スキルゲ
如実な悪夢
「賢志くん、まだ着替えていないのかい?」
そう言ってきたのはクラス委員の縦川くんだった。
いきなり言われても、僕には、なんの事だかわからず「え?」と短く返事を返した。
周囲を見渡すと僕を除いたクラスメイトの全員が学校指定のジャージと着替えていた。
いや、全員ではない。どうやら女子は退室済みのようだ。
「えっと、1時限目は体育だったけ?授業変更の連絡はもらってないけど?」
僕の言葉に縦川くんは目を見開いた顔を見せた。
普段、仏頂面がデフォルトの彼が見せたレアの表情だった。
 「何を言ってるんだ君は?今日が体育祭だという事を忘れていたのか?」
「はぁ?」
一瞬、新手のジョークかとも思ったが、縦川くんの表情から『マジで言ってるのか?コイツ?』と無言のメッセージが送られてきた。
いや、クラスの男子全員もこの会話を聞いていたのか『正気か?コイツ?』と無言のメッセージが総受信されてくる。
何かがおかしい。
そう考え込みながらも体育祭のプログラムは順調に進んでいく。
騎馬戦。棒倒し。パン食い競争。障害物競争。応援合戦。
王道でありながら、今時はありえないプログラムが組まれている。
時代錯誤が校風の我が校らしいと言えば、それまでだが・・・・・・
鉄板と鉄パイプでできた応援席。背後にはベニヤ板にアニメ調の絵が貼られている。
いつ作っていたのか、僕の記憶から完全に欠如されている建造物に座りながらも、考え事を続ける。
このアニメは一体、誰の趣味なのだろうか?
うむ、現実逃避である。今一度、頭を切り替えよう。
こういった場合は大抵、原因があるのは僕の方なのはわかっている。
わかっていたが、それを切り捨ててクラスメイトを応援する気分にはなれなかった。
一体、これはどういうことなのだろうか?
ぶっちゃけ、記憶の混乱には慣れてきている僕ではなるが、この動揺を押さえ込むほどの鋼の精神力を持ち合わせていない。
いやいや、そんなことより、現状は正確に把握せねば・・・・・・
不意に騒がしさを感じられた。
どうやら、競技中の女の子がしゃがみこんでしまったようだ。
貧血か? そんなごく当たり前の単語が浮かぶ。
教員やら、生徒が心配した表情で彼女に近づいていく。
休める場所に移動させるためにか、彼女を起こそうと教員が手をさし伸ばして・・・・・・
その手を彼女は噛み付いた。
何が起こったのか? 一瞬で正確に把握した自分がいる。
彼女の姿は、ゾンビに変化していたのだ。
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