Sea Labyrinth Online
2 タイムリミット
結界に生じた異変を目にした俺達は、それぞれお互いのフレンドに事態を報告する。
といっても、俺もハリスさんもフレンド人数は十人にも満たない。俺はユカやヨウスケにチカ。後は釣り仲間位のもんだし、ハリスさんは……一月前の攻略組の壊滅時に、ギルドメンバー、フレンドの殆どを失ってしまっている。だから俺達は、その事を拡散させるように促す文章を付けくわえた。
「とりあえず、ある程度は事態が広まってくれるはずだ」
「でも、この事が広まったら、一月前のあの日の様に、パニック状態になるんじゃないですかね?」
「なるだろうね。だけどコレばっかりは伝えないといけない……手遅れになる前に、対策を考えないといけないから」
ハリスさんの言う通り、手遅れになる前に対策を取らないといけない。
SLOは海底を舞台にしているだけあって、泳ぐなどの行為が出来るようになっている。
聞いた話じゃ、西門の先の洞窟は水中の通路があったりもするらしい。
だけど現実同様、潜るのには酸素を必要とする。
つまりは街が浸水してしまった場合、俺達の酸素ケージが奪われ、それが尽きたら急速に体の自由と体力が奪われ……俺達は死ぬ。
「まあとにかく一旦街の中心部に戻ろう。此処に居たって何も始まらない」
「そうですね……っと、返信来た……早いな」
返してきたのはヨウスケ。思った以上に返信が早か――
「……は?」
俺はヨウスケからの返信を見て、思わず絶句した。
「どうしたんだい?」
「いや……その……」
俺は震えた声で、そこに書かれてあった事を口にする。
「東フィールドの方にも穴が開いたって……」
「……は?」
「そういう情報が回っているって話です」
「そういえば、新しいスキルを試す為に、弱い東フィールドに行くって言ってた奴が居たな……あ……ソイツから今、返信が来たよ」
「どうでした?」
「キミに来た返信は正解だったよ……東フィールドの結界も破れている。それも……二か所だ」
「二か所……ッ」
此処と合わせて三か所だ……いや、それだけの穴が開いているという事は、西フィールド。北フィールドにも開いている可能性がある。
本格的に……ヤバイ状況だ。
「とにかく急ごう」
「は、はい!」
俺達は街の中心部に向かい走り出す。
そして走りながら、フレンドの項目からユカの居場所を探った。
今は……西フィールドに居るけど、街に向かって移動している。となればきっとユカはまたあの場所に向かうはずだ。
人が来なくて作業のしやすい……あの場所に。
「ハリスさん」
「なんだい」
「俺、ちょっと行く所が出来たんで、コレで失礼します」
「か、構わないけど……この状況で何処に行こうっていうんだい?」
「俺も俺なりに、この状況でやらなくちゃ行けない事が出来たんですよ」
「……分かった。お互い頑張ろう」
「……はい」
俺は最後にそう返し、進路を街の中心部から、始まりの街南東へと移した。
来るよな……ユカ!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
あの場所にたどり着いて、待つ事十五分。
「よう……ユカ」
「いたんだ……ユウキ君」
ユカは息を切らしながら、俺の元に歩み寄ってくる。
「此処に居るってことは、今起きている異変の事を知っているのかな?」
ユカが辛そうな顔で聞いてくる。
「ああ……穴のすぐ近くに居たからな」
「私はユウキ君の送ったメッセージで初めて知って、今こっちに戻ってきたんだ……街の中はもう騒然としてたよ」
そりゃそうだ……異常事態過ぎるだろ。デスゲーム不可でログアウト不能なんつう、ただでえ正気を保つのも難しい様な状況下で、そんな事が起きれば、騒ぎが起こらない方がおかしい。
「ていうか……なんでこんな事になってんだよ……」
「きっとバグだと思う」
そう言ってユカは巨大なウインドウを開く。
「バグ……またか」
「うん……ログアウト不可やデスゲームなどのバグで、システム全体が狂い始めたんだと思う……モンスターのアルゴリズムが変わったようにね……うん、やっぱりそう」
どうやらこの現象がバグであるという事を確認したらしい。
「なあユカ。今現在、何か所に穴が開いてる?」
俺は気になっていた事を訪ねた。
現状俺が知りうる穴が三か所。それ以外にあと何か所開いてるんだ?
