スキルゲ

チョーカー

日常への帰還 

 
「なーなー、漫画における主人公の血統批判ってあるやん」

 朝の授業前、教室で漫画を読んでいた僕に晴人は話しかけてきた。

 「実は、主人公の父親が特殊な人間で、主人公の力が遺伝的な感じがして萎えるって話のことかい?」
 「それや。でもな、俺は逆やと思ってるんや」

 ん?逆? 晴人の話に興味が出てきた僕は、読んでた漫画を閉じた。

 「俺らは親が産んでくれたから、ここにいるわけや。でも漫画の主人公は逆なんや」
 「ほう、つまりどういうことだい?」
 「作者が最初に生み出すのは主人公からや。そして、両親は主人公のキャラを掘り下げるための装置として作られるものなんや」
 「なるほだ、なるほど。続けて」 だんだん、読めてきたぞ。
 「父親とは、象徴なんや。男が越えなければならない壁の象徴。ゆえに・・・・・・」

 『主人公を魅力的に書くためには、相対的に父親が壮大なキャラになるんや』

 「なるほど、それは正しいね」そう言いながら、僕は話を続ける。

 「ただし、正しいのは、作者の視点、読者の視点。言わえるメタ視点における正しさだ」
 「な、なんだと・・・・・・」

 晴人は明らかに焦りを含む表情になる。

 「僕にとって、漫画で重視するのは物語性だ・・・・・・。作り手側の合理性。そこは理解するが、それはあくまで物語における不純物だ」
 「馬鹿な!漫画における作者そのものを否定するのか!」
 「それを作品内に見せると言っている」

 あの戦いから、一夜明け、僕らは日常に戻っていた。
 昨日は徹夜ということもあり、若干、ハイになっているのかもしれない。
 箸が転がってもおかしい年頃ってやつだ。 うむ、喩えが間違ってるのは、徹夜の影響だろう。
 不意に加藤の席を見る。思い返せば、加藤は数日間、欠席をしていた。
 今日も加藤は休むようだ。というより、普通に学校に来てる僕らの方がおかしいのかもしれない。
 あの後、帰り道で少しだけ加藤と話をした。
 晴人が転校してきた日。あの日の放課後。
 僕が初めてモンスターと戦った時、加藤も学校へ残っていたそうだ。
 その時、加藤も初めて結界の中に入ったらしい。
 僕には晴人という案内役がいた。だが、加藤に説明してくれる人間はいなかった。
 無我夢中。わけのわからない。
 化け物から逃げて、逃げて逃げ回っていたそうだ。
 その時、助けてくれた人物。その人物を師匠と呼び慕ってたらしい。
 あの加藤が慕うほどの人物。それがどれほどの人物だったのか?
 想像だにすらできないのだが、よほどの徳がある人物だったのだろう。
 その師匠が殺された様子を見た。仮面の男の手で刺殺されるの見たという。
 それに何もできず、立っているだけの自分が許せなかった。
 その後、狂ったかのようにレベル上げを繰り返したという。
 ただただ、仮面の男を殺す為だけに・・・・・・。

 しかし、加藤のレベルは、僕と大差がないものだった。
 モンスターが人間を殺してレベルアップする。逆説的に言えば、僕らにも経験値が設定されているはずだ。ならば、ハイレベルの人間を殺すことを厭わない仮面の男のレベルは、どのくらいあるのだろうか?
 それなのに、なぜ加藤は仮面の男を互角に一人で戦えたのか?
 それは、加藤のスキルに秘密があった。

 『スキル伝承』

 瀕死の重症の時のみ使用できる裏技。
 自身の死と引き換えにスキルの一部を周囲の人間に伝承することができる。
 それを加藤の師匠は行ったという。
 肉体をスライムに捕食されながら、薄れる意識の最中にスキルを加藤に託したという。
 あの日本刀スキルは師匠から受け継いだスキルだったのだ。

 加藤との対話を思い出してると教室のドアが開いた。
 時計を見ると、もう遅刻の時刻だが、関係ないと言わんばかりに加藤が入ってきた。
 クラス中の視線を浴びながら、堂々を教室を歩いていく。
 その最中、僕の方は見て笑みを浮かべたのは、気のせいだったのか?

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