スキルゲ

チョーカー

バイバイ

 空間が歪む。 
 地面には、魔法陣のような模様が浮かび上がっている。
 そして、何かが聞こえてくる。
 最初は意識していないと聞き逃してしまいそうな音量。
 それが、徐々に鮮明になっていく。
 それは歌声。
 その歌声はエルの歌声と同じ物であり、歌っている歌も同じの物だ。
 それは、一つの歌声ではない。
 複数の歌声が多方向から聞こえてくる。
 なんて幻想的な光景なのだろうか?
 上空から舞い降りてくる天使達。
 多くの天才画家達がイメージとして描いてきた光景が目の前で広がっている。

 嗚呼、これは奇跡なのだろう。
 モンスターであるはずの彼女たちは、僕に敵意を見せることもなく近づいてくる。
 その動作には、僕に対して感謝を表明しているようにも見える。
 『仲間を助けてくれてありがとう』
 信じがたいことかもしれないが、僕にはそう思えてならないのだった。
 そしてエルの方へ視線を動かす。
 彼女は複雑そうな表情を浮かべていた。
 天使達には笑みを 僕には戸惑いを
 彼女も困惑しているのだ。そして理解しているのだ。これから行われる別れを
 そんな彼女に、僕はできるだけ優しく話す。

 「別に一生、会えなくなるわけじゃない。なんだったら、明日にでも遊びに来てくれても構わないよ」

 心配するような事はなにもない。僕はワザと、おどけた風に演出する。

 「だから、そんな顔をしないでくれよ」

 彼女は様子はどうだろう? 
 なぜだか分からない。
 わからないけれども、彼女の考えが読めなくなっている。
 たぶん、これは・・・・・・
 心が離れて行ってるという事なのかもしれない。
 そして彼女は心を決めた。
 集まっていく仲間たちを歌で迎える。
 仲間たちに向かって飛び上がった彼女は、最後に振り向いて

 『バイバイ』

 と言葉を残して行った。

 彼女の言葉に驚き、反応が遅れた。
 最後の言葉を返そうと口を開いた時には、彼女たちの姿は消えていた。
 これで良いんだ。変に彼女をこの世界に束縛してはならないのだ。
 それは彼女の心を操る事になる。
 僕は外したまま、手にしていた仮面を眺めながらそんな事を考えていた。
 それから、言いそびれた言葉を虚空の空に向かって呟いた。

 「バイバイ」

 

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