終わった世界の復讐者 ―僕はゾンビを操ってクラスメイト達に復讐する―

触手マスター佐堂@美少女

第10話 探索


 トバリは家を出た。
 生存者が見つかった時のために、自分たちが食べる分も含めて、少量の食料と飲料を持ってきている。
 万が一のことを考えて、護身用の包丁と、金属バットもバッグに入れてある。
 準備は万端だ。

 道路には、ガラス片や血の跡がそこらじゅうにあった。
 近くにある建物は、一目見ただけで荒らされているとわかる。
 大量の車が乗り捨てられ、帰ってくるはずのない運転手たちをひたすら待っているようにも見えた。

 そして、ゆらゆらと歩くゾンビたちが道路を闊歩している。
 まるでそこが、自分たちのいるべき場所なのだと言わんばかりに。

 外の世界は、昨日までと何ら変わりない景色をトバリに示している。
 終わってしまった世界は、まだ続いていた。





 今日、トバリは小学校へ行ってみるつもりだった。
 生存者の集団と接触して、情報の交換を行いたいと考えていたからだ。

「まあ、ちゃっちゃと終わらせよう」

 午前中とはいえ、まだまだ夏の暑さは陰りを見せない。
 あまり長時間外にいようとは思わなかった。

「さて、と」

 小学校の正門は閉まっていた。
 トバリは正門をよじ登り、小学校の中へと入る。

 平時なら警備員さんが常駐している小さな小屋は、当たり前だが無人だった。
 その代わり、ゾンビたちが人間の侵入を拒むように辺りをうろついている。
 中には、小学生くらいの子どもの姿もあった。

 トバリは、正門のすぐ隣にある体育館に目を向けた。
 小学校で避難する場所と言えば、やはり体育館だろう。
 長期間の篭城には、お世辞にも向いているとは言えないが。

「……こりゃひどいな」

 体育館の扉を開けたトバリは、顔をしかめた。

 避難所だったらしい体育館は、凄惨な状態だった。
 あちこちに赤黒い色で染まった毛布やら衣服やらが散乱し、バッグやリュックサックなどが置きっぱなしになっている。
 中を漁ると、懐中電灯やラジオ、電池などの避難用の道具に、通帳や現金なども入っていた。

 とりあえず懐中電灯とラジオを拝借しておく。
 家電量販店などに行く機会があれば調達できるだろうが、そこにいつ行けるかもわからない。

 よろよろと歩くゾンビたちを避けながら、トバリは物色を終えた。
 体育館の中にも、それなりの数のゾンビたちがいたところを見ると、おそらく避難民がいた時期はあったのだろうが、それらはほとんど壊滅してしまったのだろう。

 収穫物をリュックサックの中に詰め込み、体育館を出た。

「……結局、生き残りはいなかったか」

 当初の目的である、生き残りの人間たちと接触するという目的は達成できなかった。
 しかし、もしかしたら校舎の中に立てこもってる人たちがいるかもしれない。

 トバリたちは早速、空いている入口を探してみることにした。
 ほとんどの入り口は鍵がかかっていたが、正面玄関のガラスが割れていたので、そこから侵入する。

「……こりゃダメかもしれないなぁ」

 校舎の中には、あちこちにゾンビの姿があった。
 年齢層もさまざまだ。
 小学生くらいの子供もいれば、成人している男や女、老人の姿もある。

「……ん?」

 一階にある部屋を見回っていたトバリは、すぐに違和感に気がついた。

「これは……」

 教室のドアの鍵の部分が、破壊されている。
 教室の窓や、他の教室も同様だった。

 トバリがこれまでに見ていた限り、ゾンビに鍵を破壊するほどの知能はないように思える。
 つまり、これは人間がやったと考えたほうがいい。
 小学校の教室の鍵など、その気になればすぐに壊せるが……そんなことをするメリットがトバリには思いつかなかった。

 もしかしたら、外にゾンビが溢れている中に、教室で篭城していた子供たちを……。

「いや、でも仮にそうだとしたら、この鍵を壊した奴の身も危なくないか……?」

 まあ、本当のところはよくわからない。
 念のために、この先はさらに気を引き締めて進むことにする。

 とにかく、一階部分には生存者はいなかった。
 トバリは二階へと向かった。

「これは……」

 二階は、一階と比べるとだいぶ様子が違っていた。
 バリケードの残骸のようなものが残っているため、何人かの人間はここに篭城していたのだろう。

 だが、残骸だ。
 今現在、ここに人間が篭城している気配はなかった。

 この階も、教室のドアの鍵は破壊されていた。
 窓も破壊されているため、教室の中に生きている人間がいないのは一目瞭然だ。

 次に、特別教室が集まっている区画に向かう。
 このあたりは普通の教室とは異なり、外から教室の中までは見ることができない。

 白いプレートには、『コンピューター室』と書かれている。
 トバリはその教室に入ってみた。

「うぉ……」



 少女のゾンビが、少年の死体を食っていた。



 おそらく、両方とも小学生だ。
 少女は、年齢の割に長い黒髪をツインテールにしている。
 少年の方はうまく見えない。

 その場にしゃがんでいる少女は、少年の指を口にくわえていた。
 肉と骨が砕ける嫌な音が辺りに響き、びちゃびちゃと血の滴る音がトバリの耳を叩く。

 それはあまりにも冒涜的な光景だった。

「……やっぱり、ゾンビは人を喰らうのか」

 そして、トバリの中で少し疑問に思っていたことの謎が解けた。
 ゾンビになっていた時の刹那がトバリに噛み付いていたからそうではないかと思っていたが、やはりゾンビは人を喰らうようだ。

 そんなことを考えながら、トバリがその場を立ち去ろうとした、そのときだった。

「……ん?」

 視線を感じたトバリは、後ろを振り向いた。

「……っ」

 少女のゾンビが、トバリのことを見ていた。
 思わず、そのあまりにも空虚な瞳から目を逸らしてしまう。

 何となく、嫌な感じがする。
 少女のゾンビを残して、トバリがコンピューター室から出ようとした、まさにそのときだった。



 ゾンビの少女が立ち上がり、トバリのほうに向かって歩き始めた。

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