自作小説の世界に召喚されたので俺は未完放置する(エタる)のをやめました!

冬塚おんぜ

第六十一話 「そうだね、運が悪かった」


 謁見を済ませた俺達はボラーロに直行した。

 せいぜいメイの武器として、ドレッタ商会のクロスボウを買っただけだ。
 服のほうはメイ本人の希望により、先延ばしって事になった。


 ボラーロの大通りは既に、活気に満ち溢れていた。
 黒服の人達がたまに俺達をサングラス越しに見てくる。
 俺が見返して挨拶すると、ちゃんと返してくれた。

 とりあえず、人が多いな。
 開会直後の大手ジャンル同人誌即売会みたいに、人がごった返してる。
 なんで今日に限ってこんな多いんだ?
 今からミランダの所に、大事なアイテムを届けなきゃいけないのに!

「裏道から行きましょ。一応、そっちへの道も知ってるから」

 というアンジェリカの提案で、俺達は道具屋の横を曲がった。
 背の高い建物に囲まれた、薄暗い道。
 此処はまさしく、路地裏だ。

 いくつもの分かれ道がある細道を、アンジェリカは迷う事無く歩いて行く。
 そこに、ファルドと俺とメイ、ルチアとヴェルシェの順番で続く。

 前回の時もそうだったが、アンジェリカは地元の地理に詳しいな。
 変なフラグが立ってないといいんだが。

「……やっぱり、表通りから行きましょ」

「今更どうしたんだよ」

「前言撤回ッスか!?」

 俺はアンジェリカの視線の先を辿る。
 そこには、木箱に腰掛けてたむろする、いやーな感じの連中がいた。
 やつらはまさしく、DQN(悪ガキ)共だ。

 そのうちの一人、ウェーブがかった茶髪を片目に掛かるくらい長くした男が、アンジェリカを見ている。
 少しして興味なさげに目を逸らし、不良仲間とのお喋りを再開した。

 お仲間は二人か。
 片方は眼鏡を掛けた癖っ毛の男。真面目系クズのニオイがする。
 もう片方はそばかすの目立つ短パン小僧。ショタ陵辱の薄い本に出て来そう。

 ……湾岸警備隊は仕事してないんですかねえ。
 そしてファルドの剣のメダルは、薄く赤い光を発していた。

 もしかして:イベント戦闘

「こっちは六人だ。行けるよ」

「そ、そうかしら」

 行くって、どこへ。
 ずいっと不良共を横切って進んでいくファルド。
 どうやらスルーの流れらしい。
 俺達もそれに続いていく。すると……。

「――オァイ、学校でセンセーに習わなかったか? 先輩にはしっかり挨拶しろってよォ」

 さっきの不良、ウェーブ茶髪マンが言い放つ。
 ガラの悪いしゃべり方だ。
 魔女の墓場の灰色連中と同じくらいか、それ以上だ。

「先生の教えに反発する不良が言えた台詞かしら。センパイさん?」

 アンジェリカもそれに応じる。
 なーんだ。知り合いか。
 なんて暢気に構えてる余裕は無さそうだ。

「つか、友達多いじゃん。意外だなあ?」

 ファルドはずっと警戒している。
 特に、アンジェリカを近くに寄せていた。
 釣られて、俺もメイを背後に隠す。

 今のメイは身体能力だけで言えば、俺とどっこいくらいだろう。
 だったら、少しでも危険が無いようにしてやらないと。

 進行方向から、別の不良が出て来た。

「ヒューゥ! お熱いジャーン!」

 日焼けした、スキンヘッドに世紀末風味のトゲ付きレザーベスト。
 手には、鎖を付けたトゲ鉄球。

 あっ、こいつ魔物ですね。
 警備隊はマジで何やってんですか。

「逃げられると思ってんの?」

 ファルドはスキンヘッドと残りの三人組を交互に見ている。

「エルフも居るみたいですが、僕達の敵ではなさそうですね」

 真面目系クズが、リーダーに囁く。

「じゃあ俺っち、僧侶狙いで行くよ。弱そうだし」

 そばかすショタ君がにっこりと笑う。
 ああ、ルチアは大丈夫か……!?

「ふ、ふえええ……」

 駄目そうだ。
 ビビってる。

「ま、そゆこと。通行料は、しっかり払って貰わないとなあ?」

 で、出~!
 身の程弁えず喧嘩売奴~!

 多分だが、こいつらは魔法学校の不良生徒だ。
 問題を起こせば、退学にもなるかもしれない。
 ましてや勇者一行に手を出したと知れれば、処刑されるかもしれない。

 一番前のファルドはスキンヘッド鉄球野郎を警戒してるし、一番後ろのヴェルシェは内股になってびびりまくってる。

 ここは一つ、お互いの為に俺が出よう。
 ぶっちゃけ、怖いけど。

「あの。朝会、もうすぐ終わると思うんですが、そしたら、け、警備た――」

「――あ゛ぁ゛ッ!?」

「ひっ!?」

 言い終える前にウェーブ茶髪マンに凄まれる。
 怖え。くっそ怖え。
 高校時代にカツ上げされかけたトラウマが蘇るわ……。
 いや、負けないぞ! 負けないんだから!

