スキルゲ
会合の開始
「人を驚かすのが好きなんだ。すまないね」
サラリーマン風の女性は、髪をかき上げる仕草をしてみせる。
すると、七三だったはずの髪型が肩あたりまで伸びた。
思わず、驚きの声を漏らしてしまった。
手品?いや、何かスキルを使ったのだろうか?
でも、こんな場所で簡単にスキルを見せて変に注目されないか?
周りの席を見渡し、誰も見ていないのを確認すると安堵の息をつく。
しかし、それもそれでおかしいな感じがした。
ここまで派手なメンバーが揃っているのに、誰も注目していない。
「おっと、自己紹介がまだだったね。名前は車多香。ご覧の通り、幻覚系をメインに使うスキル使いさ」
そう名乗ると、彼女の周りがボヤけ、スーツ姿からシックで女性らしい服装へ変化した。
どうやら、彼女のスキルで周囲の客が僕らを意識できないようにしてるようだ。
「悪趣味な自己紹介やな。俺も悪趣味は好きやで」
と晴人は無意味な拍手を贈ってた。
「さて、自己紹介も終わったみたいだし、本題へ入ろうかしら」
そう言い、艶子は会合の開始を宣言しようとしたが、それに待ったをかけた人物がいた。
意外にも、それは佐々木さんだった。
「始めるのはいいけど、その前に彼は誰だい?」
佐々木さんの視線の先には、フードをかぶった男がいた。
車多さんも知らない人物らしく、男を観察するように眺めていた。
てっきり、彼も会合の参加者で、街の顔役の1人かと思っていたが、どうも違うらしい。
じゃ、彼は何者なんだろうか?
「彼は、目撃者よ。彼の師匠に当たる人物が、目の前で殺害されたらしいの」
予想外の登場人物に全員が動揺を隠せないようだ。
殺人鬼がいるというのは、晴人の推測であって、僕も半信半疑だった部分もある。
それが、実際するという証言がでてきたのだ。その衝撃は大きい。
しかし、彼は何もしゃべらない。肯定するように頷くだけだった。
「彼が言うには、この中のメンバーに少なからず因縁がある相手がいるそうよ。正体を隠すことを条件に来てもらったの。喋らないのは声でわかってしまうとか」
なるほど、メンドくさい人という事はわかった。
「で、どうするつもりなんだい?喋れないという事は、文字通りに話にならないって事じゃないか」
車多さんは、何だか小馬鹿にするような言い方をした。
もしかしたら、フードの男の態度に怒ってるのかもしれない。
「事前に話は、私が聞いている。代わりに、彼の証言を文字で起こして印刷してきたわ」
艶子の手には、人数分のプリントが用意されていた。
なんだか、学校の先生みたいだ。見た目はアレだが‥‥‥。
僕らは、プリントを受け取り、目を通す。
プリントの内容は、あの日、誰が、どうやって殺され、スライムの餌にされたのか、生々しく書かれていた。
そうだった。よく考えば、わかるはずだったのに、失念していた。
フードをかぶった男。彼の師匠は、僕らが戦った巨大スライムに食われていたのだ。
そう考えると僕らと彼には、奇妙な巡り合わせを感じる
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