自作小説の世界に召喚されたので俺は未完放置する(エタる)のをやめました!
第六十八話 「お客さんだよ!」
ファルドの剣レーダーは、どうやらゾンビには反応しないらしい。
暖を取りながら休憩していると、ゾンビが這いずってきたのだ。
迂闊だったな。
すぐにファルドが首を切り落として、事なきを得たが。
メダルが反応しないから、五感で索敵するしかない。
そういや井戸潜みも、メダルが反応しなかったな。
かと思えば、ボラーロの裏道で絡んできたユヴォル何ちゃらと不愉快な不良達には反応した。
レイレオスの時なんて眩しいくらい光ったから、魔物だろうが人間だろうが関係無いだろう。
もしかして、ゾンビが本能だけで動いているのと関係があるのか?
たとえば一定以上の知能が無いと駄目とか。
とにかく、今の俺達に安息は無い。
早いとこルーザラカを倒して、冬の聖杯を奪還しないとな。
待ってろ、ルーザラカ。
いつまでもレリゴーしてられると思うなよ!
「ウボァアア」
それからファル剣レーダー(ファルドの剣のメダルを使ったレーダー、の略)を利用して、ルーザラカを捜すこと数時間。
……多いんだよ、ゾンビが。
ずっと倒し続けてるが、一向に減る気配が無い。
上手い具合に隠れながら移動しても、いかんせん奴らの数が多すぎる。
ヴェルシェが道中で罠を山ほど仕掛けて、掛かったゾンビをアンジェリカが燃やしてきた。
が、それも気休めにしかならない。
「ゾンビホイホイ、いくらあっても足りないね」
「まーた材料費でシーメー代を切り詰めなきゃならなくなるッス……」
「冷えても固まりにくい油なんて、そうそう買う機会は無いわよ」
などと、この時こそアンジェリカは余裕の表情だがな。
十字路にひしめきあうゾンビの群れを見た時なんか、思わず俺と二人で大型の魔術を乱発しちまった。
マジで酷い目に遭った。
だが俺達はついに見付けたのだ。
剣のメダルが赤く光った地点の、その先に佇む屋敷。
きっと、奴のアジトだ。
玄関から回り込むが、幸いにしてゾンビのお出迎えは無し。
それではいよいよ、突撃・辺境のお宅訪問の時間だ。
「行くぞ! 野郎共!」
「ああ!」
「野郎じゃないッスよ!」
「そーだそーだ!」
「ゾンビが出たら……屋敷ごと燃やすかも」
「なるべく怖くない倒し方でお願いします……グロはNGの方向で」
ファルド以外、ノリが悪すぎる件について。
まったく、これじゃあ先が思いやられるぞ。
割りと長い期間、一緒に冒険してきたんだからもう少し気を強く持ってほしいもんだ。
* * *
屋敷は、ぱっと見は綺麗な状態だった。
だが、よくよく目を凝らしてみると違和感がある。
「急ごしらえだったみたいだね」
メイの言葉に、全員がうなずく。
違和感の正体はそれだ。
仕上げが全体的に雑なのだ。
壁紙なんて斜めに貼ってあるせいで、ところどころ裏がはみ出てるし。
家具の配置も、ちぐはぐだ。
それがまた、どことなく不気味な雰囲気を醸し出している。
やっぱりここは、ルーザラカの拠点としてあてがわれたのだろうか?
だとしたら、アイツのセンスは壊滅的だな。
「オォゥウ……」
「アンジェリカ、燃やすなよ! 絶対に燃やすなよ!」
「ダメ?」
「だめだぞ」
顔面蒼白で首を傾げても許可しない。
しないったら、しない。熱湯ダイビングみたいなフリじゃねえ。
こんな得体の知れない屋敷を炎上させたら、どこで何に引火するか判ったもんじゃない。
ファルドが先行して、ゾンビの首を切り落とす。
ゾンビはそのまま倒れて動かなくなった。
首なしゾンビにならなくてよかったな。
「何か、手に持ってるぞ」
「拾うの!?」
アンジェリカがファルドの後ろに隠れながら叫ぶ。
いや、死体漁りは冒険の基本だろ。
今まで平気な顔してやってたじゃん。
「おっ!」
久しぶりに見掛けた斧!
真っ赤な柄に、真っ赤な刃!
どう見ても非常用のハンドアクスです。
本当にありがとうございました。
雪の中に佇む屋敷、そしてその中をさまよう俺達はルーザラカを探している。
これって……!
もしかして:Here’s Johnny!
「何よ、シン。一人でニヤニヤしちゃって。狂気に取り憑かれた?
きゅ……急に斬りかかってきたり、しないわよね?」
「某有名なワンシーンを思い出しちまっただけだよ」
「ふうん。まあいいけど」
ビビってるせいで、アンジェリカはやたらと饒舌だな。
比べて他のメンツはおとなしい。
特にルチアなんて、ずっと口元を抑えたまま震えてる。
と、その時だった。
「ここか……」
「間違いなさそうだな」
「ああ。メダルが光ってる」
大扉の向こうから気配がした。
何やら話し声も聞こえてくる。
どれどれ。
「本日はサバト・in北の最果てにご足労いただき、感謝の言葉もない!
