スキルゲ

チョーカー

敗北宣言と天使の正体

 
 「せめて、もう少しだけ早ければ・・・・・・」

 北川幸二は、忌々しいものを見るような表情を浮かべて呟いた。
 そして、この場所にいる面々を見渡した後に続く言葉は

 「我々の負けですね」

 敗北宣言だった。
 予想外。ここまで大多数の人間を巻き込んでおいて、自分は戦わないのか?
 僕らが困惑する中、艶子さんが代表として前に出る。 

 「負けましたで終わるわけないでしょ?貴方の目的は何?」
 「無論、負傷者の慰謝料は全額負担します。施設の修理費も見積もりを送ってください。ただし・・・・・・

 北川幸二は言葉を切り、エルに視線を向ける。
 それに釣られて、自然と全員がエルの方を見る。
 全員の視線を受け、エルはバタバタと慌てふためくリアクションを見せる。
 それは、このシリアスな場面と合わなくて現実味を感じさせない。
 北川幸二は、そんなエルの様子を楽しむように言葉を塞き止める。
 そして、十分過ぎるほどタメを作って、小さな笑い声と共に続きを述べる。

 「その天使を返却願いたい」

 やはり、という予感はあった。
 北川幸二とエルとの間に何らかの関連性はあると予測はしていた。
 しかし、だが・・・・・・

 「断る」

 自然と声に出していた。でも声に出すことで、しっかりと理解できた。
 これが僕の本心だ。

 「どんな理由があったとしても、彼女を取り戻すために普通の人達に武器を持たせ、集団でここを襲った奴に彼女を渡すわけにはいかない」

 僕の視線を受けても北川幸二は態度を崩さない。
 ニヤニヤと小さな笑みを浮かべ、どこかこちらを小馬鹿にしてるような表情を続ける。

 「おやおや、決裂ですか。困りましたね。ですが、素朴な疑問としていいですか? 貴方にそんな権限があると思っているのですか?」

 権限?想定外の言葉に心が揺さぶられる。
 なんて答えるべきか? 思考を巡らせるが、うまく出てこない。

 「それじゃ、お前には権限があるとでも言うのか?」
 「ありますよ。元々、彼女は私の所有物なのですから」
 「しょ、所有物だと」

 思わず言葉が濁り、代わりに怒りがこみ上げてきた。
 僕の言葉は怒声へと変わる。

 「お前にとって、彼女は物扱いなのかよ!」
 「そうですよ?わかりやすく言うなら、私が所有するテイミングモンスターなのですから」

 さっきまでの怒りが大量の冷水を浴びせられたかのように、急激に消え去っていく。
 一瞬、目の前の男が何を言っているのか理解できなかったのだ。
 確かにエルがモンスターである可能性は考えていた。たしかに考えていたはずなのだ。
 しかし、その事実を唐突に突きつけられた衝撃は、あまりにも大きかった。
 愕然とする僕、いや、僕以外の仲間達も皆、同じ心境なのだろう。
 誰も何も言えない。
 そんな状況でも、ただ1人、北川幸二だけは喋り続けた。

 「些細な事が原因で、彼女の所有権は私から賢志さんに移ってしまったようなのです。私たちも大変、困っていましてね。どうか、どうか返却をお願いしますよ」

 北川幸二の言葉は丁寧な言い方だが、煽り立てるように語尾を強め、こちらを畳み掛けるようだった。
 そして、彼の顔には、こちらを見下すように下品な笑いがこびり付いていた。

  

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