できればゼロで会ってほしいけど……。
そう願う俺とは裏腹に、ユカの行った答えはあまりに残酷だった。
「……七か所」
「七か所……ッ」
「うん。街の南に一か所。東フィールドに三か所。そして西フィールドに三か所」
その衝撃的な数に思考が停止しそうになるも、なんとか踏みとどまってこの質問をする。
「なぁ……つまりは七か所から大量の水が流れ出てるんだよな……マジでこの場合……どうなっちまうんだ?」
「……浸水」
ユカは短く答えた後、一拍空けてから詳細を口にする。
「あと一週間もすれば……おそらく2メートルに達すると思う」
嘘……だろ?
「ちょ、ちょっと待てよ。一週間で二メートルってオイ……それじゃあ一週間以内に2層に登らねえと沈む……いや、3、4日で水嵩が1メートルにまでなるってことは、もうその時点でまともな行動が出来ねえじゃねえか!」
確かにSLOには水中に潜るといったアクションが容易されている。
だけど、本来普通に立って戦い攻略するフィールドで、泳ぐような状況が生まれた場合どうなるか……もし此処が現実なら、1メートルの水笠の中でまともに動けと言われても無理だ。
「うん……だからすぐに1層を攻略しなくちゃいけない」
そうしないと……俺達は海の底に沈む。
2層にさえ進みさえすれば、たとえ一週間で2メートル水笠が上がろうと、ある程度の高さの空がある。きっとそれ程高くは設定されていないと思うけど、ある程度の時間が稼げるはずだ。
……1層を突破出来たらの話だけど。
「ごめん……ユウキ君」
「もう謝るな……お前は悪くないって」
俺が慰める様にそう言った……その時だった。
「……メッセージが……」
どうやらユカにメッセージが届いたらしく、ユカは自らのウインドウを操作してそのメッセージを読む。
そして……こんな言葉を口にした。
「なに……コレ」
その表情は驚愕の色に染まっていた。
そしてすぐにウインドウを操作して……俺にそのメッセージを送ってきた。
「コレを見て、ユウキ君」
焦った様にそう言うユカの声を聞きながら、俺はそのメッセージを開いた。
差出人はユカになっているが、恐らくは攻略組の人間か何かだろう。
俺はそう思いながら文章を読み進め、添付された画像を見たところで……思わず息を飲んだ。
「穴から……モンスター……だと?」
撮影場所は東フィールド。
そこに映っているのは……150cmはあると思われるカニ型のモンスター。
少なくとも……東フィールドに現れるモンスターじゃない。
そしてユカは、そのモンスターの名を口にする。
「ブレイククラブ……第三層のモンスター……」
その言葉は……絶望以外の何物でもなかった。
といっても、俺もハリスさんもフレンド人数は十人にも満たない。俺はユカやヨウスケにチカ。後は釣り仲間位のもんだし、ハリスさんは……一月前の攻略組の壊滅時に、ギルドメンバー、フレンドの殆どを失ってしまっている。だから俺達は、その事を拡散させるように促す文章を付けくわえた。
「とりあえず、ある程度は事態が広まってくれるはずだ」
「でも、この事が広まったら、一月前のあの日の様に、パニック状態になるんじゃないですかね?」
「なるだろうね。だけどコレばっかりは伝えないといけない……手遅れになる前に、対策を考えないといけないから」
ハリスさんの言う通り、手遅れになる前に対策を取らないといけない。
SLOは海底を舞台にしているだけあって、泳ぐなどの行為が出来るようになっている。
聞いた話じゃ、西門の先の洞窟は水中の通路があったりもするらしい。
だけど現実同様、潜るのには酸素を必要とする。
つまりは街が浸水してしまった場合、俺達の酸素ケージが奪われ、それが尽きたら急速に体の自由と体力が奪われ……俺達は死ぬ。
「まあとにかく一旦街の中心部に戻ろう。此処に居たって何も始まらない」
「そうですね……っと、返信来た……早いな」
返してきたのはヨウスケ。思った以上に返信が早か――
「……は?」
俺はヨウスケからの返信を見て、思わず絶句した。
「どうしたんだい?」
「いや……その……」
俺は震えた声で、そこに書かれてあった事を口にする。
「東フィールドの方にも穴が開いたって……」
「……は?」
「そういう情報が回っているって話です」
「そういえば、新しいスキルを試す為に、弱い東フィールドに行くって言ってた奴が居たな……あ……ソイツから今、返信が来たよ」
「どうでした?」
「キミに来た返信は正解だったよ……東フィールドの結界も破れている。それも……二か所だ」
「二か所……ッ」
此処と合わせて三か所だ……いや、それだけの穴が開いているという事は、西フィールド。北フィールドにも開いている可能性がある。
