終わった世界の復讐者 ―僕はゾンビを操ってクラスメイト達に復讐する―

触手マスター佐堂@美少女

第52話 新生活




 この拠点に移動して、一ヶ月が過ぎた。



 季節は夏から秋へと移り、肌寒い日が多くなってきている。
 冬の寒さをどう凌ぐのかも、今後の問題だ。
 トバリやユリ、それに三田がいるおかげで、ある程度の物資の調達は問題なく行えるのは幸いだが、それにも限界はある。

 一月も経つと、避難民たちも少しずつ落ち着いてきた。
 ゾンビを目にする機会がなくなったことも、避難民たちの精神の安定に一役買っているようだ。

 琴羽と日向も、特に問題なさそうだ。
 トバリも初めのほうは琴羽と日向のことを注視していたものの、トバリたちとはもちろん、他の避難民たちとも良好な関係を築けているように見える。
 少なくとも、何か問題らしい問題が起きているようには感じられなかった。

 ちなみに一月前、琴羽と日向が例の病室から出て行ったあと、軽く壁のところを調べてみたが、特に何かあるということはなかった。
 本当にネズミか何かがいたか、ユリの気のせいだったのだろう。

 そんな感じで、最近は概ね平穏な日々を送ることができている。

「夜月。少し出かけてくる。遅くても二、三日で戻る」
「あ、はい。わかりました」

 こうやって突然三田に話しかけられるのも、そろそろ慣れてきた。
 トバリが一言、了解した旨を伝えると、三田はすぐに姿を消す。

 三田は外出することが多くなった。
 今回のように、二、三日ほど留守にすることもザラにある。
 おそらく、この拠点からそこそこ離れたところに行っているのだろう。

 その度に食料などの物資を持ち帰ってきてくれるので、ありがたくはあるのだが、外出先で何をしているのかはよくわからない。
 三田本人に聞いても話を逸らされるので、本当に謎のままだ。

 一方、トバリは拠点からあまり遠くに離れる気にはなれなかった。
 というのも、刹那のことがあるからだ。

 今のところ、刹那がトバリとユリ以外の人間に姿を認識されているということはないが、万が一トバリがいない間に刹那がいなくなっていたらと考えると、なかなか大きなアクションを起こすことができない。

 特に懸念しているのが、『セフィロトの樹』の人間が、ここを急襲してくるという可能性だ。
 もしここを襲われたら、スーパーでの『知恵コクマー』との戦闘の時のように、厳しい戦いになるのは必至だろう。

 だが、今はあの時と大きく違う状況にある。

 ここには刹那がいる。
 刹那を危険な場所に置いておくのははばかられるのだが、刹那をすぐに確認できない場所に移すのも、それはそれで忌避感が強い。
 結果的に、ここにこうして残しておくという選択肢を取っているのだが……それが本当に正しいのか、トバリにもわからない。

 そんなことを考えながら、トバリは病院の一階へと下りる。
 大学病院特有の巨大な待合室は、子供たちの格好の遊び場だ。

 走り回る子供たちを咎める者も、今はもういない。
 まだ外で遊ぶのは危険だと、母親たちもわかっているからだ。

 そして、賑やかな声の中に、トバリは見知った顔の少女を見つけた。

「よう、琴羽」
「あ、トバリさん。おはようございます」

 琴羽が、椅子に座って子供たちを見守っていた。
 こうして見ると、子供たちを見守る保護者のように見えなくもない。
 トバリもその隣に腰を下ろす。

「どう? こっちでの生活には慣れた?」
「はい、おかげさまで。もう日向くんと二人で生活していた頃の記憶が薄れてきてるぐらいです」
「そっか。それはなによりだ」

 琴羽の言葉を聞きながら、トバリは遊んでいる子供たちのほうを見やる。
 すると、その中の一人と目が合った。

「あ、トバリ」
「こんなところにいたのか。おはよう、ユリ」
「おはよー」

 一言だけ挨拶を交わすと、ユリは再び子供たちの輪の中に戻っていった。
 その中には日向の姿もある。

 ユリは日向と仲がいい。
 トバリも、ちょくちょく二人が一緒に遊んでいる姿を見かけることがあった。

「かーごめかーごーめ。かーごのなーかのとーりーは……」
「うわ、また懐かしい遊びしてんな……」

 かごめかごめなど、トバリが最後にやったのは小学校低学年ぐらいの頃だった気がする。

「そうですね。ここにはおもちゃもほとんどないので、何も使わないでできる遊びを、おばあちゃんたちが教えてあげてました。かごめかごめとか、はないちもんめとか」
「はー、なるほどね」

