スキルゲ

チョーカー

名探偵?現る

 沢村裕さん。
 本陣での役割は鑑識兼調査官と言った所だろうか?
 彼自身、熱狂的なミステリフリークであり、彼のスキルも調査能力に長けてものを好んで習得している。極振りというやつだ。
 そして、スキル使いには珍しく、普通の職も有している。
 その職業は名探偵であった。街中に事務所を構えていて、繁盛しているみたいだ。
 本陣での役割も本業の延長線上だと考えている節がある。
 「探偵は職業ではなく生き方」という言葉もあるけれども、彼はそれを地で行くハードボイルドスタイルでもあった。
 だから、彼は自分の職業を『探偵』という言葉で表されると怒る。烈火の如き怒る。
 まさに激怒のバーゲンセールと言っても過言ではない。
 そんなに怒って、本業をどうやってこなしているのか疑問に思うほどだ。
 だから僕は、沢村さんの職業を教えるときには『探偵』ではなく『名探偵』という言葉を使うのだ。
 それには自分を探偵を呼ぶなと言う沢村さんへの皮肉も込められてはいる。しかし、探偵としての能力は高く、あながち名探偵で間違いはないと僕は思っている。
 味方なら心強い存在だ。味方なら・・・・・・
 だが、晴人の遺体を調べたのは、他ならぬ沢村さんである。
 これから、僕は沢村さんの仕事を否定せなばならない。
 つまり、現時点では敵として立ちふさがる相手なのだ。

 「まぁ、兄ちゃん。座れよ」

 本陣の休憩室。沢村さんは、明らかに不機嫌そうに椅子を進めてきた。
 僕は進められるままに椅子に腰をかける。
  「まさか、兄ちゃんが俺の仕事にケチをつけてくるとは思ってもみなかったぜ」
 沢村さんは愉快そうに言うが顔は笑ってはいなかった。
 「別にケチをつけたいわけじゃないんですよ。僕は、ただ・・・・・・」自分の気持ちをうまく言葉にできず、言いよどんでしまう。
 「納得できないって事か?」意外そうに沢村さんは言う。
 それに僕は頷いた。

 「いいぜ。証拠ってのは何かわかるか?」

 「えっと、犯人を示す物ですか」 

 「ちげぇよ。馬鹿野郎」と沢村さんは怒鳴るが、どこか楽しそうな顔に変わっていた。
 「いいか?証拠ってのは、所詮は裁判で罪と罰を決める物差しなんだよ。大切なのは裁判で証拠として認められる重要度。でも、俺達は裁判なんてやらねぇよな?」
 「そうですね」と相槌を打ってみた。沢村さんの話は続く。
 「この本陣てのは、警察とか、裁判所とか、公的機関の真似事しているが、もしスキルを使って凶悪犯罪を起こす奴が現れたら、自分達の手で捕まえて、自分達の手で死刑にでもするのかね?そんな権利がここの連中にあるのかねぇ?」
 「ないと思いますよ」
 僕の返事が気に入ったのかもしれない。続きを催促するように沢村さんは「ほう」と洩らした。

 「この本陣がやってる事を突き詰めていけばローカルルールじゃないですか?そこに住む人達が納得すれば、それが正しいって事になるんですよ」
 「つまりは納得か。結局、俺達は自分が納得してぇから、こういう真似事をやってるって事なのかねぇ」
 沢村さんは、タバコに火をつけ紫煙を上げる。
 暫しの沈黙があり、次に沢村さんが口にした言葉は―――

 「じゃ、兄ちゃんも納得させてやるか」
 

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