この異世界は小説でできています
Page.09 決闘と夕暮れ時の出会い
「決闘ってあんた、別にこんな昼間に申し込まなくてもいいでしょ」
「私は思ったのよ。体育祭の前に一度あなたとどちらが頂点に立つべきか決めようって。そうでないと、今年の体育
主役が私にならないじゃない」
「主役って何よ!」
突如申し込まれた決闘は、あまりに理解不能だった。主役とかなんだとか言っているけど、僕はそんなの知った事がない。
「まさかとぼけていらっしゃるのあなたは。私など眼中にないと言いたいのね』
「誰もそんな事言ってないじゃない!」
「もういいわ。時間もないし、さっさと行くわよユーリティア!」
「え、あ、ちょっと」
待ちなさいと言う前に、火の玉が飛んでくる。どうやら向こうはもう話を聞く気はないらしい。
(こうなったら僕だって、覚えたてだけどやるしかない)
キリハから一通り学んだ事を、ここで試してみる。
「我氷を操りし者。その呼びかけに応え、出でよ氷の 精よ」
基本中の基本だとキリハは言っていたので、果たして通じるのかは分からないけど、やるしかない。
「凍りつきなさい、ブリザード」
「私相手に初級魔法とは。どれだけ舐められているのかしら」
向こうも私の動きを見て、すかさず次の手に移る。彼女が呼び出したのは、なんと炎の魔人。
「ちょ、それは聞いてない」
「燃え尽きなさい」
炎の魔人から火が放たれる。僕は咄嗟に避けようとするが間に合わない。
「あっつ」
「いつの間にあなたは落ちぶれたのかしら。そぐく残念よ」
全身が焼かれ、激痛が走る。どうしよこのままだと僕……。
『あれを使いなさい、ユーリティア』
絶体絶命の中、突然声が頭の中に聞こえる。
(だ、誰?)
『さあ早く』
(あ、あれって言われても……)
僕は戸惑いながらもあれが何なのか考えてみる。そして、思いついたのが……。
「 氷の全てを統べる龍よ。我が身を守りたまえ」
キリハがいざという時のためにと教えてくれていた魔法。相手が魔人を呼び出したと言うのなら、僕はそれを超えるものを呼び出せばいい。
「氷の龍よ、眼前にある全てを凍りつかせなさい」
「ちょ、龍なんて私達のレベルで呼べるようなものじゃないのに、いつの間に」
「エターナルブリザード!」
こうして昼の決闘は、意外にも謎の声の存在のおかげで僕が勝利するという形になったのだった。
◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
昼間の決闘は、学校中でちょっとした騒ぎになり、僕とサキは二人して放課後に説教される事になった。元はと言えば、サキが勝手に決闘を申し込んできたのが原因だというのにどうして僕まで……。
「へっくしょん。もう、あなたのせいで風邪を引いちゃったじゃない」
「それを言ったら私だって制服が焦げちゃったんだから、謝りなさいよ」
説教が終わった帰り道、僕とサキは喧嘩をしながら廊下を歩いていた。
「そもそもどうしてあんた、あんな上級魔法を使えるのよ。あれって、中級者でも使えるか怪しいレベルなのよ」
「護身用に覚えておいたのよ。ほとんどぶっつけ本番だったけど」
「上級魔法を護身用って、あんた普段どれだけ強い魔法を使っているのよ」
これは後から知った事なんだけど、キリハが護身用に教えていた魔法は、氷属性の中でも上級に値する魔法らしい。龍を呼び出せる事自体、並大抵の魔法使いでは不可能に近いと言われているらしいけど、それを高校生が使えるのもなんか凄い気もする。
(皆が褒め称える理由がなんとなく分かった気がするな)
