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この異世界は小説でできています

りょう

プロローグ

 突然の話だけど、ライトノベルの世界はあくまで妄想の世界なのかと言われれば、僕はそれを否定したい。
 現実の世界だって、もしかしたら小説のような事が起きてしまう事があるかもしれない。たとえ勇者になって冒険に出なくても、たとえ異世界に行ってチートの力を手に入れなくたって、いつでも僕達の近くにはライトノベルみたいな世界が待っている。

「なるほど、これがしょうせつというものなのね」

 少女はそう呟くと本を閉じる。僕はそれを見て、慌ててその本を奪った。

「ちょ、何勝手に読んでいるの?」

「いや、熱心に何か書いているからつい読みたくなってしまって」

「絶対違うよね? 興味あるのは僕の小説じゃないよね」

「え? まあ、そうだけど」

「そこはせめて否定してくれないかな」

 ちなみに今の冒頭の部分は、僕が今執筆している小説の冒頭の部分なんだけど、それは今は関係ない。関係あるのは、目の前にいる少女と、今僕に起きてしまっているある事だ。

「それでどこまで話をしたんだっけ」

「だからどうして僕がこんな得体も知れない場所にいるのかって」

「それはあなたが望んだ事だからって言ったでしょ」

「望んだ事って、僕一度も死にたいなんて思っていないんだけど」

「思っていないけど、書いたでしょそこに」

 少女は本を指差す。そこには先程も言った通り僕が執筆中だった小説。だったという事はどういう事なのか、それは今僕が言った言葉の通りである。

 そう、なぜか僕は突然死んだのだ。何の意味もなく。目の前にいる少女は神様らしいけど、どう見てもようじ………じゃなくて、小学生とかにしか見えない。

「書いたって、これあくまで小説なんだけど」

「何を言っているのよ。自分でさっき妄想の世界だとか否定したいって書いていたくせに」

「そ、それは……」

 そうであったらいいなと思って、書いただけでそれを本当に思っているかどうかはまた別の話で……。

「だから私が叶えてあげたの。君の願いを。一度でもいいから生まれ変わって異世界を旅したいって」

「じゃあもしかして、僕はこれから……」

「そう、君、神楽坂優かぐらざかゆう君には生まれ変わって自分の書いた小説のような人生を送ってもらうの」

 と少女は僕に宣言したものの、勿論僕はそんなの受け入れるなんてできない。決して面白くない話じゃないけど、その話には大きな欠点がある。

「ちょっと待ってよ、いきなりそんな事言われても僕が書いた小説って……」

「うん。どこにでもいる高校生が事故で死んで、異世界で生まれ変わったと思ったら、魔法学校に通うお嬢様だったて言う話だよね」

 それは僕が書いた転生ものは、ある異世界のお嬢様に生まれ変わる性転換のお話である事だった。

「つまり、僕はこれからお姫様に生まれ変わるって事?」

「うん!」

「いやそんな笑顔で言われても困るんだけど」

 神様って何でこんなにもいたずら好きなのだろうか。当事者ではないからなんでも言いたい放題だけど、こちらからしてみればすごく迷惑な話だ。

「別に何も不安がる事ないの。これから行く世界はあなたが思い描いた通りの異世界なんだから」

 そんな僕の思いとは裏腹に話を進める少女。僕が書いた小説通りの世界と言われたらそれは面白いとは思ってしまうけど、女性になって生活するなんて困難極まりない。
 更に一つ付け加えるなら、

「そうは言うけど、この小説まだ未完成なんだけど」

 まだこの小説は未完成であること。つまり僕が予想できるイベント以外のハプニングだって起きることもあり得る。

「それは知っているの。だからあなたには一つだけの力を与えてあげる」

「能力?」

 そう言うと少女は僕の手を取り何かを唱え始めた。しばらくして唱え終わったのか、再び少女は話し始める。

「これであなたには、自分の本に書いた文章が実際に起こる能力が備わりました」

「本に書いた文章が実際に起きるって、つまり自分の思い通りの世界が作れるって事?」

「そういう事。未完成の物語は君の手で作り上げていくの」

「それはちょっと……面白そうかも」

 思い通りの世界にできるとまではいかないけど、その能力は面白いかもしれない。そもそもこの小説はまだ半分も書き終えていないので、それを自分の都合よく描けるのならばそれは悪くない。
 どちらにせよ死んでしまったのだから退くことはできないしここは受け入れる以外になさそうだ。

「どうやら納得してくれたみたいね」

「うん。ちょっと面白そうではあるからその話に乗るよ」

「じゃあ本人の了承も得られたことだし、早速行ってみよう」

「行ってみようって、どういう……」

 突然視界が真っ白になる。少女の姿はもう確認できない。

『じゃあ楽しんでいってね。神楽坂優君。私はずっと見守っているから』

 最後に少女の声だけが聞こえる。え、もしかしてこの光が消えたら僕はもう……。

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
「……」

 僕はベッドの上で目が覚めた。見た事のない大きなベッドの上で。

(ここは?)

 窓からは朝の日差しが差し込んでいる。とりあえず体を起こしてみると、すぐに違和感を感じた。

(髪が……長い)

 金髪の前髪が僕の視界に入る。体もいつもより軽い気がする。胸のあたりにも多少の膨らみが……。

(僕、本当に……)

 女性に生まれ変わってしまったのだろうか。自分の書いた小説の主人公、ユーリティア(中身は男)に。

 それを確実的にしたのは正面にある鏡が映している自分の姿だった。

(やっぱりこれユーリティアだ)

 鏡に映し出されていたのは、長い金髪と青色の瞳がチャームポイントの見た目はまだ中学生くらいの少女だった。

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