スキルゲ

チョーカー

仮眠

 
 「でも艶子さん、あの人を置いていって本当に大丈夫なの?」

 罠の可能性を考えて、態勢を立て直すための撤退。その最中だが、流石に人を置き去りにするのは気が引けた。

 「大丈夫、大丈夫よ。彼は強いから。レベルだけなら、君と同じくらいだけど」

 レベル上げを初めて、一週間足らずの僕と同じくらい? じゃ、艶子さんの自信はどこから来てるのだろうか?

 「あっ、彼女。目が覚めたわよ」

 香さんが抱いてた少女が目覚めたらしい。
 そっちの方向を見ると、少女は1人で立ち上がりキョロキョロと辺りを見渡している。

 「ここどこ?お母さんは?」

 不安そうな少女の表情にどう声をかければいいんだろうか?僕は戸惑ってしまった。
 すると、艶子さんが少女に近づき、話かける。

 「おねぇちゃん達は、悪い怪物を戦ってる正義の味方なの。あなたを無事におウチへ送り届けてあげるから、少し我慢してね」

 艶子の言葉に少女は頷く。艶子さんの言葉を信じて信頼してくれたようだ。
 全身ピンクでデフォルメされたアニメキャラぽいからかな?

 「お嬢ちゃんのお名前はなんていうの?」
 「わたしはあい。かどたあいです」

 たどたどしい自己紹介が、艶子さんのツボにはまったらしい。身をくねらせて喜んでるぞ。あの人。
 かどたあい。門田愛かな?

 その後、撤退を決めて1時間くらい歩いた。
 だが、僕たちはまだ結界の中を歩いていた。

 「妙やな。ここまで来て、結界の外に出れないと‥‥‥。モンスターに付け回されてるとちゃうやろうな?」

 晴人の言葉にあいちゃんを覗いた全員が振り向く。
 しかし、周囲にはモンスターの気配すらない。 

 「やれやれ、驚かせないでくださいよ。晴人さんは探査系スキルを取得されてますよね?近くにモンスターの有無はわからないんですか?」

 佐々木さんの質問に晴人は首を振る。

 「あかん。本来は、結界を探したり、結界内のモンスター情報を調べるスキルやからな。結界の内部に入ってしまったら役に立つ情報は、ほぼ得られないよ」
 「俺も質問良いか?」

 正平さんが近づいてきた。どうやら、周囲のゾンビは殲滅したようだ。

 「そのスキルで、どこまでわかる? 結界内のモンスターの種類はわかるか?」
 「種類くらいはわかるけど、強さとか名前とかわからんで」
 「じゃ、この結界内にアンデット系以外のモンスターはいるか?」
 「えっと、調べるから待ってや‥‥‥。いや、おらへんな」
 「じゃ、問題ない。俺は寝る」
 「「「えっ!?」」」

 その場にいる全員が驚きの声を上げたが、正平さんは我関せずで横になった。

 「悪いが、明日も朝練がある。仮眠くらいは取らせてもらう」
 「いやいや、そりゃ自殺行為だろ?自暴自棄になるのは早すぎるぜ」

 そんな香さんの軽口に対して、正平さんは横になったまま答える。

 「これが本当に罠なら、敵は俺達が疲労しきった所を狙ってくるはず。だが敵にはタイムリミットがある。それまでに無駄な疲労は避け、凌ぎきればいい」

 その正平の言葉に僕を除いた全員が、何かに気付いたようだった。
 僕の見当がつかない様子を察したのか、正平さんは答えを教えてくれた。

 「後輩よ。夜は、アンデット系モンスターが強化され、活発化する時間帯なのだ。奴らは、日が登ると地面に潜り姿を消す。そのために殲滅戦を夜に開始したのだ」

 その言葉で、タイムリミットの意味が理解できた。

 「では周囲の警護は頼んだ。目が覚めるとゾンビだったと言うのは避けたいからな」

 最後のはジョークだったのだろう。少しだけ笑みを浮かべると正平さんは目を閉じた。

 

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品