自作小説の世界に召喚されたので俺は未完放置する(エタる)のをやめました!

冬塚おんぜ

第六十三話 「きっと、大丈夫ですから」


 今日も今日とて魔物狩りだ。
 かれこれ一週間は、この近辺の魔王軍を炙り出すべく奮闘している。

「飛竜に乗って、あちこち助けていこう」

 というファルドの提案で、俺達は共和国領を縦横無尽に飛び回った。
 共和国の大地をこの身で体感するのは初めてだ。
 我ながら白々しい表現だが。

 それでなんで共和国かっていうと、奴隷魔女だ。
 この世界における共和国の貴族達は、原作では裏から牛耳っていた魔女を逆に従えてみせた。
 まあそれだけを鑑みるなら、立派な心掛けだと思うよ。

 だがな、魔女にはいい奴もいる。
 望まず魔女にさせられた奴もいる。
 だったら、十把一絡げに奴隷にするのはお門違いもいい所だ。


 まず手始めに、共和国に足を運んで奴隷魔女を実際に見て確認した。
 奴隷市場が毎日のように開かれていて、着の身着のままで連れられてきた魔女達が、後ろ手に縛られた状態でずらりと並べられていた。

 ……ひどい有様だったな。
 みんな死んだ魚のような眼をしていた。

 キリオの話によれば、その調教も惨い。
 ひたすらに精神をいじめ抜き、それまでの人生をまるきり否定して、ろくに食事も与えない。
 たまの外出は、大概が魔女狩りの用件のみ。
 奴隷が魔女を一人でも仕留める事ができたら、そこでやっと褒めるのだ。

 こんなの、人間のする事じゃない。
 奴隷を調教している持ち主連中は、どいつもこいつも楽しそうにしているのだ。
 不倶戴天の敵に復讐するというよりも、己の快楽を満たす大義名分を得たような……。
 許されるものか。
 こんなイカレた制度はブッ潰してやる!

 ……で。
 その前の手土産に魔王軍を片付けようというのが、俺達の作戦だ。
 共和国を脅かす魔王軍を俺達の手で減らせば、交渉に持ち込みやすいだろうからな。
 時には連合騎士団ですら苦戦するような相手も、俺達の手に掛かれば楽勝だった。

 正確には、俺の武器に掛かれば、だな。
 宙吊り野郎の杖は、それはもうチートを超えたチートだ。
 杖本体が魔力をチャージしているから、俺がどんなに使っても枯渇しない。
 敵を倒せば、そこから霧散した魔力を吸収するのだ。

 それでいて、威力がヤバい。
 比較的扱いが難しいと言われている(アンジェリカ談)風属性ですら、魔物の群れをザクザクと切り裂いていく。

 ただその分、制御がちょっと難しいがな。
 狙いが甘いのはあの宙吊り野郎がイカレてたのもあるんだろうが、杖の仕様というのも大きいみたいだ。
 物理攻撃じゃないからホーミング・エンチャントの効果範囲外のようだし。
 被害が大きくなりすぎるって事で、土と風以外は自主規制している。

 だが何より、魔術の適性が無ければ俺以外は扱えないというのも凄いよな。
 アンジェリカは使い慣れたペンロッドがいいと言ったので、実質的にこの逆さ杖は俺の専用武器だ。


 みんなの成長も著しい。
 というより、気付いたら強くなってた。
 これまでの戦闘はあまり意識してこなかったから、その辺りで成長の伏線はあったんだろうな。
 俺とした事が、見逃していた。


 まず、ファルド。
 オークにも苦戦していた頃は何処へやら。
 今じゃ上位のジェネラルオーク(名付けたのは俺)とも互角以上に渡り合える。
 瞬発力も恐ろしいレベルで上がってるらしく、風属性のブレスを使う狼“ウィンディウルフ”に襲われてもササッと避ける程だ。

 次に、アンジェリカ。
 単発メテオを放てる他、小さな炎のシールドを形成して魔術を防いだりといったものは序の口。
 スネーキーフレイムを、最初の頃の倍の大きさで使えるようになった。
 もちろん大きさに比例して、威力も倍だ。
 岩っぽい魔物も、石焼きになった。

 ルチアの加護も全体的に一歩進んだ感じだ。
 ヒールやリゲインは明らかに効果が増してるし、ホーミング・エンチャントはより多くの対象に掛けられる。
 ブレス・エンチャントも、輝きが違う。

 ヴェルシェは罠のレパートリーが増えたし、火炎瓶も狙いがより正確になった。
 ただコイツはどっちかっていうと、周りに合わせて頑張ってる感があるんだよな。

 ……そして最後に、メイ。
 メイは本調子まで、まだ少し掛かりそうだ。
 守人が石化している以上、どうにもな。
 クロスボウの扱いはあまり得意ではないようで、ホーミング・エンチャントがあって初めて命中するといった具合だ。

 何度か手を握ったりしながら戦ってみた。
 一応、ほら。俺も魔術が使えるようになったし。
 遠距離攻撃組で連携してみたんだ。

 結果は駄目だった。
 メイはちょっと能力を使うと、すぐガス欠になるのだ。
 で、触れ合いチャージしないと満タンにならない事も判明した。

「ごめんね。あたし、みんなの足を引っ張ってばかりだ」

「焦らず、ゆっくり取り戻していきましょう」

「いいの? それまで迷惑かけっぱなしだよ?」

「きっと、大丈夫ですから」

 凹み気味のメイを、ルチアがそっと慰める。
 思うところがあるんだろうな。
 ルチアもまた、劣等感と焦りを感じてきただろうから。
 ずっとそうだ。

『庇護下に在り続ける事を当たり前に思いたくはありません。私だって、強くなりたいのに、これではいつまで経っても私は半人前である事を自覚し、自責して、思えば幼き時分から守られてばかりで、私はいつになったら……』

