罠の可能性

　しばらく、住谷正平の火炎放射器によって一方的なゾンビ退治が続いていた。

　「しかし、妙ですね」
　「せやな、流石にこれはおかしいで」

　佐々木さんと晴人の2人は何か違和感を感じているらしいが、僕には見当がつかない。

　「えっと、どこがおかしいんですか？」
　「まず、予想よりゾンビの数が多すぎるということ。それと弱すぎる事ですね」

　それの何がおかしいのか？　そんな僕の様子を察してくれたのか佐々木さんは説明を続けてくれた。

　「ここまでゾンビが多いという事は、ゾンビの犠牲になった人も多いはずなんです」

　「あっ！」と僕も気づいた。
　確かに、この街で数千人も行方不明者が出たら大騒ぎになってるはずだ。でも、そんな話は聞いたことがない。

　「ゾンビの大量発生なら、何体ものゾンビがボス化現象起こっていると予想してたんですよ」

　何人も人間を襲ったゾンビがいるなら、そのレベルも相当、高くなってるはずだ。
　このメンバーが集まった理由は、ボス戦を想定しての事だと、今更ながら気づく。
　しかし、実際は正平さんが1人で駆除してる。　艶子さんと香さんは、手持無沙汰で気を失ってる少女の世話をしてるし、フードの人はどこか行ってしまってる。
　確かに説明を受けると奇妙な点に気がつく。その原因を考えないといけない。

　「この状況が、仮面の殺人鬼による人為的な出来事だとするならば、何が目的なんだろう」

　僕の言葉に2人共考え込む。

　「高レベルのゾンビを作るのが目的で、そのゾンビは回収されたって可能性は？」
　「巨大スライムの件を忘れたんか？強いゾンビ作るだけなら、高レベルの人間を襲って食わせれば‥‥‥」
　「‥‥‥」
　「‥‥‥」

　嫌な予感がした。
　今、この街の高レベルトップ３が揃っている状況だ。
　てっとり早く、高レベルのモンスターを作るなら、今が最大のチャンスという事になる。

　「これが罠だったら、最悪やな」

　晴人の乾いた笑い声に釣られて、3人とも笑った。

　正平さん、艶子さん、香さんの3人にも罠の可能性を伝え、とりあえず結界から脱出しようと話になった。　フードの男はまだ帰っていないが、彼のことを知る艶子さんの意見だと、『最悪の場合は、ほっといても大丈夫』ということになった。