わらわも魔女の一人として、皆の衆に追いつくべく日々精進していく所存であるぞ!」
聞き慣れた声のスピーチ。
どう考えても、開会の挨拶だ。
サバトというのは、魔女達の集会だ。
その目的は各地の情報交換だけじゃなく、婚活パーティも兼ねていたりする。
魔女達は人間との子供を残せない身体になったから、魔王軍の連中と結婚するのだ。
つまり、少なくとも三十人以上の魔女が参加していることになる。
うわマジかよ。
「それでは杯を手に!」
「とりあえず飲んどく?」
「くぅ~!」
「一日の疲れにはこれが効く!」
「きっくぅ~!」
「わらわ達の野望はッ!」
「世界征服ぅーッ!」
「ヒャッハァー!」
俺達は互いに顔を見合わせた。
みんな、わりとげんなりした顔だった。
メイも口を歪ませて首を振る。
目元は仮面で見えないが、嫌そうな顔なんだろうな。
……そうだよな。
こんなのどう考えてもアホの所業だ。
誰だよ、こんな飲み会コール考えた奴。
俺じゃないぞ。多分。
それにしても、サバトと呼ぶには声が少なかったな。
ルーザラカは残念系ロリババアだし、あんまり集まらなかったのか?
「これ、やるなら酒が入ったあとッスね」
斧を構えた俺を、ヴェルシェが手で制す。
「それまで、気配を殺して待機か。見張りのゾンビに通報されなきゃいいんだが」
「シン君、変なフラグ立てるのやめよ?」
「そ、そうよ。ゾンビなんて見たくないわよ」
いや、そういうつもりで言ったんじゃないですが……。
フラグは、気をつけよう。
「それで、どうするんだ。殺すのか?」
俺達は大扉から少し離れた場所へと移動した。
廊下が交差する十字路の物陰で、作戦会議だ。
ヴェルシェが曲がり角から大扉の様子を伺っている。
「あたしとしては、捕まえて無力化したいな。リュックサックにロープがあったよね?」
「それと目隠しも」
大扉越しに飲み会をやっている、その外側でコソコソと内緒話をする俺達。
傍から見たら間抜けな光景なんだろうな。
「大本命のお出ましッスよ」
口元に指を立てたヴェルシェの一言により、俺達は一斉に黙る。
よたよたとした足音はゾンビめいているが、時折発せられるしゃっくりが生者であると教えてくれる。
「の、飲み過ぎたのじゃ……えと、トイレはどこじゃったかのう……」
ンなベタな独り言があってたまるか!
お前の拠点だろ! なんとかしろ!
ルーザラカが十字路を直進したのを見計らって、俺達はすぐに飛び出した。
ゴウランガ!
ブレイヴ・クランのアンブッシュは実際疾風怒濤めいて早い!
ルーザラカ=サンは思わず飛び上がった!
「ゲェー!? 勇者ァ!?」
どこぞの三国志の漫画みたいなセリフを吐いてくれるなよ。
「ルーザラカ! お前の悪巧みもここまでだ!」
「性懲りもなく死体を操って!」
かっこよく決めたファルドに対して、アンジェリカの情けない台詞。
うーんこの……。
「く、来るでない! わらわの何を狙っておるのだ!」
「ご自身の胸に訊いてください」
ルチアも割とエグいことを言ってくれるな。
ルーザラカのバストは平坦なんだから、あんまりいじめてやるなよ。
「シン君、真面目なシーンなんだから胸を見ないの」
「あ、はい」
「貴様ら……! あ! 魔王様!」
「何!?」
全員の意識がそっちに集中する。
と同時に、ルーザラカは駈け出した。
それはもう、脱兎の如き速さだった。
「お前ェ! 卑怯にも程があるだろ!」
「引っかかる阿呆が悪いのじゃ! オーッホホホホホ! ゲホッゲホッ」
「追いかけよう!」
「おうよ!」
ルーザラカの逃げ足は早い。
最初は良い手だと俺は慢心しきっていた。
まず、逃走経路の入念なチェックから始まる。
「やっぱり一番ヤバいのは外に逃げられることだな。行き止まりに誘い込まないと」
「魔術じゃないと駄目ね」
アンジェリカの炎の壁が、屋敷の壁を容赦なく焦がす。
ルーザラカも、完全には力を取り戻してはいなかったようだな。
ちょくちょくダメージを受けているようだ。
やがてルーザラカは、階段を登った先の小部屋へと閉じこもった。
俺はみんなに目配せし、左手に杖、右手に斧を構えながら階段を登る。
予想通り、ドアは鍵が掛かっていた。
俺は魔術でドアの破壊を試みるが、凹み一つ付かない。
こういう時のための斧だ。
ドカッ、バリッと豪快な音を立てて、ドアに穴が空く。
俺はそこから顔を覗かせた。
「お客さんだよ!」
「ひぃやあああああああッ!? あ゛あああああああッ!!」
――チェックメイトだ。ルーザラカ。
俺はその扉の鍵を内側から開けた。
某映画とは違い、刃物で手を切られるなんてことはなかった。
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