スライムのボス化現象　１

　やはり、今日は調子がいい。今までにないほど体が軽く感じられる。　
　次から次へと現れるスライム達を倒して歩みを進める。
　王越賢志、まさに絶好調である。
　また、現れたスライムを華麗に倒す。
　晴人の方に向き、親指を立ててサムズアップをしてみたのだが、肝心の晴人は心あらずの様子で明後日の方向を見ていた。

　「おいおい、どうしたんだい？賢志さまの妙技に痺れちまったのかい？」
　「おまえ、キャラ変わりすぎやろ！」
　「ふふふ。勝利は男をより高みへと進ませる美酒なのだよ」

　「さいでっか」と答えながらも、晴人は落ち着きがないように周りをキョロキョロを見渡している。

　「なんだよ？なにか気になることがあるなら教えてよ」
　「言っていいのか、分からんが妙な感じがするねん」
　「妙な感じ？」

　晴人の真剣な表情に、今までの浮かれ気分が吹き飛んだかのように消え去った。

　「なんか、スライムが弱すぎる気がするねん」
　「ええええええ！僕が成長してるからだろ。まったく、テンション下がるわ！」
　「そうか、そうか。それならええねんけどなぁ」そう言いながらも、またキョロキョロと周囲を見渡す。
　まるで何かを警戒してるようだ。それが不思議と僕の自信が不安へと変わっていった。
　晴人の不安が僕にまで移ったのだろうか？何だか、嫌な予感がしてきた。
　なんだろう？この違和感は？
　まるで何者かにプレッシャーをかけられてるような感じだ。
　サッカーやバスケといった球技でディフェンダーがオフェンスにプレッシャーをかけて動きを制限することがある。
　そこまで露骨なものじゃないにしろ、なにか気づかないほどに微妙な制限を受けてるような感覚がしてきた。
　この先に危険な敵がいるのか？でもスライム以外のモンスターがいるなら晴人のスキルでわかるのでは？
　いや、スライム以外のモンスターはいないとわかってるから、妙な感覚に囚われながらも僕たちは進んでいるのだ。
　じゃ、この感覚の正体は、一体なんなのだろうか？

　ガサガサ　ガサガサ　ガサガサ　と音がする。

　また木々の影からスライムが現れた。
　僕は原因不明のフラストレーションを晴らすため飛びかかろうとしたが、晴人に首根っこを掴まれ止められた。
　首が締まり、「うげぇ」と思わず声を漏らた。文句のひとつでも言おうと振り返ったが、晴人の真剣な表情に言葉を飲み込んだ。

　「やっぱり罠か。俺らを調子づかせて、奥に誘い込むようにワザと弱々しい動きをさせていたんやな」

　わざと？　動きをさせていた？
　その意味はすぐにわかった。気がつくと囲まれていたのだ。大量のスライムに‥‥‥。
　今日狩ったスライムをはるかに上回る数。　今までどこに隠れていたというのだろうか？
　それよりもこいつ等に、こんな知能があるなんて。
　僕の考えを読んだのか、すぐに晴人から否定の言葉を聞いた。

　「いや、こいつ等に、そんな知能はない。もっとヤバいものがこいつ等を統率してるんや」
　「この状況より、まだヤバイことがあるとでも？」

　晴人は正面の方向に向けて指を指す。
　正面にいるのは、ごく普通のスライムが一匹。コイツを速攻で倒して離脱しようって意味なのか？
　しかし、それは、すぐに勘違いだとわかった。そのスライムは、普通のサイズに見えるほど遠近感が狂っていたのだ。
　つまり、そいつは‥‥‥

　超巨大なスライムだったのだ。

　高さは約３メートルほど、幅は５、６メートルくらい。奥行きは１０メートルあるだろうか？
　人が住めるくらいの小屋くらいの大きさ。そんな悪夢のようなスライムが現れたのだった。