 この拠点を指揮する人間として、そういったケアをするのも大切なことだろう。
 三田やトバリはそのあたりを失念していたが、やはり年長者は頼りになる。

「先のことを考えるとまだ不安ですけど……あの子たちが、未来への希望なんだと思います」

 子供たちを見守りながら、琴羽は微笑む。

「……ああ。そうだな」

 終わってしまった世界で、琴羽たちが少しでもまともな生活ができるようにトバリもできる限り力を尽くすつもりだ。

「トバリー! あそぼー!」
「うぉっ!? あ、ああ。日向か」

 突然腹部に衝撃が走ったので焦ったが、日向が飛びかかってきただけだった。
 そのまま受け止めてやる。

「いいなー……」

 そんな二人の様子を、羨ましそうに見ている少女が一人。

「……ユリも来るか?」

 トバリがそう聞くと、ユリは黙って日向の隣の位置を陣取った。
 要するに、日向とユリに二人して抱きつかれている状態だ。

「トバリー。なんかしよー」
「なんかしよう、ってえらい漠然としてんな……。じゃあみんなで、はないちもんめでもするか?」
「するー! 琴羽ねぇもしよーよ!」
「うふふ。じゃあ、みんなで遊びましょうか」

 琴羽がそう言うと、辺りにいた子供たちがわらわらと集まってきた。
 この一ヶ月で、完全にお姉さん兼先生のようなポジションを築き上げたようだ。

 ちなみに、トバリも子供受けは悪くない。
 ユリがトバリに対して心を開いているというのが大きな理由だろう。

「ユリ、トバリと一緒のチームがいい」
「はいはい」

 苦笑しながら、ユリの手を握ってやる。
 琴羽のほうを見ると、琴羽も日向に同じようなことをされていた。

 ……この状況を、純粋に楽しんでいる自分がいる。
 そんな自分を見ないふりをして、午前中は琴羽や子供たちと一緒に過ごした。










「お、城谷。おつかれ」
「ああ、おつかれさん」

 ユリや琴羽たちと昼食を食べてから、トバリは病院の中庭に足を運んだ。

 中庭では、何人かの男たちが雑談に花を咲かせていた。
 その中には、辻や城谷の姿もある。
 なにやら作業中だったらしい城谷に声をかけると、城谷はトバリに挨拶を返した。

 ここは元々、患者のために解放されている場所だったが、今は全く別の目的で利用されている。
 というのも、

「菜園の調子はどう?」
「順調順調。大根とかホウレンソウはもうちょいで収穫できそうだな」
「おお」

 今は、この場所は患者たちの憩いの場ではなく、菜園として利用されているのだ。
 今のところ食料が不足しているということはないが、それもいつまで続けられるかわからない。
 それにこの場所で問題なく野菜が収穫できるとわかれば、食料問題は一気に解決へと近づくことは間違いない。

「しかし、よくここまでしっかりできたもんだな」
「肥料とか種とか、俺たちが調達するのが難しいものは全部三田さんが取ってきてくれたからなぁ。あとそういう系の本とか。読んでると意外と面白いんだぜ?」
「家庭菜園の本は、僕も暇な時間を見つけてちょくちょく読んでるよ。いつ必要になるかわからない知識だし」

 簡単に菜園と言っても、やはりそれ相応の知識がなければまともな収穫は望めない。
 その点、城谷はそういった知識をしっかりと吸収しているようだった。

 もちろん、トバリもある程度本を読んだりして知識を蓄えてはいるが、実際に菜園に手を出したわけではない。
 こういった分野に限らず、実際にやってみなければわからないことというのは存外多い。
 もう少し状況が落ち着いたら、トバリも城谷たちに混じって菜園にチャレンジしてみるつもりだ。

