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りょう

Page.07 スク水お嬢様の秘密

「やっぱりやめにしようよキリハ。これダンス以上の恥ずかしさがあるわよ」

「何を仰っているのですか。お嬢様は今日この日の為に練習してきたじゃないですか」

「スク水を人前で着る為に練習してないわよ!」

 本番直前、会場の外の待機場所で僕はスク水のまま待たされていた。ここに来るまでも何人かの人とすれ違っていて、その度に二度見されていた。

「こんな姿で踊ったら、名家としての恥になるわよ絶対。明日の学校でも噂でになっていたらどうするのよ」

「そこについてはご心配なく。既に色々と噂になっていますから」

「もう既に私変態扱いなの?!」

 たった2日なのに、一体僕が何をしたと言うのだろうか。確かにテストは全滅で、グリニッツで仲間を負傷させてしまうし、今日の授業も全部寝ていたけど、それ以外は……。

「噂になるには十分の要素だと思いますが。つい三日前まで優等生のお嬢様が二日でまるで別人みたいになっているのですから」

「べ、別人だなんてそんな……」

 間違っていないから困る。

「とにかくもう迷っている時間はありません。行ってきてくださいお嬢様」

「あれ、キリハは?」

「あくまでこれはお嬢様の舞台ですから」

「何でそこだけ変に空気読むのよあんたは」

 そんなやり取りをしている間に、会場への入口が開かれる。それとと同時に割れんばかりの拍手が会場に響いた。

(もうやけだけど、やるしかない)

 僕は勇気を振り絞って、ユーリティアとして会場に足を踏み入れた。
 同時に会場の空気が凍りついた。

『……』

 集まる視線が痛々しい。

(おワタ)

 僕は一瞬でそう実感した。

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
 舞踏会終了後。僕は主催者でありながら部屋に閉じこもっていた。
 ダンス? そんなの知りません。

(最悪……もう二度と舞踏会なんてするもんか)

 ちなみに先程あの本を確認してみたが、決して深夜のテンションでスク水の事は書いていなかった。つまりあれは、キリハが最初から用意していたことという事になる。

(あの変態メイドが……)

 何なのあのメイド。確かに体は小さくて高校生というより幼女とかに近いかもしれない。それにスク水を組み合わせたら、最強なのかもしれないけど、僕が望んだシチュエーションではない。

「お嬢様、入りますよ」

 噂をすれば何とやら、キリハがノックもしないで部屋に入ってくる。

「いつまでふて寝しているおつもりですか」

「誰のせいよ。あんなの私にとって一生の恥よ」

「でも会場に来た皆さん、喜んでいましたよ」

「嘘でしょ?!」

 あの会場に来ていた人達皆ロリコンだったのか?

「お嬢様の成長した姿を見れてる皆さん喜んでおられたんですよ。ご両親を亡くしてから元気がなかったのは事実ですから」

「そう……何だ」

 その成長した姿がスク水というのが、一番悲しいけど。

「本来ならこの舞踏会は行われる事がなかったんですよ。しかし、三日前に急にお嬢様が開催すると言い出しまして」

「私が?」

「もしかしてお忘れになられましたか?」

「そ、そう言えばそんな事言ったわね」

 僕が転生する前日にそんな事があったなんて……。元から行われている予定だった事に、まさかそんな裏話があったとは。

「急な提案だったので、私や屋敷の方達もも大変驚かれていましたが、反対するものはいませんでした。その理由としては、やはりお嬢様が急に元気になった事だと思います」

「どうしてかまでは分からないけど、私の中で何か大きなキッカケがあったんだと思う」

「人が変われるキッカケは様々なので、それはあっているかもしれませんが」

 そう言ってキリハは何故か僕に背中を向ける。

「先程、お嬢様がまるで別人になったと言いましたよね」


「確かに言ったけど、それがどうしたの?」

「お嬢様もしかして、私の知らない間に何かありましいたか?」

「え?」

 その問いかけはまるで僕に聞いているかのように思えたのは、果たして気のせいなのだろうか。でもキリハの今の言い方だとまるで、何かを知っているみたいな……。

「思えばこの二日ほどお嬢様の行動は少し不自然でした。長年側にいる身だからこそ分かるんです、お嬢様の変化が」

「き、気のせいじゃないかしら」

「正直に話していただけませんか、お嬢様」

「そ、そう言われても」

 男の自分が生まれ変わって、ユーリティアになりました、なんて話を誰が信じるだろうか。でもここで変に言い逃れしても、今後怪しまれるだけ。

(小説の方では未だにバレていないのに)

 やはり昨日のテストから既に怪しまれていたのだろうか。優等生が行う行動とは思えないのは周りから見れば分かる。

(それが今後も続くとしたら……)

 今の内にキリハだけにも話しておいた方がいいのかな。

「やっぱり誤魔化す事は駄目なのかな」

「あなたが今後も辛い思いをするなら、今の内に私にだけでも話してくださいませんか」

 今度こそ僕に向けての言葉だった。もうキリハにはすべてお見通しらしい。

「分かった、わよ。ただし、今から話すのは全部嘘じゃないから驚かないでね」

「分かりました」

 こうして僕は全部キリハに二日前までの話をした。本当なら最初からこうするべきだったのかもしれないけど、一人にだけでも話せてよかったのかもしれない。
 キリハが信じたのかは果たして分からないけど、僕の体は少しだけ軽くなった。

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