Sea Labyrinth Online
3 初めての事
 その後、俺達はアクアシープを駆り続け、大体俺達の討伐合計が三十匹程に達した時、俺達三人のレベルが同時に上がった。
パーティを組んでいると、経験地が平等に分配されるので、ユカが沢山モンスターを駆ろうが、ヨウスケがどれ程へたれようが、同時にレベルが上がる訳だ。うん。ヨウスケは何体ぐらい倒したっけ?
「やっとレベルアップ……って、ん?」
大して働いてないヨウスケがそう呟く。多分目の前にシステムメッセージが現れたのだろう。俺達も同じで、メニューを開いてくださいという表記が、目の前に三度ほどちちらついた。
「レベルアップボーナスの振り分けかな?」
俺達はソレに従って指を動かし、目の前にメニューを開く。
「ステータスポイントを振り分けてください……か。予想通りだな」
俺はその自分の目の前に表示されているウインドウに書かれた、メッセージと8pointという表記を見て、そう呟く。
「よく考えて選ばないと駄目だね」
「ああ。一度上げたステータスポイントを元に戻すのは、名前は知らないけど、レアアイテムが必要みたいだし……まあまず、一つスキルを覚える。これは確定だな」
レベルアップボーナスの、ステータスポイントは、筋力、防御、体力、魔力、俊敏、詠唱速度、運。それに加えて、いくつもの系統のスキルに注ぎ込む事ができる。
たとえば俺の場合、カタナスキルにポイントを注いでいくと、カタナ関連のスキルを会得していく事となる。まあその他のサポートスキルやネタスキルも沢山容易してあるが、まずは通常の攻撃スキルを覚えるのが最優先だ。
目の前に表示されているウインドウには、次のスキルを覚えるまで、1ポイント必要と書かれてある。
だから俺はとりあえず、1ポイントカタナスキルに注ぎ込む。すると先程のシステムメッセージと同じように『get new skill!』という文字が出現し、メニューのスキル一覧のアイコンに光が灯る。新しいスキルを会得した証拠だろう。
「……カマイタチ」
実にシンプルな名称のスキル。カマイタチの効果は、カタナに風を纏わせて、攻撃時に追加ダメージを与えるというもの。うん。シンプル。
まあ最初のスキルだからな。いきなり派手なスキル来られても、若干戸惑う。まあスキルは使いこむと強くなっていくらしいから、もしかするとこのカマイタチも派手な感じになるのかもしれない。
で、次のスキルまで……10ポイントか。やっぱ、2つ目以降は会得し辛くなってるな。とりあえず毎度八ポイント貰えるなら、2ポイントずつ位スキルにつぎ込んで行くか。そうなると次のスキルを覚えるのが、レベル7になった時になるけど……それまでカマイタチで十分なんとかなるだろう。
俺は残り7ポイントを、筋力に3。俊敏に2。体力に1。防御に1という風に分配する。
魔力と詠唱速度は、そもそも前衛組には、殆ど無縁のステータスだろうから、今後も上げるつもりは無いし、運も高いに越した事は無いが、アイテムのドロップ率が上がったりなんていう中途半端な効果だ。別に必要は無いだろう。
「……よし」
俺は一通り能力値を上げ終えてウインドウを閉じ、二人に視線を向ける。
「二人は何のステータス上げた?」
俺がそう尋ねると、まず答えたのはユカの方だった。
「私は双剣スキルに1ポイントと、俊敏に4。で、筋力3かな」
「なるほど……まあ双剣使いは早いイメージがあるしな……って、体力と防御は上げねーのな」
「まああくまでこのポイントは、ボーナスだから。一応レベルアップで、全パラメータがある程度上がる様になってるし……ほら、私体力上げてないけど、HPが400から440になってる」
ちなみに、体力ステータスに1振った俺は、480となっていた。どうやら1ポイント辺り、HPが40上がるらしい。
「ちなみにスキル何覚えた?」
気になったので聞いておく。
「螺旋乱舞。なんか回転しながら、何回も斬りつける攻撃みたい」
なんとなく初っ端から強そうなスキル来たな……酔いそうだけど。
「で、ヨウスケ。お前は?」
案外防御と体力固めてそうだな。ビビリだし。
だけどその予想は、大きく外れる事になった。
「とりあえず防御2、体力2、魔力2、詠唱速度1、攻撃魔法スキル1かな」
あろうことか……剣士なの魔法ステータスを上げていた。
「えーっと……何故に魔法ステ?」
まあ前衛の剣士タイプでも、魔法を覚えて魔法剣士にでもなるっていう選択肢もある。ただ、剣士の装備では十分に魔術の力を引き出せない事に加え、能力ステータスで、運以外のほぼ全てを上げないといけないので、全体的に中途半端な能力値のキャラが生まれてしまう。βでも地雷と呼ばれていた上げ方だ。
ていうか、魔法剣士どころか、ステータスの振り方、完全に純魔術師の振り方だったぞ?
