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あたしのヒーロー

ノベルバユーザー149578

後編

「あそこは登校と下校のときしか開かないんだよ。半年前くらいにこの近くで不審者がでて、危ないからってことで」

聞いてもいないのに男の子は門が閉じている理由をおしえてくれた。
先生にみつかるとうるさいからといって、泣きだしたあたしの手をつかんで歩きながら。あたしが来た方向とは逆の方向に、門を通り過ぎてどこへ向かうのかはわからなかった。


それからしばらく口をきかないで、さくさくとかわいた音を立てる芝生の上を歩くころにはなみだは止まっていた。
芝生が土の道にかわったところでつないでいた手をはなして、それと、とすこし大きな声をだしてその子は立ちどまって、


って、いうのは建前でさ。とあたしのほうを振りかえった。


「前にあの門から逃げようとした奴がいて、それから閉められるようになった」


おれなんだ。と楽しそうに笑うから、なにがおかしいのか、どうしたらいいのかわからなくてみていると、その子もあたしをじっと見て、首をよこにかたむけてから急に声を小さくして、あたしに顔をちかづけてきた。
まわりにたくさん植えてあるさくらの木が、ざわざわとゆれていた。


「おれは、なぎさだ。おれはここからいなくなるから、おまえにおれの秘密をやる」


なぎさくんはいたずらっぽくにやりと笑うと、からだごと横にどいて、あたしに前がみえるようにしてくれた。


花だんが、あった。でもただの花だんじゃなくて、お花ばたけだった。
レンガのかこいのなかに、きいろにオレンジに白に赤にピンクにうすいむらさきに、色とりどりのお花が咲いて、ちょうちょがひらひらお花にじゃれていて、ハチが羽の音をさせながら飛んでいて。きれいなきれいなお花ばたけだった。
とってもきれいで、びっくりしてみているあたしに、なぎさくんは笑いかけた。


「すごいだろ。おれがぜんぶ、育てたんだぜ」


まぁ、ちょっとだけ事務のおじさんに手伝ってもらったけどな。
近くに行こうとなぎさくんに手をひかれてあたしはふらふらとお花ばたけに近づいた。


近づいたところで手ははなされて、目の前にあるお花たちにおもわずあたしはしゃがみこんでしまったけど、なぎさくんは気づいてないみたいだった。
座り込んだ前のお花たちのなかに、村を出た日に友だちがくれたちいさな花束とおんなじ花がさいていたから。


「今日からおまえがここの守り主だから、ぜんぶの花の名前おぼえてちゃんと世話しろよ。」


おまえ、花が好きなんだから大丈夫だよな。さいごのほうだけ、ちいさく言われたことばに、え、とつぶやいてあたしより一歩だけお花ばたけに近いなぎさくんをみあげた。

近くにある物置みたいなやつ指さして、あれにじょうろとか肥料とか、必要なものがぜんぶ入ってるからと説明していたなぎさくんも、びっくりしたようにあたしをふりかえった。


「おまえ、しゃべれるの?」
「なんでお花が好きって、しってるの?」


え、とあたしたちは顔をみあわせた。




それから、あたしたちは花だんの横にある階段のいちばん下の段にならんで座って、たくさんお話した。
それでわかったのは、なぎさくんは先生のいっていた「加々美くん」だったこと。だからあたしがお花が好きだってしっていたこと。


引越しの準備は明日からで、なぎさくんは学校に来ていたけど、先生がかんちがいして今日から休みだとおもっているからさいごに花だんの手入れをしようとおもってずっとここにいたこと。


今日までのあたしの様子を友だちから聞いていたこと。
クラスのだれもここを知らないということ。
あたしをここに連れてきたのは使える、とおもったかららしい。


たくさんのことをなぎさくんに聞いて答えをもらって。
なんでみんなあたしにいじわるするのこの髪のけと目のせいなの?もうやだあの村に帰りたい、とあたしがいうとなぎさくんは困ったようにいった。


「髪でも目でもないよ。だっておまえ、しゃべらないから。」


そんなことない、と言いかけて、あれ?    とおもう。
いちばん初めの自己紹介のとき、あたしはきんちょうしていてなんにもしゃべれなかった。
朝の出席かくにんのときはいつも静かにされたから、声をださずに手をあげただけだったし、授業で先生に当てられたときはいつも黒板に直接書きにいっていた。
たしかに、あたしはこの学校に来てから、ひと言もしゃべっていなかった。


「しゃべらないから、声が聞きたくておまえがしゃべりそうなときとか返事しそうなときは静かにするし、給食のときにつくえの距離あけるのは照れくさいからだし、準備体操のときは先生がペアつくってるから勝手にかえられなくて声かけられなかったんだと」


