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りょう

Page.05 前夜に咲きしは薔薇の花 後編

「け、結婚って何を馬鹿な事言っているのよ」

「私の気持ちは本物なんです」

「本物って言われても、私そういうの興味ないから」

 中身は今男といえど、そう百合的なものは受け付けていない。というか、明らかな初対面の人間に対して、いきなり結婚を申し込むのはいささか失礼だと思う。しかも同性相手に。

「わたくしは今日この日の為に、ずっと生きてきました。いつかはあなたに想いを告げられればいいなって」

「私にとってはそんなの知った事ないわよ。そんな一方的な感情を押し付けられても私は」

「一方的な思いではありません。わたくしとあなたは両思いのはずです」

「どこからそんな確信が生まれてくるのよ」

「前世で約束したんですよ、私達は」

「余計に怪しいわよ! そもそも前世の事なんてよく覚えているわね」

 もう何が何だか分からなくなってきているけど、イスミの想いが明らかに一方的だという事はハッキリとした。もうなんだかんだで長風呂をしてしまっているので、そろそろこの場から脱出を試みる。

「じゃあそんなに私が好きなら、言うことも聞いてくれる?」

「はい。勿論です」

「じゃあもう私に関わらないで」

「え、あ、ちょっと、待ってくださいよお姉様〜」

 そう言い残して僕は先に温泉を出る。ここまで言っておかないと、お風呂を出た後にもしつこそうなので、ここは突き放す以外の選択肢はない。というか最後にお姉様呼ばわりしていたけど、気のせいだよね?

(これは今度こそ、能力を使う時が来たかな)

 あの百合お嬢様から今日の舞踏会でも逃れるようにする為には、あらかじめ書き上がっている舞踏会の話を少し改稿する必要がある。予期せぬイベントを起こさない為にも、ここは小説家として一肌脱がないと。

(あまり寝不足になるのは嫌だけど)

 僕は部屋に戻ってすぐに今日の舞踏会の内容を改稿とか色々して、それらの全てが終わった頃にはすっかり朝になっていた。

(まさか初めて能力を使うのがこんな形になるなんて……)

 うまくいけばいいのだけど。

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
 その日も当然学校はあったのでいつものように登校。朝は何とかイスミとの遭遇は避けられたけど、寝不足のせいか朝から力が入らなかった。

「おはようユーちゃん、もしかして寝不足なの?」

「うん。昨日ちょっと色々あってね」

「お嬢様は一晩で百合にお目覚めなさったんですよ」

「違うわよ馬鹿! 昨日見ていたなら、明らかに私が嫌がっていたの分かっていたでしょ?」

「むしろ喜んでいたように私は見えていましたけど」

「あなたの目はどうなっているのよ!」

「ユーちゃんが知らない間に百合になっていただなんて」

「ユナも真に受けない!」

 二人に変な誤解をされ、それを解くのに変に精神を使ってしまったので、学校に到着した頃には眠気は限界に達していた。

「大丈夫ユーちゃん。今にも眠そうだけど」

「うーん……もう駄目かも……」

「もう仕方ありませんねお嬢様は。不本意ながら今日の分は後で私が教えてあげますから、寝ててくださいよ」

「不本意は余計よ……。でも一応お願い」

「お嬢様もあまり眠りすぎないように気をつけてくださいね」

「分かっているわよ……」

 最後に僕はそう言って、睡魔に身を委ねた。


「寝てしまいましたね本当に」

「昨日はそんなに夜遅くまで起きていたの?」

「今日の舞踏会のダンスの練習があって、それで夜遅くまで起きていたので」

「頑張っているんだユーちゃん」

「お嬢様は誰よりも努力家なのは私が一番知っていますから」

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
 どこか懐かしい夢を僕は見た。

『あなたいつも一人で遊んでいるわね』

『僕友達はいらないんだ。作ってもどうせすぐ別れちゃうから』

 それはまだ幼き頃に出会った少女との記憶。
 当時の僕は、親の仕事の都合でよく引越しを繰り返していた。そのせいで友達が作れなくて、作れたとしてもすぐにお別れしてしまうので、僕は何度か繰り返している内に友達という言葉が嫌いだった。

『じゃあ私が友達になってあげますわ』

『話聞いてなかったの? 僕は友達はいらないって』

『私が決めたことは絶対! 拒否権はありませんわ』

『そんな無茶苦茶な』

 そんな中で出会ったある少女は、強引に僕と友達になり色々なところへ連れ回した。口調からして彼女はどこかのお嬢様だったのかもしれないけど、その辺りの真偽は分からない。

『そういえばあなたの名前を聞いていませんでしたわ』

『僕は神楽坂優。君の名前は?』

『わたくし? わたくしは……』

「お嬢様、起きてください! お嬢様!」

 夢の中から急に現実に戻される。耳に響いているのはキリハの声。

「何よキリハ……。まだ授業終わってないでしょ?」

「何を寝ぼけているんですか。もう放課後ですよ!」

「え?」

 慌てえ体を起こす。すでに教室には自分とキリハしかいなかった。

「う、嘘私そんなに寝ていたの?」

「だから寝すぎに注意だと私言ったじゃないですか。先生方怒っていましたよ」

「ご、ごめんなさい」

「私に謝らないでくださいよ。それより早く家へ戻りますよ。舞踏会の準備をしないと」

「そ、そうね」

 すぐに荷物をまとめた僕は、急いで学校を出る。帰ってダンスの練習もしなければならないし、舞踏会まで残り時間も少ない。

「本番まで残り時間も少ないですから、家へ帰ったらそのまま練習に入りますからね」

「分かったわ」

 転生して二日目、僕にとってもユーリティアにとっても、後に色々な意味で転機となったと言える舞踏会がいよいよ幕を開ける。

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