スキルゲ

チョーカー

北川幸二 逃走

 ドラゴンの叫び声がビリビリッと皮膚を叩く。
 効いている。あのドラゴンが明らかなダメージを受けている。
 遠く離れた場所から、艶子さんは小さな手の動きだけでムチを操っている。
 ムチの先端は、まるで生き物のように自由自在に動き回る。
 しなりを作り、再びドラゴンの目をムチがとらえる。
 さらに攻撃は続き、口、鼻、耳を叩く。
 そこは粘膜。
 例えボスモンスターでも、
 例えドラゴンでも、生物である以上は柔らかく、弱点と言える部分。
 あのドラゴンが、攻撃を嫌がり、背を向いて逃げようとしている。
 その光景は、実際に見ている僕ですら信じ難く、圧倒される。
 そんな逃げるドラゴンに追い打ちとばかりに背後から迫っていく影。
 佐々木さんだ。
 まるで、その肉体が大砲の弾だと言わんばかりの突進。
 ドラゴンに体をめり込ませ、ドラゴンを弾き飛ばした。
 強い。本当に強い。
 あのボス狩りの拝田アキラは強かったが、それ以上に強いのではないか?
 そう考えてから、彼ら3人がこの街でトップを争うような存在だったのを思い出した。
 普段は普通に接しているから忘れがちだが、単純レベルなら拝田アキラよりも上のはずだ。
 それが3人共闘している。
 そりゃ・・・・・・ 強いわけだ。
 彼らはボス狩りの専門家のように対ボス用のスキルを持っているわけではない。
 普通に通常のスキルだけでボスモンスターであるはずのドラゴンを追い込んでいる。
 彼らは、ごく当たり前のようにボスを倒せる実力の持ち主たちだったのだ。

 「さて、見学も良いけど、そろそろ北川幸二を捕まえといてくれないかしら? 本当の事を言うと私たち3人が本気を出したら、北川幸二だけならともかく、この部屋自体を吹き飛ばしちゃうから、貴方と晴人は離れていて欲しいのよね」

 その言葉で僕と晴人は目を合わせる。
 そして、次に北川幸二と目が合う。
 僕らとアイコンタクトが成立すると、彼は大きく頷いた。

 「フッフッフッ、ここは我がしもべに任せるとしよう」

 北川幸二は、それっぽいセリフ言い終えるが、椅子に座ったまま動かない。
 少し待つと、エレベーターのように北川幸二がいる周辺が下がっていった。
 確か、歌舞伎とかで使われる奈落ってやつだ。
 ドラゴンと戦っている3人の辺りは迂回して、北川幸二がいた場所まで走った。
 下を覗くと通路が見える。 このまま飛び降りれない高さでもない。
 最後に、艶子さん、佐々木さん、車多さんの戦いを見て、決心をつける。
 僕と晴人は、北川幸二を捕まえるために飛び降りた。
 文字通り奈落の底へ。 
 

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