悪意の動機

　西田健一の独白に、僕は背筋の凍るような寒気をうける。
　しかし、西田健一の言っている事は理解できる。
　単純な動機だ。　ムカつくから殺す。気に入らないから殺す。
　それは、僕でも理解できるシンプルな動機。
　だが、それすら西田健一は否定した。

　「ただ、勘違いして欲しくないのは、それが理由で殺人を犯してるわけじゃないという事だ」

　西田健一に僕の表情はどう写っているのだろうか？
　僕の顔を見ている彼は愉快そうな顔をしている。

　「私が人を殺したり、非人道的な行為をするのは、ただの実験さ。試したい事があって、人が死ぬ必要があったから殺した。それだけの事と言ってしまえばそれだけの事」

　思わず、椅子から立ち上がろうとする僕を西田健一は片手で静止する。

　「落ち着きたまえよ。伊達や酔狂でこんな話をしてるわけじゃないんだよ？」
　「それじゃなんのために話してるんですか？　僕に対する挑発としか思えませんよ」
　「メリットの話さ。君が僕の仲間になるメリット」
　「メリット？」
　「例えば、あい。あれも私の実験の１つの成果だ。テーマは『モンスターのレベルを上げ続けるとどうなるか？』だった」

　嬉々として、自分の実験内容を語り始めた西田健一の姿は、さながらマッドサイエンティストのようだ。

　「実物の見てもらった通り、結果は限りなく人間に近づいていくというものだ。ただ、この話で重要なのは、結果よりも経過・・・・・・」

　「さて、あいを作るために何人が犠牲になったでしょうか？」

　もう嫌だ。コイツの言ってる意味がわからない。
　今ここでコイツの口を封じないと自分が自分でいれなくなってしまうような錯覚。
　頭が痛む。コイツ、殺さないとダメだ。

　「まぁまぁ、そんな物騒なものはしまって。話は終わってないよ」

　気がつくと片手にショートソードを装備していた。
　ダメだ。このままだと、僕は西田健一を殺してしまいそうだ。
　そんな感情を知ってか、西田健一は話を続ける。

　「君が僕の仲間になるなら人を殺す行為はやめるよ。よかったね。君のおかげで何万人って人の命が助かる事になって」

　「おまえ！？」

　僕は立ち上がると同時にスキルを発動させる。
　事前のイメージは完了し、イメージに則った動作を体が開始する。
　一瞬で、西田健一の背後に回り込み、手にしたショートソードを振り落とす。
　僕のスキルはイメージした動作を高速で行うスキル。
　そのため、殺すという感覚ではなく、既に殺したという感覚に陥っている。
　だが、振り下ろしたショートソードは空を切った。

　避けた？そんな馬鹿な！
　そんな思考も一瞬の事。　背後に回った西田健一は僕の腕を押さえ込む。そのまま、残った片手で後頭部を鷲掴みし、僕をテーブルに叩きつけた。