あいつらがそう言ってたから間違いない。


いつのまにか腕を組みながら話すなぎさくんは当然、といわんばかりにあたしはいじわるされているわけじゃないとだん言した。
でも、そうしたら、さっきの英語のときはどなるんだろう。あたしはいやな思いをしたし、あれはいじわるじゃないの。
そうおもったのが顔にでたのか、なぎさくんは少し考えてから口をひらいた。


「おまえになにか言ったのってさ、佐藤じゃないか?」


こーんなつり目で髪の毛つんつんしてる奴。

こーんな、と言ったときなぎさくんは自分の目を両手の人差し指でつってみせた。
そこまでつり目じゃなかったけど、髪の毛もつんつんしていた。たぶんあの子が佐藤くん。
なぎさくんの顔にふきだしたあたしは、何回も首をたてにふりながらなみだが出るまで久しぶりにたくさん笑った。


「好きな子をいじめるのは小学生の特権だっておれの兄ちゃんが言ってた。」


にやりといじわるくなぎさくんは笑った。好きな子?    なんのことを言っているのかよくわからないあたしはやっぱり首をひねるしかなかったけど。


んしょ、と立ち上がると遠くで川原さーんとか、えるちゃーんとかあたしを呼ぶ声がきこえた。
それは先生の声でもあったし、クラスの子たちの声でもあった。


「ほら、呼ばれてんだから行けば?おれはこれから花の世話してから帰るから、おまえはもう行きなよ。もしあいつらがここまで来ちゃったらおれの計画が台無しになるんだから。」
「計画?」


手をつかまれて、あたしはお花ばたけから連れだされていた。来たときの道を反対にたどりながら前を歩くなぎさくんにあたしはたずねた。


「そ。内緒だよ」


といってなぎさくんはあたしには教えてくれなかった。
みんなが幸せになれる。とは言っていたけど。


それから先生たちに会って、みんなに心配されて、授業中に教室を抜けたことを怒られて、佐藤くんにあやまられて。あたしはみんなにありがとう、と言って。
やっぱりみんな、なぎさくんみたいにおどろいていて。しゃべれたの!?     と言った男の子は近くにいた女の子にたちにはたかれていた。
それがおかしくて、ちいさく笑っていたらみんながあたしのことみていてはずかしくなった。




数日後、なぎさくんが引っ越したと担任の先生が言っていた。
さわぎだしたクラスの子たちに「あとでみんな、加々美くんにお手紙かきましょうね」と言って朝の連絡をおわりにした。
なぎさくんに会う前と同じようにしていたあたしはすごしていた。

あたしがいじわるだと思っていたことはもうされなくなったし、みんなすこしずつしゃべりかけてくれるようになったけど、佐藤くんがあたしのことをときどきじっとみてくるのはちょっぴりこわかった。


放課後、なぎさくんがいなくなったあの花だんに行ってみた。
本当は毎日来ていたんだけど、なぎさくんには会えなかった。
なぎさくんにあった次の日、ここに来てみたらあたしを待っていたのはなぎさくんじゃなくって、水がなくてうなだれている花たちだった。それから夕方にお花たちに水をあげるのはあたしの日課になっていた。


開いている門を通り過ぎて芝生を走って、たどり着いたお花ばたけはやっぱりきれいで、でもなぎさくんがいなくなってさみしがっているような気がした。


今日も水をくもうと物置を開けてじょうろを取ろうとしたら、みどり色のじょうろの下にちいさい紙がおいてあるのをみつけた。
なんだろうと思ってその紙をひろってみると、


『川原えるへ
会えなかったから、手紙にしてみた。いきなりだけど、ここの世話はひとりじゃ大変だと思うんだ。おれもひとりで大変だったから。だからさ、クラスのやつらとここ、世話したほうがいい。そうすれば、あいつらと話ができて仲良くなれるからさ。
おまえのこと聞いた時に、使えるって思ったんだ。あ、この花だんのことな。
おれはいなくなるから世話できなくなっちゃうし、おまえはひとりだし。
ここ広いから、みんなで話しながらやったらきっと仲よくなれるんじゃないかって。
これがおれの計画。もちろんおまえがいやだっていうなら別にいいんだけどさ。ごめん、文がぐちゃぐちゃで。おれ、作文苦手なんだよ。                                        なぎさ』


久しぶりに口の中をかんだ。泣きそうだった。

なぎさくんはあたしのことを考えてくれていた。なぎさくんがいなくなった後のことまで。
苦手なのに手紙まで残してくれて。
なぎさくんからの手紙をぐちゃぐちゃにしないように大事にランドセルにしまった。


明日、朝の連絡のときにみんなに言ってみよう。
「あたしと一緒に花だんの世話をしてくれませんか」って。
あたしは目をこすって、お花たちにあげる水をくみに水道に走った。
ひとりでいたあたしを、なぎさくんは助けてくれた。

なぎさくんはあたしのヒーローだから。


なぎさくんが言ったように、みんなと仲よくなれたらいいなと思いながら。


          

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