「で、でで、ですから、退学になりたくないなら、問題は起こさないほうが、その」

「おい、カキメザ、イルベン、オドネル。そこの黒髪の奴だけシメようや」

「オレよォ~そっちのエルフが気になっちまって仕方ねぇんだがよォ~」

「えっ自分ッスか!? 照れるッスねえ」

 うん、馬鹿エルフは俺を助けてくれ。

「後回し! おう覚悟しろよボケ。雑魚のクセして粋がりやがってよォ! オァッ!! てめーマジで覚悟しとけよ!」

「う――」

 杖を構える俺の真横を、風が吹いた。
 それはファルドだった。
 ファルドが素早く俺の横を通り抜け、不良のリーダー格へと接近したのだ。
 そしてファルドの右手に握られた剣は、リーダーの喉元に突き付けられていた。

「――俺の仲間に指一本触れて見ろ」

「触れたらどうなんだよ? あ? ガキ」

「鮫の餌にする」

 ファルドの声は、今までにない程に低かった。
 灼けるような殺意が、切っ先から溢れ出ているかのような。
 本気で怒っているのだ。

 俺もファルドに合わせて、杖から小さめの魔術を威嚇射撃。
 すると、不良連中は今まで高をくくっていたらしく、目を見開いた。

「げッ、この野郎……!」
「やべーよ! マジで鮫の餌にされちまう!」

 本当は人に向けて撃ちたくはないんだが……まあ、状況的に仕方がないだろう。
 ここに来るまでにちょっとだけ魔術の練習はしたから、誤射は無いと思いたい。

 やがてウェーブ茶髪マンが肩をすくめた。

「……はっ、冗談だよ。その物騒なモン、しまってくれねえかなあ?」

「お前は冗談で喧嘩を売るのか?」

「だからどうした? 勇者サマは堅苦しいなあ」

「次は無い」

「肝に銘じとくよ」

 ファルドは剣を鞘に収め、踵を返す。
 それでも、俺が離れるまではその場に居てくれた。
 不良共を警戒していてくれたのだ。

 次の曲がり角へと入った辺りで、背後から何かを壊す音が響いた。

「あああ! うっぜええ! スカしやがってよォ!」

 という叫び声と共に。
 多分、木箱に当たり散らしてるんだろう。


 *  *  *


「みんな、ごめん。俺が先に進もうって言ったばかりに」

「いいのよ。私も素直に表通りから行けば良かったわ」

「いやいや、俺があそこで変に口を出さなかったら、普通に通れたかもしれないし」

「つまり運が悪かったって事ッスよ」

「……」

 なーんかコイツがまとめると、しまらないな。
 まあ落としどころとしては妥当なんだが。

「そうだね、運が悪かった」

 少し間を置いて、メイが苦笑した。
 それはそうとして、あの不良共はファルドが勇者と知っていながら喧嘩をふっかけてきた。
 どうなってるんだ?

 後先考えない連中からすれば、勇者だろうが何だろうが関係無いのだろうか。
 親に頼めば見逃して貰えるとか思ってるんだろうか。
 確かに高そうな装飾品を付けてたしな。

 何より気になるのは、連中の学校での立ち位置だ。
 訊いておいて損は無いだろう。

「それよりもアンジェリカ、あいつら何者だよ」

 魔王軍、魔女の墓場と既に敵の勢力が二つあるんだから、これ以上は勘弁してくれ。
 俺は情報の整理が得意じゃないんだから。

「見て解るでしょ。不良生徒」

「差し支えなければ、もうちょっと詳しく」

「アンタをシメようって言いだしたのは、ユヴォル・マレッキ。先生がサジ投げるくらいの、札付きのクソ野郎よ」

 あらやだわ、アンジェリカさんったら。
 女の子が“クソ野郎”なんて汚い言葉を使っちゃいけません。

「カキメザがスキンヘッドで、イルベンが眼鏡、オドネルが短パン。以上」

 アンジェリカは吐き捨てるように言って、苦い顔をした。
 ヴェルシェがそれを横から、ハラハラした様子で覗き込んでいる。

「あんな連中、さっさと魔物に食い殺されでもしたらいいのよ」

「魔物がお腹壊しちゃうッスよ」

「どうでもいいわ」

 かなり苦い記憶があるみたいだ。
 それこそ、アンジェリカが学校で孤立する原因を作ったような。

「行きましょ」

 アンジェリカを取り巻く問題も、かなり根深い。
 早いところ、解決しないといけないな。



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