この異世界は小説でできています

りょう

Page.01 勝ち気なお嬢様と毒舌メイド

 自分が生まれ変わってしまった事を改めて実感したところで、僕はとりあえずベッドから降りて体を動かしてみる。

(うわ、すごく動きにくい)

 慣れていない体のせいか、歩く事すら難しい。今からキャラ設定を少しいじればその辺は問題なさそうだけど、それだとユーリティアとしての味が失われてしまいそうなので、ここは我慢する。

 コンコン

 少し体に慣れ始めたところで、ドアをノックする音が聞こえる。どうやら彼女の専属メイドでもあるキリハが起こしに来てくれたらしい。

「ユーリティア様、朝食の時間です。起きていますか? いや、起きていませんよね。起きていたら奇跡ですよね。むしろこのまま起きていない方が……」

 何やら酷い言われようだけど、彼女はメイドでありながらかなりSな面を持ち合わせているので、そこはまあいつもの事という事で。

(というか、このセリフ考えたの自分だし)

「お、起きているわよ。うるさいわね」
 その後も色々言っているので不慣れながらも返事を返してみる。

「あら意外ですね。普段は寝坊助なお方なのに」

「た、たまにはそういう日もあるのよ」

 そう言いながら僕は部屋の扉を開く。そこには黒髪のショートヘアーのメイドが一人立っていた。

「おはようございます、ユーリティア様」

「おはよう、キリハ」

(やっぱり僕が考えたキャラクターのままだ)

 キリハの姿を見て改めてその現実を実感する。ちなみに彼女はユーリティアと同じ年という設定になっているのだけれど、結構大人びいた感じがする。

「いかがなさいましたか? 私をそんなにジロジロと見て」

「な、何でもないわよ。それより私着替えたいから部屋の外で待っていてくれない?」

「別に私の前でその成長していない体を見せても構いませんよ?」

「成長していない体って言うなぁ。とにかく出て行って!」

 キリハを部屋の外に追いやる。着替えると言っただけでまさかそんな事を言われるなんて……。

(自分んが考えている以上に毒舌だなキリハ)

 そんな毒舌メイドと比べて、ユーリティアは結構負けん気が強いお嬢様キャラで、小説の中の主人公(ユーリティアに生まれ変わった男子高校生)も結構それに順応していた。

(というか、さっきから普通に喋っているけど、やっぱり女口調なんてすぐには慣れなさそう……)

 クローゼットから制服を取り出して着替えながらそんな事を考える。今まで小説の中で女性のセリフは何度も書いていたけど、それをいざ自分が言うとなると、少しだけ気持ちが悪い。

(それに今思ったけど、女性ものの服を着ている自分って……)

 裸を見て、何というか男としての理性が溢れ出てしまいそうな気がする。

「お嬢様、お着替えが終わっていないなら私は先に行っていますよ」

「ちょっと勝手に行こうとしないでよ」

 理性と戦っている間にキリハがそんな事を言い出す。お嬢様を置いていくメイドなんてあり得るのか普通。

「ではあと十秒だけ待ちます」

「短いわよ!」

「いつもの事ですから」

「いつもの事だと困るんだけど?!」

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
 そんな感じで最初から騒がしかった朝を終え、朝食も食べ終えたあと(すごくおいしかった)、魔法学校へと登校。
 ちなみにユーリティアが通っているのは、イストレア魔法学校と言ってこの世界でもかなりの大きさを誇る学園。
 そこには沢山の魔法使いの卵が集まっていて、ユーリティアはその学校の二学年(三学年まである)。成績も優秀で、学年一位をここまでキープしている。

「おはよう、ユーちゃん!」

 登校途中一人の女の子が声をかけてくる。彼女はユナと言ってユーリティアとは一年生からの親友である。

「あ、おはようユナ。今日も朝から元気ね」

「ユーちゃんほどじゃないよ」

「私そんなに元気に見えるいつも」

「うん。頭もいいし、魔法も上手に使えるし、誰にでも優しいし、私から見れば羨ましいところばかりだよ」

「そ、そうかな」

 自分の事のように言われて少しだけ恥ずかしくなる。


「まあ、あいかわらず背は小さいですけどね」

「キリハは黙ってなさい!」

 僕の背後を歩くキリハが茶々を入れてくる。どれだけ背が小さい事をいじりたいのだろうか彼女は。

「キリハさん、ユーちゃんは背が小さいんじゃなくて、背が伸びていないだけですよ」

「ユナ、それ何もフォローになっていないから」

 親友にまでここまで言われるなんて自分って一体……。
 と、こんな感じでここまで自分の小説に書いた通りの話だったのだけれど、登校中にユナがこんな事を言い出した。

「そういえばユーちゃん、今日テストあるけど大丈夫?」

「え? て、テスト?」

 そんないきなりのイベント小説には入れていないけど、どうなっているんだ?

「あれ? もしかしてユーちゃん忘れていたの?」

「そ、そうじゃないわよ。学年トップの私がそんな大事な事忘れるわけないでしょ」

「だよね。じゃあ教室に入ったら分からない事があるから教えて」

「も、勿論! 私に任せなさい」

 と言いながら内心冷や汗をダラダラ流す僕。本来テストの話は、ある程度魔法の知識を主人公に入れてから書く予定だったイベントだったのに、いきなりそのイベントが発生するなんて思いもしなかった。

(ど、どうすれば……)

 早速自分の能力を使う出番がきてしまったのかもしれない。

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