ダークエルフさん、俺の家で和まないでください! ~俺はガチャを回しただけなのに~

巫夏希

第十話 もう少しだけ観察しましょう

「……なんか、引っかかるんだよなあ」

 私の部屋に戻ってきたメイルはそう言って首を傾げていた。
 一体全体何があったのか私にはよくわからなかったけれど、とりあえず質問だけしてみることにした。

「どうしたの、そんなに考え込んじゃって?」
「気になるんだよ。あの同居人。何か私と同じ雰囲気を感じる。はっきり言って、気のせいだと思いたいのだけれどな……」
「同じ雰囲気、って……。まるであなたと同じリアライズ世界からやってきたような言い方じゃない」
「まるで、じゃなくてたぶんそうだと思う。だが、証拠がないんだよな。全然わからない」
「証拠……。そうね、でもあそこまでこの世界になじんだ雰囲気は作り出せないわよ? だってほぼ同じ時期にやってきたとしたら、あんな俗世に馴染むかしらね?」

 私の言葉を聞いてもなお、首を傾げているメイル。メイルはなんだか諦めが悪い性格のようだった。疑り深い、とでもいえばいいだろうか。
 まあ、メイルの性格があったからこそ魔王になった――そう思えば話も理解できる。だって素直な性格なら魔王には、正確に言えば上に立つことは出来ないだろう。

「あなたが疑うことも解らないことでは無い。けれど、私の目から見ても彼女はこの世界の人間だと思うわよ。まあ、信じるか信じないかはあなたの自由だと思うけれどね」
「……そうよねえ。まあ、いいか。取り敢えず保留ということで。観察は継続していくことにするわ」

 そう言ってメイルは床にごろんと寝そべった。私の家の床は畳なので、寝そべるととても気持ちがいい。
 メイルは寝そべったまま何か考え事をしているのか、ただ天井の一点を見つめていた。
 私はそれを見て、彼女の空間に入らないように――立ち上がり、食事の準備をするために台所へと向かった。


 ◇◇◇


「……気になる」

 お隣さんの突然の訪問――正確には貸した鍋を返しに来ただけだが――を終えて、一息吐いていた俺とルイスだったが、ルイスが唐突に一言そう言った。
 俺は突然何を言い出すのかと思ったが、彼女の言葉に耳を傾けることとした。

「隣にいたメイルという女性……。何か気になるのよね。具体的には私のいた世界と同じ何かを感じる……」
「何か、って……。少なくとも俺は何も感じなかったが」
「感じなかった? それはほんとうに言っているのかしら。私は少なくとも感じたわよ……」
「気のせいだろ、きっと。だって、そんな簡単に『仲間』って見つかるものか? もっとしっかり探さないと、もし違ったら面倒な話になるぞ」

 それを聞いてルイスは首を傾げながら、考え事をする。

「うーん、そうねえ……。確かに、すぐ決めつけるのは時期尚早かもしれない。けれど、私は観察していくわよ。きっとあのメイルって人には何かあるに違いない」
「観察することは構わないが……ほどほどにしろよ? 警察に捕まったらたまったものじゃないからな」

 そう言って俺は寝そべった。まだ夕食の時間には余裕があるし、そもそも今日の夕食のメニューは決まっている。時間に換算してあと三十分はゆっくりできる。そう考えて、俺はテレビのリモコンを手に取った。
 ルイスはちゃぶ台の上に手をのっけて、何か考え事をしているようだったが――俺はそれに入って彼女の思考を当惑させないように、そのままテレビの画面に視線を移した。

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