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りょう

Page.24 血と合宿

 その感情は一体何だったのか。今も僕にはそれは分からない。それは恋なのか? それともそれとは別の物なのか。それと同じようにシャロの気持ちも分からなかった。だからお互いの距離が分からなくて、それが徐々に亀裂を生じさせていた。

『優君は何も分かっていない。私の気持ちも、何もかも』


『そんな事ない。僕はただ』

『優君は卑怯だよ……。何も辛い思いをしないんだから』

 卑怯。
 そんな言葉を言われた事なんてなかった。しかも自分は何が卑怯なのかも理解できていなくて、それを余計に彼女を怒らせてしまって……。

『さようなら、もう会う事がないと思う』

 僕とシャロはある日を境に会う事がないなくなった。

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

 僕が再び生徒会へやって来たのは休日明け。今日は特別な仕事はなく、会議を行ってその後はなんか色々雑談して活動は終わった。活動が終わった頃には外は真っ暗になっていて、皆が帰っていく中僕はハクア先輩と二人きりになるまで帰らなかった。

「帰らないの?」

「先輩に話があるんです」

「告白? 私年下はちょっと」

「その微妙にツッコミにくいボケはやめてくださいよ。そうじゃなくて、先輩に聞きたい事があるんです」

「それはユーリティアとして? それとも」

「やっぱり知っているんですか」

 あの本に書かれた事が本当だという確信はなかったので、もしかしたら嘘だと思いながら恐る恐る聞いたけど、どうやら僕の予想は当たっていたらしい。

「いつから知っていたんですか? その事を」

「この春くらいから。学校で何度かすれ違ってる時に違和感は感じていた」

「違和感?」

「知っているとはおもうけど、本当のユーリティアは以前はすごく元気がなかった。学校に復帰し始めたのも最近」

「両親が亡くなったから、でしたよね」

「うん。でもある日を境にまるでそれを忘れたかのように元気になったから、その事に違和感を感じた」

「でもそれだけで、この事を見抜けるわけないはずでは」

 僕が話をしたりしない以上、これが公になる事なんてなるはずがない。それなのに、先輩は一体どこからその情報を得たのか、それが謎だった。

「身体測定、覚えてる?」

「そういえば四月の最初にやった記憶がありますけど」

「その時あなたの血を取ったのを覚えてる?」

「そういえばそんな事をしましたね。でも、血だけで判別なんて」

「できる。とくにあなたの場合なら、別の何かが混ざったら一瞬で浮き彫りになる」

「……」

 転生して数日後に、身体測定をしていた。それは皆がやる事で、普通の僕の世界でもやっている事だったので、特別な事でもなかった。でもその中で行われた採血で、まさかそんな思惑があったとは思っていなかった。

「今度は私から質問していい?」

「何ですか」

「君はどうして、彼女の中に入れ替わるようにして入ったの?」

「どうしてって、それは……」

 その言葉が僕に向けられた事なのは分かった。だけどその答えが見つからない。そもそも僕は何があって死んで、こうして生まれ変わる事になったのか分からない。

(あの神様は何も説明していなかったし……)

 今思えば不思議な話だった。僕は何故死んだのかその理由を知らない。というより思い出せない。

「分からないんです。どうして自分がこうなったのか」

「分からないの?」

「はい。でも一つ分かるのは既に死んでいる事くらいなんです」

「死んでいる……つまりユーリティアとして生まれ変わった?」

「そうなんでしょうか。私自身は既存の人物なので、生まれ変わるという原理とは少し違うと思いますけど」

「そう……」

 何かを知りたかったのか、少し落胆した様子を見せる先輩。でもそういえば、どうして先輩はわざわざこんな事を調べたのだろうか。違和感を感じたからって、別に知ったところで何にも意味がないのに。

「とりあえずこの話は口外しないでもらいたいんですけど」

「分かってる。話すつもりはない」

「それならありがたいです」

 結局何故そこまで先輩が僕の事を知ろうとしたのかまでは分からなかった。でも確実に言える事は、先輩がまだ何かを隠し事している事。そしてそれは、恐らく僕にも関わっている事だと思う。

( 血、か)


 ここでユーリティアの設定が仇になるなんて。

  ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
 それから二週間の時が経った。季節的には間も無く夏が近づいてきており、少しずつではあるけど暑い日が続いていた。そんな中で、僕達には夏に向けたあるイベントが待っていた。

「そういえばもうすぐ大会ですね、お嬢様」

「大会? 何の」

「あれ? もしかして聞いていないんですかグリニッツの大会が七月の頭にあるの」

「え?! もう大会なの?」

「何の話を聞いていたんですか……」

 それは僕にとって初めてとなるグリニッツの大きな大会。イストレアのグリニッツ部は最強の一角と言われていて、毎年優勝する強豪校。しかし今年は中身が僕なので、より練習に力を入れなければならなかった。

「もうすぐ本戦なのに、そんな呑気にしている場合じゃないんですよ。今週末は合宿もあるのに」

「合宿ってそういう意味だったのね」

「お嬢様、もう部長やめましょうか」

 まあ、とりあえず二週間後の大会に向けて僕達は週末に合宿をする事になっているのだけれど、その中である事件に巻き込まれる事になったので、合宿よりもそちらの顛末を書く事になる。

「お嬢様」

「ええ。分かっている。絶対誰も怪我をさせたりしないんだから」

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