俺がヨウスケの行動に色々考察していると、ヨウスケは苦笑いしながらこう言った。
「俺さ、剣士止めて魔術師になる」
「は?」
「やっぱ俺前衛向いてないわ。だから後方から魔法をバンバン撃つスタイルに変更する! そう決めた!」
何故かドヤ顔でそう言うヨウスケ。
まあつまりは、前衛怖いんだろ。このビビリが。
……まあ俺剣士だし、魔法の方がバランスは取れるかな。
「だからまあ、街帰ったらさっきの戦闘で手に入れた素材売って、この武器も売って、俺は魔術師系の装備を買う」
「うーん……でもそれでも足りないと思うよ。さっき一度お店除いたけど、結構高かったもん」
「……マジで?」
ヨウスケは計画が狂ったと言わんばかりに、複雑な表情を浮かべる。
だいたいMMOの道具屋で売っている装備は割高だ。安く作りたきゃ、素材を集めて工房へ持ていけという話だ。
まあ俺達の持っている、アクアシープの毛皮だけでは、とてもじゃないが武器なんて作れないだろう。作れたらおかしい。
「じゃあさ、もう少し奥に行ってお金稼ごうよ」
ユカがそう提案した。
「奥って……ここのフィールドは基本的にアクアシープか、それに近い難易度の敵しか出ないわけだし……貰える金もそこまで変わらないよな?」
「だから潜るの」
「潜るって……何処に?」
「ダンジョンに」
ヨウスケの問いにユカが短くそう返す。
「ダンジョン……って、そんな所行って、勝てるのか?」
「大丈夫だよ。流石にボスはムリだろうけど、この東側はチュートリアルみたいな物らしいから。ユウキ君も強かったし……レベル二が三人もいたら、それ以外の敵位どうてことないよ」
「まあ……そうかな」
正直アクアシープは弱すぎたし、もう少し上の相手なら戦えるかもしれない。何より強い敵の方が、経験値、金、ドロップアイテム。どれを取っても上回る。
「じゃ、じゃあ……洞窟行く?」
アクアシープよりも強い敵が出てくるダンジョンに、恐れをなして逃げだしそうな雰囲気を醸し出していながらも、最終確認を取ったのはヨウスケだった。
「まあ俺はいいよ」
「じゃあ決まりだね」
「……俺一応魔法で援護するから、俺の事護れよ、ユウキ。モンスター怖いから」
……コイツはマジでダンジョンではなく、合コンにでも行くべきだと、改めて思った今日この頃。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「うん。確かに十分なんとかなるレベルだな」
俺は訪れたダンジョン≪勇気試しの洞窟≫で、ついさっきまで戦闘していた、ガイコツ系のモンスター。弱き者の残骨との戦闘を振り返って、そう口にした。
やっぱりダンジョン名が勇気試しなだけあって、外より多少強いモンスターといった程度だった。違いとしては、一応人型という事で、剣を持っていた事位だが、別にスキルを使ってくる訳でもないので、攻撃を防ぎつつカマイタチを放つの繰り返しで、楽勝に倒す事ができた。
「いやーそれにしてもユカちゃんのスキルなかなか強かったねー」
ヨウスケが軽い感じでそう言う。
その時その時でバラバラだが、通常攻撃より威力の高い攻撃を、3,4ヒット。悪くない技だった。
「それに比べてお前と来たら」
俺はヨウスケをジト目で睨む。
「悪かった! マジで悪かったって!」
ヨウスケも先程のレベルアップで、攻撃魔法を覚えている。
単純な、炎の玉を飛ばす術、ファイアボール。