 あの言葉は間違いなく、ルチアの本心だろう。
 置いて行かれたくない。
 弱いままではいたくない。
 その不安が、ルチアにも解るのだろう。

「じきに良くなる。レジーナを石化させてきた奴も、もしかしたら魔女経由で見付かるかもしれないしな」

 そうでなくとも、魔女が治す方法を知っている可能性だってある。
 俺の知らない事は大体この世界の人が知っているからな。

 しかしルチアも気丈だよな。
 肉親を魔女に殺されても、メイにまで八つ当たりはしない。
 その辺りの線引きはドナートやキリオより、よっぽど大人だ。

「ここら一帯も片付けたし、連合騎士団の人達に報告しましょ」

 というアンジェリカの合図で、俺達は共和国の街へと向かった。


 *  *  *


 ビレスデアと呼ばれるその街は、真っ白な石壁の立ち並ぶ景色が特徴的だ。
 至る所にやぐらが建てられていて、その上には騎士団らしき連中が望遠鏡を片手に見張りをしている。

 城壁で囲うだけの財力が惜しかったのかね。
 原作同様、共和国が貧乏国家であるという線は濃厚だな。

 設定によると、貴族の一人一人はそんなに困窮してはいないんだが、総合的な財力とかはどうしても王国と帝国に比べると見劣りするのだ。
 魔女の墓場が目を付けるのも頷けるな。

 まずは恒例の、領主への顔出しだ。

「ここの現在の領主は、イザビキ・ディシマギ伯爵って人ッス。
 奴隷魔女に反対している中では最大規模の貴族ッスね」

 共和国の領地をあちこち(文字通り)飛び回る最中、ヴェルシェはその片手間に情報収集をしていてくれた。

 舌を噛みそうな名前はさておく。
 原作にも存在したケドーレ・エスペンズィールと名前の傾向を合わせてきたようだし、大目に見てやるべきだろう。

「何度かあたしも会ったことあるけど、そっか……」

 感慨深げに、メイが呟く。

「お知り合いだったんスか」

「まあ、ね」

 俺達と行動を共にするまでに、色々とあったようだ。
 この場で詳しくは訊けないから、後でだな。


 そのディシマギ伯爵の屋敷には、人型で岩みたいな奴が二体ほど門前にいた。
 どう見てもゴーレムです。本当にありがとうございました。

「オウ、おみゃーさんがた。御主人に何か御用だぎゃ?」

 だが喋る。
 しかも似非名古屋弁だ。
 解せぬ。

「シン君、やっぱ表情わかりやすいよね」

「すーぐ顔に出るのよ、コイツ」

「うっせ。で、何だよこの、変な訛り方のゴーレムは」

 既に多数の作品で使われてる似非関西弁とか、似非東北弁ならともかくだぞ!
 もしここに現地の人がいたら、喧嘩売ってるって思われるだろうが!
 せめて可愛い女の子に使わせろよ!

 いや駄目だ。
 それじゃあ奴隷魔女が出て来る。

 ていうか、なんでメイは仰け反って口元を両手で隠してるんだ。
 ビックリしてるアピールですか。

「シン君、ホントに知らないの? 石版の賢者なのに!」

「どういう事ッスか、シンさん!」

「俺にだって……解らない事ぐらい……ある……」

 思わずみんなに背を向けて、某ミステリー調査班の彼みたいな事を言いたくなるくらいにはワケが解らない。
 大人十人に子供が二人いたら、うち子供二人が確実に泣き出すよ。
 意味わかんないよぉ~って。

「あ、あの、おみゃーさんがた……?」

「ん。ごめんね。イザビキさんに伝えておいて。“白銀しろがね”が来たって」

「ええ!? おみゃーさん白銀だがや!? やっとかめ! よーけ人連れて来たね!」

「正確には、拾われたんだけどね」

 なるほど。
 複数の偽名を使い分けてるという事だな。
 それも、一目見た印象で解りやすいようなたぐいのものだ。
 俺の時は“案内人”だし、キリオはメイを“銀狐”と言った。

「念話で通信しといたがや。ちいとねゃあ待っとれ」

「ありがと」

 そう言って、メイはゴーレムに投げキッスをする。
 オイィ? 投げキッスはオーケーなのか?

 王国ですら新発見ばかりだったというのに、共和国はいよいよ未知の領域だな。
 見逃せない情報が沢山あるに違いない。

「……シン君はだーめ。昨日、沢山したでしょ?」

 耳元で小さく囁くメイの声に震えながら、俺は決意した。

 知らなきゃ。
 この世界を。





 ――いや、待て。
 いい感じにまとまったと思ったが、やっぱり一言だけツッコミ入れさせてくれ。
 “耳つぶ”されたままの体勢から、俺はメイをどけて正面から見据える。

「メイ、お前そういえば“一人になった”って言ってたよな?」

「頼りたくても頼れない事も含めて、そう言ったの」

「そ、そうか……ごめんな」

 危うく地雷を踏むところだった。
 メイはナーバスな状態なんだから、傷口を抉らないようにしないとな。



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