元々知識なんてない僕が、そんな魔法を使える事も、ユーリティアの体が特別だったからなのかもしれない。
「まあ今回は私が負けたけど、体育祭では絶対に勝たせてもらうわ。絶対に騎馬戦には出なさいよ。去年と同じようにねじ伏せさせてもらうわ」
「そっちがその気なら、私もその気でいさせてもらう。でも、一ヶ月の間今日みたいな事はなしにして」
「分かったわ。私もまた怒られるのは勘弁だし、その時まで覚えていなさいよ」
「そっちこそ」
そう最後に交わしてお互いの教室へと戻っていく。どうやらサキと妙な約束を交わしてしまったけど、こういうライバル同士の戦いって結構男としては燃えるので決して悪くはない。僕はそう思うのであった。
教室に戻ると、残っているのはユナだけでキリハの姿はなかった。
「あれ? キリハはどこに行ったの?」
「何か準備があるって言って、先に帰ったよ」
「ああ、じゃあ多分あれの準備しに行ったのかな」
「あれ?」
「まあ、ちょっとした訓練施設よ」
今日は部活も休みなので、ユナと一緒に帰る事にする。だけど学校を出てすぐに僕はある事に気がついた。
「あ、ごめんやっぱり先に帰っていてくれない。私忘れ物しちゃった」
「私待っているよう?」
「いいよ。もう暗くなってきちゃったし」
「分かった。じゃあまた明日ね」
「うん。また明日」
忘れ物がある事に気がついた僕は、急いで教室へ戻る。一番忘れちゃいけないものを学校に忘れるところだった。
「よかった、ちゃんとあった」
僕が忘れたのは例の本。いつも非常時のために持ち歩いているのだけど、決闘の事で頭がいっぱいだったからすっかり持って帰るのを忘れていた。
「さて、私も早く帰らないと」
教室を出て廊下を歩き始める。だけど歩き始めてすぐに、背後に視線を感じた。
(誰かいる?)
後ろを振り向くけど、そこには誰もいない。気のせいかと前を向いたところで、誰かとぶつかった。
「きゃ」
と言って倒れたのはぶつかった方。よく見ると女性のかつらをかぶった男の……。
「え?」
「あ」
子?
「私は思ったのよ。体育祭の前に一度あなたとどちらが頂点に立つべきか決めようって。そうでないと、今年の体育
主役が私にならないじゃない」
「主役って何よ!」
突如申し込まれた決闘は、あまりに理解不能だった。主役とかなんだとか言っているけど、僕はそんなの知った事がない。
「まさかとぼけていらっしゃるのあなたは。私など眼中にないと言いたいのね』
「誰もそんな事言ってないじゃない!」
「もういいわ。時間もないし、さっさと行くわよユーリティア!」
「え、あ、ちょっと」
待ちなさいと言う前に、火の玉が飛んでくる。どうやら向こうはもう話を聞く気はないらしい。
(こうなったら僕だって、覚えたてだけどやるしかない)
キリハから一通り学んだ事を、ここで試してみる。
「我氷を操りし者。その呼びかけに応え、出でよ氷の 精よ」
基本中の基本だとキリハは言っていたので、果たして通じるのかは分からないけど、やるしかない。
「凍りつきなさい、ブリザード」
「私相手に初級魔法とは。どれだけ舐められているのかしら」
向こうも私の動きを見て、すかさず次の手に移る。彼女が呼び出したのは、なんと炎の魔人。
「ちょ、それは聞いてない」
「燃え尽きなさい」
炎の魔人から火が放たれる。僕は咄嗟に避けようとするが間に合わない。
「あっつ」
「いつの間にあなたは落ちぶれたのかしら。そぐく残念よ」
全身が焼かれ、激痛が走る。どうしよこのままだと僕……。
『あれを使いなさい、ユーリティア』
絶体絶命の中、突然声が頭の中に聞こえる。
(だ、誰?)