「そういえば夜月。朝はずいぶんお楽しみだったみたいだな」
「え? なんの話?」

 刹那とは、この拠点に来てから一度も行為に及んでいない。
 そもそも、城谷には刹那の姿が見えないはずだが。

「とぼけんなよ。朝、琴羽ちゃんと子供たちと一緒に遊んでたじゃねーか」
「ああ、なるほど。そっちね」
「そっち?」
「いや、なんでもないよ」

 どうやら見られていたらしい。
 城谷は少し釈然としない様子だったが、すぐに不自然な笑みを浮かべて、

「で、琴羽ちゃんとはうまくいってるのか?」
「え? なんの話?」
「とぼけんなよ。琴羽ちゃんと付き合ってんだろ?」
「いや、付き合ってないけど」

 トバリがそう言うと、城谷は驚いた表情を見せる。
 というか、なんだその情報。どこから流れたんだ。

「……本当か?」
「本当だよ。なんでそんなことで嘘つかなきゃいけないんだよ」
「いや、でも、そっか……」

 何故か少し安心したような様子の城谷に、トバリは僅かな違和感を感じた。

「それじゃあ、俺はそろそろ行くわ。やることも残ってるし」
「ああ。頑張ってな」

 そう残して足早にその場を去っていった城谷に向かって、軽く手を振る。
 その後ろ姿が見えなくなったところで、トバリは一息ついた。

「……なーんか嫌な予感がするなぁ」

 もしかしたら、城谷は、琴羽に好意を寄せているのかもしれない。

 こんな環境下だ。
 色恋沙汰から取り返しのつかない事件に発展する可能性も十分にある。

 一応、城谷や辻の動きはこれまで以上に気にかけておくことにした。










 そして夜。
 琴羽たちとの夕食を終えたトバリは、ユリと刹那と共に風呂を済ませ、自室へと戻っていた。
 ふらふらとした足取りのユリを手早く着替えさせ、しっかり手を引いての帰還だ。

「んにゅー……」
「めちゃくちゃ眠そうだな。もう寝るか?」

 ユリはこくりと頷くと、そのままトバリのベッドへと潜り込んだ。
 遊び疲れてしまうせいか、最近はずっとこんな感じである。

「って、そこ僕のベッドなんだけど……まあいいか。あ、ありがとう刹那」

 軽く息を吐いて椅子に座ると、刹那が冷蔵庫からお茶を出してくれた。
 冷えた麦茶をありがたくいただく。

「はぁー。うまい」

 こうして、また一日が過ぎていく。
 依然として厳しい状況なのは変わりないが、三田がリーダーをしてくれているおかげで、この拠点は安定を保てている。

 今のところ、トバリに大きな不満はない。
 このまま、今の生活が続いていけば……。

「いや、それはダメだろ……本来の目的を忘れるなよ」

 トバリは自分に言い聞かせる。



 ――この拠点での生活が、悪くないと思っている自分がいることを、トバリは自覚してしまっていた。



 だが、それではダメなのだ。

 今のままでは刹那を蘇生させるのは不可能と言っていい。
 セフィラに超常的な回復能力が備わっているのは実証されたが、そのセフィラを手に入れるためには、他のセフィラを持っている人間か、『セフィロトの樹』の構成員を殺して奪い取らなくてはならない。

 そして今のところ、トバリにそんなことをする予定はなかった。
 もっとも、向こうの方からこちらにやってくる可能性はあるが。



 それに、城谷や辻のこともある。

 あいつらを殺してしまいたい――。
 その気持ちは変わっていない……そう思いたいが、トバリ自身も自覚しないうちに、その気持ちが弱まっているような気がしているのだ。

 それは恐ろしい変化だった。
 トバリは、刹那が永遠に失われてしまったあのとき、誓ったはずだ。
 亜樹の元で、トバリに心ない仕打ちをした奴らに復讐すると。

 だが、今はその芯がブレてきている。
 それはなぜか。

「刹那が生き返るかもしれない、って、思ってるからなのかな」

 それが一番大きな要因なのかもしれない。
 それ以外にも思い当たるフシはあるが、今はいい。

「とりあえず僕も、本腰を入れてセフィラを探すか」

 次に三田が拠点に戻ってきた時に、外出したい旨を相談したほうがいいだろう。
 三田かトバリ、それにユリがいれば、この拠点の防御力はそれなりにあるが、その全員がいない時に『セフィロトの樹』の構成員が襲撃してきた場合、全滅することもあり得る。

 つまり、誰かは残っていないといけないのだが、今までは三田の外出が多く、トバリは自由に動けない状態にあった。
 拠点の防衛は三田に任せ、刹那をユリに任せれば、トバリだけなら自由に動くことができる。
 ユリと刹那を置いていくのは不安ではあるが、仕方ない。

「ふぁあぁ……僕も寝るか……」

 時計を見ると、もう十一時を過ぎている。
 最近にしては遅い時間だ。

 三田が戻ってきたら、相談しよう。
 トバリはそう考えながら、心地よいまどろみに身を任せた。



 だから、そんな可能性は全く考えていなかったのだ。






 ――三田が消息を絶った。

 トバリがそう確信したのは、それから一週間後のことだった。

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