし。
 流石に魔王の名前までは設定してないから、知らないが。

「魔王の側近、兄貴分として静寂の騎士ドゥーナークを慕っている。
 そしてお前の繰り出したあの技は、ドゥーナーク直伝の一閃車輪喰裂ソードサイクロン!」

 なりきり掲示板で俺……いや、夜徒ナハトが使った技だ。

「だが使いこなせていないから、相手がお前に恐怖していないと充分に威力が発揮できない!」

 グラカゾネクは、肩をすくめる。
 それが図星を突かれたときの癖だって事も、俺はよく知っているよ。

「……で? お前それ、マジだと思ってんの?」

 そうやってしらばっくれる所まで、何もかも既定路線だ。

「生憎と大真面目だよ。お前がよく勝手に暴走して、ドゥーナークにお仕置きされてる事だって知ってる!」

「ハアッ、出任せ抜かしやがって!」

 などと言ってるが、ばっちり動揺してるの見て解るからね?
 魔女の墓場に比べて、魔王軍の安定感。

「カグナ・ジャタと反目し合ってる事だって俺はお見通しだ!
 もう少ししたら俺達は、カグナ・ジャタとやりあうだろう。そいつを無事に倒してやる」

「根拠を言ってみろ」

「断言させてもらう。石版の予言者としてだ! 世界の何割かは、この石版が知ってるぞ!」

「……ク、クカカカカカ! ヒャーハハハハ!」

 グラカゾネクが腹を抱えて笑い出す。
 気が付けば、奴の手元のチェーンソーは動作を止めていた。

「気に入ったゼェ! やってみろ! しくじったらその場でバラバラにしてやるからよ! ギャハハハ!」

 高笑いと共に黒い翼をバサッと広げ、飛び去っていく。
 奴は歯が立たない強敵だったが、ひとまずは難を逃れたのだ。

 その後は消化試合。
 ルチアが全員にヒールとリゲインをかけてから、作業再開だ。
 わんさかいた魔物共を、片っ端から片付けていく。
 あっという間に殲滅だ。


「みんな、ごめん……俺が弱かったから、要塞の解放が途中まで上手く行ってて調子に乗ってたから……」

 ファルドががっくりと肩を落とした。
 いや、そうじゃないんだ。そうじゃないんだよ。

 お前は何も悪くない。
 アイツは原作でも、そういう予定で登場させていたんだ。
 敵が全体的に強くなっているこの世界では、グラカゾネクも相対的に強化されてるに違いないんだ。

「充分頑張ったよ。俺なんかより、よっぽど」

 だから俺は、ファルドの肩に手を置いた。

「でもさ! やられたんだぜ、みんな……」

「まあ、待て」

 今にも泣きそうなファルドを、ドーラはすまし顔で見返す。

「ひとまずは、連中の戦力を削ぎ落とす事に成功したのだ。こちらは一人も犠牲を出さずにな」
「それには自分も同意ッス」

 ヴェルシェがそこに頷いて、ファルドの両手を握る。

「ファルドさんの剣にメダルが赤く光らなかったッスよね?
 もしかしてその気になれば皆殺しに出来たのを、敢えてやらなかっただけかもッス」

「……」

「じゃ、強くなって見返してやればいいッス。
 殺そうとしても殺せないくらい、強くなればいいんスよ! 奴が本気を出す前に」

「それも、そうか……」

 ファルドが顔を上げる。
 何とか立ち直ってくれたみたいだ。


 俺達はそのまま、砦に寝泊まりした。
 ドーラ曰く、朝には出発するという。
 もう少しくらいゆっくり寝かせて欲しいね。



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