本格的に……ヤバイ状況だ。
「とにかく急ごう」
「は、はい!」
俺達は街の中心部に向かい走り出す。
そして走りながら、フレンドの項目からユカの居場所を探った。
今は……西フィールドに居るけど、街に向かって移動している。となればきっとユカはまたあの場所に向かうはずだ。
人が来なくて作業のしやすい……あの場所に。
「ハリスさん」
「なんだい」
「俺、ちょっと行く所が出来たんで、コレで失礼します」
「か、構わないけど……この状況で何処に行こうっていうんだい?」
「俺も俺なりに、この状況でやらなくちゃ行けない事が出来たんですよ」
「……分かった。お互い頑張ろう」
「……はい」
俺は最後にそう返し、進路を街の中心部から、始まりの街南東へと移した。
来るよな……ユカ!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
あの場所にたどり着いて、待つ事十五分。
「よう……ユカ」
「いたんだ……ユウキ君」
ユカは息を切らしながら、俺の元に歩み寄ってくる。
「此処に居るってことは、今起きている異変の事を知っているのかな?」
ユカが辛そうな顔で聞いてくる。
「ああ……穴のすぐ近くに居たからな」
「私はユウキ君の送ったメッセージで初めて知って、今こっちに戻ってきたんだ……街の中はもう騒然としてたよ」
そりゃそうだ……異常事態過ぎるだろ。デスゲーム不可でログアウト不能なんつう、ただでえ正気を保つのも難しい様な状況下で、そんな事が起きれば、騒ぎが起こらない方がおかしい。
「ていうか……なんでこんな事になってんだよ……」
「きっとバグだと思う」
そう言ってユカは巨大なウインドウを開く。
「バグ……またか」
「うん……ログアウト不可やデスゲームなどのバグで、システム全体が狂い始めたんだと思う……モンスターのアルゴリズムが変わったようにね……うん、やっぱりそう」
どうやらこの現象がバグであるという事を確認したらしい。
「なあユカ。今現在、何か所に穴が開いてる?」
俺は気になっていた事を訪ねた。
現状俺が知りうる穴が三か所。それ以外にあと何か所開いてるんだ?
できればゼロで会ってほしいけど……。
そう願う俺とは裏腹に、ユカの行った答えはあまりに残酷だった。
「……七か所」
「七か所……ッ」
「うん。街の南に一か所。東フィールドに三か所。そして西フィールドに三か所」
その衝撃的な数に思考が停止しそうになるも、なんとか踏みとどまってこの質問をする。
「なぁ……つまりは七か所から大量の水が流れ出てるんだよな……マジでこの場合……どうなっちまうんだ?」
「……浸水」
ユカは短く答えた後、一拍空けてから詳細を口にする。
「あと一週間もすれば……おそらく2メートルに達すると思う」
嘘……だろ?
「ちょ、ちょっと待てよ。一週間で二メートルってオイ……それじゃあ一週間以内に2層に登らねえと沈む……いや、3、4日で水嵩が1メートルにまでなるってことは、もうその時点でまともな行動が出来ねえじゃねえか!」
確かにSLOには水中に潜るといったアクションが容易されている。
だけど、本来普通に立って戦い攻略するフィールドで、泳ぐような状況が生まれた場合どうなるか……もし此処が現実なら、1メートルの水笠の中でまともに動けと言われても無理だ。
「うん……だからすぐに1層を攻略しなくちゃいけない」
そうしないと……俺達は海の底に沈む。
2層にさえ進みさえすれば、たとえ一週間で2メートル水笠が上がろうと、ある程度の高さの空がある。きっとそれ程高くは設定されていないと思うけど、ある程度の時間が稼げるはずだ。
……1層を突破出来たらの話だけど。
「ごめん……ユウキ君」
「もう謝るな……お前は悪くないって」
俺が慰める様にそう言った……その時だった。
「……メッセージが……」
どうやらユカにメッセージが届いたらしく、ユカは自らのウインドウを操作してそのメッセージを読む。
そして……こんな言葉を口にした。
「なに……コレ」
その表情は驚愕の色に染まっていた。
そしてすぐにウインドウを操作して……俺にそのメッセージを送ってきた。
「コレを見て、ユウキ君」
焦った様にそう言うユカの声を聞きながら、俺はそのメッセージを開いた。
差出人はユカになっているが、恐らくは攻略組の人間か何かだろう。
俺はそう思いながら文章を読み進め、添付された画像を見たところで……思わず息を飲んだ。
「穴から……モンスター……だと?」
撮影場所は東フィールド。
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