『さあ早く』
(あ、あれって言われても……)
僕は戸惑いながらもあれが何なのか考えてみる。そして、思いついたのが……。
「 氷の全てを統べる龍よ。我が身を守りたまえ」
キリハがいざという時のためにと教えてくれていた魔法。相手が魔人を呼び出したと言うのなら、僕はそれを超えるものを呼び出せばいい。
「氷の龍よ、眼前にある全てを凍りつかせなさい」
「ちょ、龍なんて私達のレベルで呼べるようなものじゃないのに、いつの間に」
「エターナルブリザード!」
こうして昼の決闘は、意外にも謎の声の存在のおかげで僕が勝利するという形になったのだった。
◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
昼間の決闘は、学校中でちょっとした騒ぎになり、僕とサキは二人して放課後に説教される事になった。元はと言えば、サキが勝手に決闘を申し込んできたのが原因だというのにどうして僕まで……。
「へっくしょん。もう、あなたのせいで風邪を引いちゃったじゃない」
「それを言ったら私だって制服が焦げちゃったんだから、謝りなさいよ」
説教が終わった帰り道、僕とサキは喧嘩をしながら廊下を歩いていた。
「そもそもどうしてあんた、あんな上級魔法を使えるのよ。あれって、中級者でも使えるか怪しいレベルなのよ」
「護身用に覚えておいたのよ。ほとんどぶっつけ本番だったけど」
「上級魔法を護身用って、あんた普段どれだけ強い魔法を使っているのよ」
これは後から知った事なんだけど、キリハが護身用に教えていた魔法は、氷属性の中でも上級に値する魔法らしい。龍を呼び出せる事自体、並大抵の魔法使いでは不可能に近いと言われているらしいけど、それを高校生が使えるのもなんか凄い気もする。
(皆が褒め称える理由がなんとなく分かった気がするな)
元々知識なんてない僕が、そんな魔法を使える事も、ユーリティアの体が特別だったからなのかもしれない。
「まあ今回は私が負けたけど、体育祭では絶対に勝たせてもらうわ。絶対に騎馬戦には出なさいよ。去年と同じようにねじ伏せさせてもらうわ」
「そっちがその気なら、私もその気でいさせてもらう。でも、一ヶ月の間今日みたいな事はなしにして」
「分かったわ。私もまた怒られるのは勘弁だし、その時まで覚えていなさいよ」
「そっちこそ」
そう最後に交わしてお互いの教室へと戻っていく。どうやらサキと妙な約束を交わしてしまったけど、こういうライバル同士の戦いって結構男としては燃えるので決して悪くはない。僕はそう思うのであった。
教室に戻ると、残っているのはユナだけでキリハの姿はなかった。
「あれ? キリハはどこに行ったの?」
「何か準備があるって言って、先に帰ったよ」
「ああ、じゃあ多分あれの準備しに行ったのかな」
「あれ?」
「まあ、ちょっとした訓練施設よ」
今日は部活も休みなので、ユナと一緒に帰る事にする。だけど学校を出てすぐに僕はある事に気がついた。
「あ、ごめんやっぱり先に帰っていてくれない。私忘れ物しちゃった」
「私待っているよう?」
「いいよ。もう暗くなってきちゃったし」
「分かった。じゃあまた明日ね」
「うん。また明日」
忘れ物がある事に気がついた僕は、急いで教室へ戻る。一番忘れちゃいけないものを学校に忘れるところだった。
「よかった、ちゃんとあった」
僕が忘れたのは例の本。いつも非常時のために持ち歩いているのだけど、決闘の事で頭がいっぱいだったからすっかり持って帰るのを忘れていた。
「さて、私も早く帰らないと」
教室を出て廊下を歩き始める。だけど歩き始めてすぐに、背後に視線を感じた。
(誰かいる?)
後ろを振り向くけど、そこには誰もいない。気のせいかと前を向いたところで、誰かとぶつかった。
「きゃ」
と言って倒れたのはぶつかった方。よく見ると女性のかつらをかぶった男の……。
「え?」
「あ」
子?
コメント