終わった世界の復讐者 ―僕はゾンビを操ってクラスメイト達に復讐する―

触手マスター佐堂@美少女

第80話 事後処理


 そのあとは、全員揃っての食事会になった。
 ひとまず表面上は『セフィロトの樹』の一員になったので、他の構成員たちの拘束も解いてある。
 つい先ほどまで敵だった者同士、当然そんなにすぐに打ち解けられるはずもないが、

「…………」
「…………」

 その中でも、日向と法衣の女の機嫌は最悪に近い。
 大方、「なんでこんな奴を仲間に」とでも思っているのだろう。
 思うだけなら好きにすればいいが、恨みがましい視線を向けられ続けるのも煩わしい。
 トバリはため息をついた。

「なんなんだ? 文句があるなら聞くけど?」
「…………」

 日向は黙ったまま、視線をトバリから外した。
 何を考えているのかはイマイチわからないが、こちらに干渉してこないならそれに越したことはない。

「それで、中西と佐々木はどこにいるんだ?」
「それを伝える前に、色々と処理しておかないといけないことがあるのよね」
「処理?」
「物事には順番ってものがあるから。――17番、29番。アレを持ってきてちょうだい」
「かしこまりました」

 亜樹の側に控えていた二人のメイドが、恭しく頭を下げて退室する。
 そして、大きなカートのようなものを押しながら部屋に戻ってきた。
 カート自体がテーブルのようになっており、上に大きな皿が乗っている。

「……なあ」
「どうしたの?」
「……これは、なにをやってるんだ?」

 大きな白い皿の上に、全裸で縛られた琴羽が乗せられていた。
 足首と手首を後ろ手に縛られており、一人ではほどけそうにない。
 口元にもガムテープが何重にも巻かれており、簡単には剥がせそうになかった。

 普通なら煽情的に見えるような姿だが、彼女の顔に現れている恐怖の色が強すぎて、あまりそういった感情は湧かない。
 間違っても、仲間に対して行うような行為ではない。
 というよりも、むしろこれは。

「この子をこれから丸焼きにするんだけど、どこを誰が食べるか、先にみんなで相談しておいた方がいいでしょう?」
「〜っ!!! っーー!!!」

 トバリの思考を肯定するかのように、亜樹はナイフの先で琴羽の太腿をつついている。
 そんな光景を見て、トバリは再確認した。

 やはり亜樹は何も変わってなどいない。
 最後には必ず滅ぼすべき邪悪なのだと。

「……なんで食べる必要があるんだ? 殺すのは……裏切りが許せないのは分からなくもないけど」
「わたしがこの子を初めて見たときに、とても美味しそうだと思ったからよ」

 亜樹はすまし顔で答える。
 三田は複雑なものを見るような目をしているが、法衣の女と日向は特に何も感じていないような様子だ。
 亜樹が理解不能な言動をするのは、割と日常茶飯事なのかもしれない。

「――『大丈夫だよ、ユリちゃん』」

 琴羽の耳元で亜樹が囁く。
 彼女の身体がブルリと震えた。

「『ユリちゃんのためなら、わたしはたとえ『美(ティファレト)』が相手でも倒してみせるから』……だったかしら」
「っー!!」

 琴羽が震えながら首を横に振る。
 その目には、もう反抗する意思などかけらもない。

「わたしを倒してくれるそうじゃない。ところで、その状態からどうやってわたしを倒すのかしら? 食べ終わるまでに教えてちょうだいね」
「っー!!! っー!!!」

 涙を流しながら必死で皿から降りようとするが、縄は相当に固く縛られているようで解ける気配がない。
 そんな琴羽の姿を、亜樹は聖母のように微笑みながら眺めている。



 ――どうするか。



 琴羽にはまだ聞きたいことがある。
 そしてそれは、亜樹の前では聞きにくいことだった。
 ならば、亜樹が納得するような論理で琴羽を処分するのを避けさせるしかない。

「やめとけよ。琴羽は『セフィロトの樹』の一員なんだろ。共食いなんて、それこそ生物として劣ってると思うけどな」
「……なるほど。一理あるわね」

 亜樹は視線を琴羽から外した。
 その目は思案するように揺れている。

「でも、裏切りは重罪よ。罪を犯した以上、償いはしてもらわないといけないわ」
「なにも殺さなくてもいいだろ。生きて償わせればいい」
「ふふ。面白いことを言うのね」
「……?」

