スキルゲ

チョーカー

悪意

 
 「西田健一。それも偽名ですか?」

 僕は、握手に差し出された腕を見たまま会話を続ける。

 「でも名前なんてただの記号だろ?通じればいい」
 僕は「そうですか」とだけ答え、出された右手を握った。

 「いててててッ!」
 意外と力強い握手だった。
 こちらの強さを計る目的だったのかもしれないが、非力な僕は握り返すこともせず、されるがままだった。そして、解放されたのは数秒後。

 「それで、僕にどんな用があって呼び出したのですか?わざわざ、手の込んだ演出までして」

 自称、西田健一は宙に目をやり、少し考えてから答えた。

 「単刀直入に言うと、仲間に誘いたかったからかな?」
 「仲間!?」

 一瞬、仲間ということ言葉に、僕の知らないニュアンスがあるのかと考えてみたが、当然出てこない。

 「なんで、僕を仲間に?」

 というか、僕が少しでも仲間になる要素があると思ってるのか?こいつ?

 「仲間や友達になるのに理由が必要か!」
 「・・・・・・」

 少年誌の主人公みたいに返された。風貌に対して、若干メンドくさい性格をしてるみたいだ。

 「とういうのは冗談さ。もちろん、仲間にしたい理由はある。知りたいかい?」

 正直、知りたくもないが、西田健一の聞いてくれオーラがすごい。仕方なしに聞いてみる。

 「ええ、もちろん」

 「単純に君が何色にも染まってないって所があるからさ」

 何色にも染まっていない?それは、珍しい評価の仕方だ。むしろ、優柔不断と評されてることすらあるのだが・・・・・・。

 「たぶん、勘違いしてると思うが、私が言ってるのは君の髪の事さ」

 「はぁ?」と思わず、声を出すくらい意味がわからない。イラッとすら感じた。

 「別に馬鹿にしてるわけじゃない。君の身の周りの人間を思い出してみたまえ、ほとんどの人間が奇抜な所があるだろ?」

 確かにそうだ。晴人だったり、艶子さんだったり、派手な髪の色をしてる。
 佐々木さんの体つきや香さんの男装。
 それだけならともかく、昨日の会合。集まった100人ほどの人間が、何らかの特殊な風貌をしていた。
 無意識に自分の黒髪を自分で触っていた。どこか、西田健一のペースに飲まれてるかもしれない。

 「それになにか、理由でもあるのですか?」
 「彼等は、どこかで特別な存在だと誇示してるのさ。無意識にね」

 西田健一は静かに怒声を上げる。思わず、気後れしそうになってくる。

 「それが、それが悪いことなんですか?」

 「いいや、何も悪くはないさ。ただ、私には虫唾が走るってだけのことさ」



 『個人的な感情さ。ただ、個人的な感情。ただそれだけなのさ』


 西田健一、仮面の男。彼は、地獄の底から声を捻り出すように呟いた。


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