スキルゲ

チョーカー

悪夢の道化師 ④

 ピエロの攻撃パターンは単純だ。
 距離ができると目前から姿を消す。まるで瞬間移動のように背後を取るとナイフで攻撃してくる。
 今まで、何とかタイミングを掴んで回避に成功してきた。
 しかし、だからと言っても―――
 反応が遅れれば即死の攻撃技。
 一撃を避ける毎に精神力が削られていく。
 積み重ねていく疲労感。いつ集中力が途切れて対処をしくじるかわからない。
 それほど、戦いにおいて背後を取られるというアドバンテージは大きいのだ。

 しかし、先ほどとは状況が変わっている。
 僕を狙うか?晴人を狙うのか?相手の選択肢が2つに増えている。
 そして僕らは、どちらかが攻撃をされたら、残った方が味方のフォローに徹しられる。
 ピエロの不死身性。僕はピエロを倒すことを諦めていたわけだが・・・・・・。
 晴人とコンビを組む事で打破できるかもしれない。
 そういう可能性。いや、希望を見出していた。
 攻撃のバリエーションが広がる事で、あるいは―――

 「来るで!?」
 晴人の掛け声で集中力を上げる。
 ピエロの体が、二重にボヤけて、薄れて、消えた。
 どっちだ!?
 体が無意識に動く。脳が命令を出すよりも早く、体がルーチン化した回避運動を命令したのだ。
 大きく前へ踏み出すと、そのまま前方宙返り。
 空中で逆さになった僕は、ピエロの攻撃を肉眼でとらえる。
 ピエロもまた前へ出る。やはり、手にはナイフ。
 ピエロは、僕を追ってナイフを真っ直ぐに突き立てようとする。
 だが、その一撃は僕に届くことはない。
 ピエロの腕には黒い物体が巻きついて、その動きを封鎖して行くからだ。
 晴人が持つ黒炎の羽。その羽が形を変化させ、ピエロの腕に絡みいていく。
 否、腕だけではない。もはや、ピエロの体全体を覆い尽くしている。 

 「晴人。そいつには通常攻撃が通じない。そのまま圧縮して潰してしまえ!」

 僕の的確なはずのアドバイスに、晴人は、なぜだか一瞬だけ嫌な顔を浮かべる。
 しかし、しっかりと頷いた。
 もはや、黒い炎に包まれピエロの姿は見えない。ミシミシと軋む音だけが響いている。
 だが、不意に異音が消滅する。

 「アッハハ・・・・・・笑えないよ」

 声は僕らの背後。例の瞬間移動によって脱出したのか、振り返ればピエロがいた。
 しかし、無傷ではない。明らかなダメージの後が体に残っている。
 やはり、あの瞬間移動にも、不死身性にも制限があるのだろう。
 瞬間移動が自由自在ならダメージを受ける前に脱出する事も可能だったはずだ。
 それよりなにより、不死身なら脱出する必要すらない。
 僕は、そんな分析も終わらせ、追撃に入る。
 加速スキルを使い、一瞬で距離を詰めると同時に一太刀を浴びせる。
 だが、僕の一撃はピエロに届かなかった。
 ショートソードを振り下ろす直前にピエロの姿が消えたのだ。
 そして―――
 ピエロの気配が消えた。

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