スキルゲ
仮面の男
薄暗い室内。
そこの中に、ぼんやりと男のシルエットが浮かぶ。
「待ちくたびれたよ。さぁ、座りたまえ」
まるで舞台役者のように透き通った声。催眠術でもかけられてるような感覚。心地よさすら感じられる。僕は、言われるまま椅子に座った。
正面にテーブルを挟んで仮面の男が座っている。
そこで初めて気がついた。仮面の男は仮面を外し素顔を晒してる事を。
「ようこそ。本当に来てくれるとは思わなかったよ」
「仮面、外してるんですね?」
仮面の男の素顔を見るのは初めてではない。加藤が仮面の男と対峙し、その仮面を真っ二つにしたのは昨日の事だ。だが、あの時とは違い、自身の意思で仮面を外している。
そこには、どんな思惑があるのかと、深読みしてしまう。
「真っ先にしてくる質問がそれだとは、悲しいよ」
わざとらしい、おどけた表情を見せてくる。
「あの仮面は武器だからね。仮面を外してるのは敵意がない証拠と思ってくれたまえ」
「そうですか・・・・・・」
だからと言って警戒を解くはずもない。
仮面の男は、そんな僕の様子をつまらなそうに見ている。
「それじゃ、自己紹介でもしようじゃないか?」
「僕の家を調べたなら、大抵の事は知ってるのでは?」
「確かに、私は君の本名も家も知っているが、君は私の何も知らないだろ? よくある『名前を聞くなら自分の名前を名乗れ』って奴の逆だよ」
一瞬、正しいと思ったが、よくよく考えてみるとおかしな理屈のような気もした。だが、わざわざ仮面の男が名前を教えてくれるというなら、悪くない。
まさか、西遊記の金閣&銀閣みたいに名前がきっかけで発動するタイプのスキル攻撃があるわけでもないだろう
。
「王越賢志、16才。高校生」
「門田研一郎 21才だ。住所不明無職だ」
やってみると、随分と素っ気ない自己紹介だった。
「あいちゃんの苗字はあなたから来てたのですか?」
「そうだ。何かおかしいか?」
「いえ、てっきり、ドラキュラの鏡文字をもじってつけた名前だと思っていたので」
「・・・・・・」
自称、門田研一郎さんは沈黙で返答した。
「えっと、ここにきて偽名ってわけじゃないですよね?」
「うむ・・・・・・。君が、どのくらい高い知識の持ち主か試してみただけだよ」
嘘くさい。というか、たぶん嘘だ。
「では、改めて・・・・・・。
初めまして。私の名前は西田健一。以後お見知りおきを」
仮面の男、西田健一は立ち上がり、右手を差し出した。
それが、握手だと気がつくのに数秒かかった。
そこの中に、ぼんやりと男のシルエットが浮かぶ。
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