装備補正の恩恵は得られなくても、それなりの威力を誇るソレは……あろうことか、俺にヒットしたのだ。
「お前に削られたダメージが、一番焦ったわ」
「悪いユウキ。なんつーか、なかなか難しくてな」
まあ剣とは普段使っている体の動きで繰り出すわけだけど、魔法は違うからな。寧ろ最初は皆そうなのかもしれない。
「まあとりあえず、経験値もソコソコ良いし、金も溜まる。次のレベルアップ位には、装備帰るんじゃないか?」
「そうだね。あとその頃には魔法使うのうまくなってるといいね」
ユカの言葉に、ヨウスケがまるで心臓に杭でも打たれたかの様な表情を浮かべる。うん。お前全体的にメンタル脆いなー。
俺達がそんなやり取りをしていた時だった。
「おーい、君達」
近くから、俺達を呼ぶ男の声が聞こえ、俺達はその方角に振り向く。
視界の奥には、二人のプレイヤーが居た。
一人は大学生位の青年。恐らく声の主は彼だろう。
そしてもう一人は、俺達位の年頃で少し背の低めな、おとなしそうなロングヘアーの女の子。
「お、あの子可愛い!」
さっそく元気になりやがったなヨウスケ。なんつーか扱いやすい奴だ。その内変な坪でも買わされそうだ。
とまあそんなヨウスケは別にどうでもいいとして、俺は駆け寄ってくる二人に、こう声を掛けた。
「どうかしましたか?」
「いや、ちょっとした誘いをね」
誘い……何のだろう。
パーティだとしても、パーティは一組四人だから違うだろうし。
俺が答えを導き出す前に、青年は答えを述べる。
「俺達と、この先のボスを狩らないか?」
「ボス……ですか?」
ボスってオイ……俺達レベル2の上に、一人アレだぞ?
「えーっと、お二人のレベルは?」
「俺が4で、コイツが3。あ、俺の名前はリューク。で、こっちが妹のチカ」
「どうも……」
チカは静かにそう言う。
「そっかー、チカちゃんかー。俺ヨウスケね、以後よろしくー」
本当に水を得た魚みたいだ。
でもっまあ先に自己紹介してくれたら、流れで俺もやりやすいってもんだ。
「俺はユウキって言います」
「私はユカ。よろしく」
とまあ俺達もこんな風に自己紹介を済ませ、本題に入る。
「それで、ボスって……このレベルで勝てる物なんんですか?」
「まあ少し難しいけど、最低四人居れば、勝てない事もない。所詮此処はチュートリアルだから」
うん。最低四人はクリアしているな。
「第一、俺はβ上がりだから、此処のボスと何度も戦って慣れてるし」
なんだ、この人βテスト上がりか。
「どんなボス何ですか?」
「なんつーか、弱き者の残骨をそのまま大きくしたような奴。攻撃パターンも全部覚えてっから、これさえ頭に入れとけば勝てるよ」
「ちなみに、経験値とかお金とかはどうでした?」
「うん。まあそれなりにいいよ。ボスだから」
なる程……それならボスを倒せば、、一気にヨウスケの装備購入ができるかもな。
「いや、でも俺達金貯めてるんですけど、死んだらデスペナが発生しませんか?」
それで今まで貯めた金が吹っ飛んだら洒落にならない。
「大丈夫。レベル10までは、死んでもデスペナ無いから」
「あ、そうなんですか」
「だから、デスペナが無くて、ノビノビ出来る間に、ボス戦を経験しておいた方がいいよ……で、どうだい?」
どうしようか……俺は別にいいけど。
「二人はどうする?」
「私はいいよ。その方が効率良さそうだし」
「お、俺も……別に大丈夫」
