この異世界は小説でできています

りょう

Page.02 紙も人生も真っ白

(と、とにかくどこかに隠れて、この本の力を試してみないと)

 最初から思わぬハプニングに見舞われた僕は、誰にも見つからないようにトイレへと向かった。

「授業が始まる前になんとかすれば……」

「あれ、ユーちゃんどこへ行くの?」

「ちょ、ちょっとトイレに行ってくるのよ」

「じゃあ戻ってきたら教えてね勉強」

「も、勿論」

 向かう途中でユナとすれ違うけど、そこはなんとか誤魔化すことに成功。僕は本を片手に抵抗を感じながらも女子トイレへと駆け込んだ

「えっと、最初の部分はここだから……」

 学校に登校するまでの部分より先が空白になっているので、そこにうまく書き入れれば、このテストも回避できるはず。

「書き加えればテストはなんと回避……」

「何をしていらっしゃるんですか?  お嬢様」

 いざ書き加えようとした時、突然キリハの声がする。

「き、キリハ?! な、な、何でここに」

「お嬢様がどこかへ行ってしまわれたので、メイドとして付き添わなければと思いまして」

「なんでそういう時だけメイドらしいことするのよ!」

「その方が面白いと思いまして。まあ、私は好きで付き添いしているわけじゃないんですけど。あくまでこれはメイドだからというだけです」

「面白くないし、変な言いがかりするのはやめて!」

 完全に油断していた僕は、ただ文句を言うことしかできない。ここでこの本の事をバレてしまったら、転生初日にして僕の人生は終わってしまう。

「ところでお嬢様、朝から気になっていたのですがその本は何でしょうか」

「べ、別に何でもないわよ。た、ただのテスト勉強用の本なだけだから、先に教室に戻っていなさいよ」

「そのような本を私は一度もお目にかかかった事はないのですが」

「き、気のせいだから。さあ、早く」

 と、キリハを追い返そうとしたところで無情にもチャイムが鳴ってしまった。

「あ」

「予鈴なってしまいましたし、戻りましょうか」

 キリハの相手をしてしまったせいで、時間が丸つぶれしてしまった。こんな争いするくらいなら、少しでも勉強をしておく方がまだマシだったような……。

(優等生人生、終わっ……)

 テストは一時限目からあるという事で、もうテストを回避する事は不可能になってしまった。時限の合間に書き加えてしまえば、回避はできるかもしれないけど今後の事も考えてここは潔く諦めるしかなさそうだ。

「あ、ユーちゃん、ここ分からないんだけど」

「ごめんなさいユナ。私もわからない……」

 結局テストは散々だったのは、言うまでもない話。

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
(終わった……何もかも)

 放課後、僕は真っ白に燃え尽きていた。ユナは部活があると言って、いなくなりキリハは……。

「いいですかお嬢様、今朝の事もそうですけどテスト中のあの態度はいかがかと思いますよ」

 僕に説教をしていた。全てのテストに対して問題を見る気すら湧いてこなかった僕は、始まるやいなやうつ伏せで睡眠をとっていた。それをキリハに見られてしまっていたらしく、放課後になると同時に僕の元にやって来て今に至る。

(本当は初日はこの後、学校を回ったり自分が所属している部活にも行く事になっているのに……)

 もう自分が書いた小説とかけ離れ始めてしまっている。約束が違うじゃないか神様。

「聞いているんですかお嬢様! 私は今すごく怒っているのに、ボーッとしている場合じゃないですよ。これだから身長も伸びないんですよ」

「身長が伸びないのは余計よ。別に私だって好きでこんな事やっていたわけじゃないのに」

「だったら他に何か理由があるんですか?」

「それは……」

「本当駄目なお嬢様ですね。親の顔が見てみたいものです」

「あなた知っているでしょ!」

 結局キリハから解放されたのはそれから更に三十分経った後。とは言っても彼女はその後も僕の後ろを付いてきているので、気まずい空気というのは何一つ変わっていない。

(もう、何でこんな目に……)

 ため息が出る。あの神様の説明だけ聞くと悪くはないものだと思っていたのに、今実際に体験してみるといい事が全くないので、転生した事を後悔し始めている自分がいる。

「そういえばお嬢様、明日は貴族たちを招いた舞踏会がございますが、ダンスなどの練習は大丈夫なのでしょうか?」

「舞踏会? そういえばそうだったわね」

 これは書いた小説の通りなんだけど、転生二日目にしてこちらが主催の舞踏会が開かれることになっている。本編の方では主人公はぶっつけ本番で何とかしていたけど、僕はうまくいくだろうか。

「お嬢様あまり踊りの方はド下手な方なので、明日は恥晒しになりかねないと思うのですが」

「所々であなた失礼な事言うわよね。でも、練習くらいはした方がいいのかな」

「そうでしたら私がお手伝いしますよ」

「ありがとう。助かるわ」

 この舞踏会、そこそこ大きなもので主催側としてはしっかりとしたところを見せたいのがこちら側の意志らしく、僕も恥をかかぬように練習しておかなければ。

「まあその練習は夜にするとして、今から部活の方へと向かいますよ」

「え? 今から向かうの?」

「多少遅くなりましたが、向かわないと意味がないので」

 先程も少し触れたけどユーリティアは部活に所属している。もう一時間ほど遅刻してしまっているけど、書いた通りの話には進んでくれそうだ。

「では行きましょうか、グリニッツ部に」

「うん」

 ユーリティアが所属しているグリニッツ部、それはこの世界にしかないスポーツで、イメージ的にはハンドボールを魔法世界風にアレンジしたものだ。すごく体を使うスポーツで、ユーリティアはそこで部長を務めているのだけど……。

(あ、そういえば……)

 部長だけど、僕自身運動オンチなんだった。

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