この異世界は小説でできています

りょう

Page.08 もう一人の天才

 舞踏会から早くも二週間が経ち、僕は少しずつでありながらもユーリティアとしての生活に慣れ始めていた。

(二週間か……)

 正直転生して数日間は色々苦労させられたけど、今は少しずつではあるけど落ち着き始めている。
 とは言っても、グリニッツの内容を改めて一から覚えなおしたり、勉強の面でもキリハに基本中の基本から教えてもらったりと、まだまだ忙しい毎日なのは相変わらず。

「ユー君、朝ですよ」

 いつも通りの朝、キリハが起こしにやってくるのだが、あの話をして以来態度が一変した。悪い方ではなく、よい方に変わったのだけれど、その良い方も悪い意味でのいい方に変わった。

「毎朝毎朝、その名前で呼ぶのをやめてくれないかしら!」

「私は呼びやすくて好きですよこの名前。そもそもお嬢様の名前はユーリティアなのですから、さほど変わりはしないと思いますけど」

「それ絶対私に向けて言ってないわよね」

 キリハはあの話を一応は信じてくれたらしく、僕の存在も認識してくれていた。ただ、呼び名が呼び名だけに、少し気味が悪い。

「普段とは違うお嬢様が見れて私は楽しいんですけどね。お嬢様は小さい事と魔法が使える事だけが取り柄のお方でしたので、そこに新しく男の子の要素が入ったんですから、毎日が楽しいんですよ」

「わたしは全くもって面白くないわよ。あと、さり気なく主人に対して失礼すぎるわよ」

 相変わらずの毒舌っぷりに内心苦笑いしながら、僕個人の感想を述べる。こんな調子がずっと続いているのだから、僕にとってすごくやりづらい。

「あ、そういえばお嬢様。話が変わるのですが、先日言っていたものの用意が完了しました」

「本当? ありがとう」

「これも全てはお嬢様のためですから」

「それはどっちに向けての言葉?」

「どっちにもですよ」

 笑顔でキリハは言うが、その真意はいかなるものなのかは分からない。ちなみに先日僕はキリハにあるものを用意してくれるように頼んだ。それは僕個人として、ユーリティアとして、この先必要になってくるものだ。

「っと、それの確認はまた後でにして、朝食を食べに行くわよ」

「はい、お嬢様」

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
 その日の学校の昼休み。僕はキリハとユナと一緒に食事をしていた。

「そういえばユーちゃん、もうすぐ体育祭の練習が始まるけど、なんの種目に出るか決めた?」

「うーん、まだ決めてない」

 話題は一ヶ月後に行われる体育祭。これは先日キリハに説明してもらったのだけれど、どうやらイストレア魔法学校の体育祭というのは、自分が出る種目を事前に決める事ができてそれに特化した練習ができるらしい。と言っても内容は、僕が知っているような体育祭とさほど変わらない。とここまでは小説にも書いていたのだけれど、この先がどうなっていくかは決まっていない。

(ここからが能力の出番になるってことかな)

 そもそもこの小説は、まだ書き始めでもあり、設定がようやく固まり始めた段階だったので、正直この先がどうなっていくかは例の能力次第になってくる。

「去年もお嬢様はかなり活躍されていますから、今年も期待されていると思いますよ」

「そうだよねー。去年のユーちゃんはすごかったもん」

「そうかな。私そこまっで活躍した記憶はないんだけど」

「またまたご謙遜を。お嬢様がいなければ逆転優勝もなかったくらいンなんですよ」

 僕の事情を知っておきながらやたらとハードルを上げてくるキリハ。第一記憶も何も、僕からしてみれば全く身に覚えのない話でしかないのだから、武勇伝のごとく語られるのもちょっと困る。

「お嬢様なら全種目出てもいいくらいですから」

「それだと過労死するわよ私」

 ユーリティアだとしても絶対に倒れると思うそれは。

「あ、でもユーちゃん、去年唯一勝てなかった種目あったよね。あの子が出た種目で、確か何だったっけ」

「あの子?」

「あれ、もしかしてユーちゃん覚えていないの? 私達の学年でユーちゃんと並んでもう一人の天才と呼ばれている子」

「もう一人の天才?」

 その話に少し興味があった。ユーリティアがどれほどの存在だったのかはこの二週間で分かったのだけれど、そのもう一人の天才というのはすごく気になる。

「私達とは別のクラスなんだけど、ユーちゃんと同じくらい魔法も使えて、運動もできておまけに勉強もできる天才の女の子が一人いるんだけど。確か名前は……」

 とユナがその名前を言おうとした瞬間、教室の扉が勢いよく開かれて一人の女の子が入ってきた。

「このクラスにユーリティアって子はいるかしら」

 その女の子はユーリティアより身長は、頭一つ分くらい大きく、いかにも何でも出来そうな見た目はしていた。

「あ、噂をすればだよ」

「ユーリティアは私だけど?」

 名指しされたので、折角なので名乗ってみる。

「あなた今から少し時間あるかしら。あなたにお話ししたいことがあるの」

「丁度昼食も食べ終わったところだし、構わないけど」

「じゃあ付いて来なさい」

 そう言って女の子は先に教室を出て行く。僕もそれについて行く。

「ユーちゃん、今の子がそのもう一人の天才って言われている子のサキって子だよ。何されるか分からないから気をつけてね」

「うん。分かった」

 教室を出る間際にユナが忠告してくれる。何をされるか分からないって、僕はこれから何かされるのだろうか。


 サキという女の子に付いてきてやって来たのは、学校の校庭。今は誰もいないけど、一体ここで何をやるつもりなのだろうか。

「前回の体育祭の際、私はあなたに初めてこの場所で勝った。しかし勝てたのはそれきり。次の体育祭でもまた勝てると思うけど、一ヶ月待つのが辛いわ」

 何か一人で勝手に語り始めるサキ。この流れってもしかして……。

「なので体育祭の前哨戦として、あなたに決闘を申し込ませてもらうわ。お互い倒れるまでの決闘を今この場でね」

 ああ、やっぱりそうですか。

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