スキルゲ

チョーカー

夢での決闘 その⑦

 杖代わりにしていたショートソードを構え直す。
 支えを失った体が左右にぶれる。
 何とか、ふらつきを抑えて、蒼井明を見据える。
 仰向けの状態。いや、体を動かし、顔を向けてくる。
 そのまま、体を起こす。
 四肢を槍で貫かれ、体に穴を開けられ
 それでも―――
 それでも、体を起こしていく。
 尋常ではない痛みが襲っているはずだが、その表情には、笑みが浮かんでいる。
 違和感。戦いの直前に感じられた違和感が走る。
 正体不明の違和感。この正体は何なのか?
 一体、僕は何が気になっているのか?
 頭を振う。今、優先させるのは、この戦いを終わらせる事だ。
 加速スキルを発動させるためにイメージを開始させる。
 ショートソードをしっかりと握り直す。
 狙いは蒼井明の体。その胸を貫くイメージを確定させる。
 加速中の軌道。そのイメージはシンプルに直線。
 すべてのイメージを完了させ、スキルを発動させる。
 体は、自分の意思に反して動き始める。そして、一気に加速が開始される。
 蒼井明の胸を貫くまで、1秒にも満たない、僅かな時間。
 違和感。またも違和感。
 蒼井明の表情。最後に笑みを浮かべている。
 ・・・・・・笑み?
 嘲笑い―――ではなく笑み?
 嘲笑いではなく笑みを浮かべている。
 今までの嘲笑いは挑発だとしたら、なんのために自分を追い詰めるような挑発を?
 そして、今浮かべている笑み。
 それは、目的の達成を喜んでいるのではないか?
 目的?
 じゃ、その目的が今の状況だとしたら?
 死? 自らの死。そのものが目的?
 なぜだ?
 だが、もう加速スキルは止められない。
 加速中の動作は、人間の反射神経を超える。そのために動きのキャンセルは効かない。
 たとえ、僕の答えが真相だったとしても・・・・・・

 蒼井明は大きく後ろへ弾き飛んだ。
 僕の腕には胸を突いた感触が―――
 そして、大きな反動が残る。

 「おい、何があったんや?」 
 声に振り返ると、晴人が訝しい表情を浮かべている。
 『何をやっているんだ?』ではなく『何があったんや?』
 僕の行動に理由があることを前提の言葉。
 ありがたい。心底、そう思う。

 加速スキル。超スピードを可能にするスキル。
 ゆえにキャンセルできない。
 だが、僕のショートソードだけなら自由に消される。
 そう、僕は蒼井明の胸を貫く瞬間にショートソードを消したのだ。
 蒼井明が後方へ弾き飛んだ。その理由は―――
 単純に素手による打撃によるものだった。

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