 亜樹が笑う理由はわからなかったが、「なんでもないわ」とすぐに首を振った。
 これ以上の詮索は無意味だろう。

「いいわ。トバリが欲しいって言うならあげる。好きにするといいわ」
「そうか。たすかる」
「そのかわり、ちゃんとトバリがお世話するのよ。『琴羽ちゃんはトイレもお着替えも、一人ではできないから』」
「はぁ? 子どもじゃあるまいし、それぐらい一人でできるだろ」

 避難民として生活していたときも、特にそういう話は聞かなかった。
 亜樹の勘違いではないか。

「あら、そう? それならなんの問題もないわね。あと、部屋もトバリと一緒のところを使ってもらうから。詳しいことはそこにいる17番に聞いておいてちょうだい」
「……待てよ。それは琴羽を僕の部屋に置いて、世話も全部僕がやれっていうことか?」
「さっきからそういう話をしてるんじゃない」

 まさかそういう話になるとは思っていなかった。
 こういう状況になってしまった以上、ある程度の不自由は仕方ない気もするが、やはり抵抗も強い。

「トバリの目が届くところに置いておかないと、気づいたら琴羽ちゃんが朝ごはんになってました、なんてことが起こるかもしれないわよ? それでもいいの?」
「割と頭おかしいこと言ってるの、そろそろ気づいた方がいいと思う……けど、わかったよ。仕方ないな……」

 亜樹のことは信用できないし、するつもりもない。
 ほかの構成員たちも同じだ。
 トバリの目の届くところに置いておいたほうが安全なのは間違いない。

 信用できないというところは琴羽も同じようなものだが、彼女は『セフィロトの樹』を裏切っているし、なにより亜樹に殺されかけている。
 もはや彼らとの仲間意識など、ないようなものだろう。
 それでも完全に信用するわけにはいかないが、琴羽に何か行動を起こされようが今のトバリをどうこうできるとも思えない。

「ああ、そうだ。『知恵(コクマー)』。こちらに来てくれるかしら?」
「……? ああ」

 亜樹に呼ばれた三田が、彼女のもとに向かう。
 なぜ呼ばれたのかよくわかっていなさそうな顔をしていた。

 そんな三田を見て、亜樹は微笑みながらポケットから何かを取り出した。
 三田の顔が一気に強張る。

「それは……」
「ええ、『栄光(ホド)』のセフィラよ。あなたにあげるわ」

 三田の表情が困惑したような色に変わった。

「……いいのか? 俺はユリの回収に失敗したんだぞ」
「いいのよ。代わりにトバリを連れ帰ってくれたから」
「連れ帰ったというと語弊があると思うがな……だが、本当にいいのか?」
「いいのよ。これで奥さんを生き返させてあげて」

 亜樹は『栄光(ホド)』のセフィラを握り、三田の前に差し出した。
 緩慢な動きで、三田も手を伸ばそうとする。

「――ただ」

 それを三田に渡す直前、亜樹は悲しげな表情で付け加えた。

「もしこれを持って茜さんと逃げたら……とても悲しいことだけど、あなたたちを回収・・しなきゃいけなくなるから。それだけは覚えておいてね」
「……ああ。元からそのつもりだ」
「よかった。これからもよろしくね、『知恵(コクマー)』」
「……ああ」

 悪魔との契約を交わし、三田はその橙色の球体をズボンのポケットにしまった。
 彼が今なにを思っているのか、トバリにはわからない。

 三田はゾンビと化した妻を蘇らせるために『セフィロトの樹』に入ったと聞いている。
 その報酬となるセフィラをそんなに簡単に渡してしまっていいのかという疑問はあったが、どのみちトバリにはあまり関係のない話だ。

 三田が亜樹を裏切るようなことがあっても、トバリは特に何もする気がなかった。
 元々が交換条件で『セフィロトの樹』にいるような人間なのだ。離反の可能性は十分すぎるほどある。
 それをさせず、いかにうまく扱うかは、最高指導者様の腕の見せ所だろう。

「あと数日は大した用事もないから……そうね、三日は自由にしていて構わないわ。屋敷に居ても居なくてもいい。でも三日後の朝には戻ってらっしゃいね」
「了解した」

 短く頷くと、三田はそのまま退席してしまった。
 セフィラを渡してから退席させたということは、亜樹としても三田にセフィラを使わせても構わないと判断したのだろう。

「一人で行かせてよかったのかい?」
「大丈夫よ。そのために念押ししたんだし」

 法衣の女の問いに、亜樹はすました顔で答える。

 こうして、亜樹たちとの食事会は終了したのだった。



「終わった世界の復讐者 ―僕はゾンビを操ってクラスメイト達に復讐する―」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ホラー」の人気作品

コメント

コメントを書く