おーい。声震えてんぞーヨウスケ。
でもまあ、行こうという意思はあるようだった。
「じゃあ、俺達も行きます」
俺はリュークさんにそう返事をした。
するとニコリと笑ったリュークさんは通路の向こうを指さしてこう言う。
「この先を暫く進んだ所にボスの部屋の扉がある。だから着くまでは連携の練習でもしながら行こうか」
そういう訳で、俺達は初のボス戦に臨む事となった。
俺は、胸が高まるのを感じながら、先頭を歩き始めたリュークさんの後を追った。
パーティを組んでいると、経験地が平等に分配されるので、ユカが沢山モンスターを駆ろうが、ヨウスケがどれ程へたれようが、同時にレベルが上がる訳だ。うん。ヨウスケは何体ぐらい倒したっけ?
「やっとレベルアップ……って、ん?」
大して働いてないヨウスケがそう呟く。多分目の前にシステムメッセージが現れたのだろう。俺達も同じで、メニューを開いてくださいという表記が、目の前に三度ほどちちらついた。
「レベルアップボーナスの振り分けかな?」
俺達はソレに従って指を動かし、目の前にメニューを開く。
「ステータスポイントを振り分けてください……か。予想通りだな」
俺はその自分の目の前に表示されているウインドウに書かれた、メッセージと8pointという表記を見て、そう呟く。
「よく考えて選ばないと駄目だね」
「ああ。一度上げたステータスポイントを元に戻すのは、名前は知らないけど、レアアイテムが必要みたいだし……まあまず、一つスキルを覚える。これは確定だな」
レベルアップボーナスの、ステータスポイントは、筋力、防御、体力、魔力、俊敏、詠唱速度、運。それに加えて、いくつもの系統のスキルに注ぎ込む事ができる。
たとえば俺の場合、カタナスキルにポイントを注いでいくと、カタナ関連のスキルを会得していく事となる。まあその他のサポートスキルやネタスキルも沢山容易してあるが、まずは通常の攻撃スキルを覚えるのが最優先だ。
目の前に表示されているウインドウには、次のスキルを覚えるまで、1ポイント必要と書かれてある。
だから俺はとりあえず、1ポイントカタナスキルに注ぎ込む。すると先程のシステムメッセージと同じように『get new skill!』という文字が出現し、メニューのスキル一覧のアイコンに光が灯る。新しいスキルを会得した証拠だろう。
「……カマイタチ」
実にシンプルな名称のスキル。カマイタチの効果は、カタナに風を纏わせて、攻撃時に追加ダメージを与えるというもの。うん。シンプル。
まあ最初のスキルだからな。いきなり派手なスキル来られても、若干戸惑う。まあスキルは使いこむと強くなっていくらしいから、もしかするとこのカマイタチも派手な感じになるのかもしれない。
で、次のスキルまで……10ポイントか。やっぱ、2つ目以降は会得し辛くなってるな。とりあえず毎度八ポイント貰えるなら、2ポイントずつ位スキルにつぎ込んで行くか。そうなると次のスキルを覚えるのが、レベル7になった時になるけど……それまでカマイタチで十分なんとかなるだろう。
俺は残り7ポイントを、筋力に3。俊敏に2。体力に1。防御に1という風に分配する。
魔力と詠唱速度は、そもそも前衛組には、殆ど無縁のステータスだろうから、今後も上げるつもりは無いし、運も高いに越した事は無いが、アイテムのドロップ率が上がったりなんていう中途半端な効果だ。別に必要は無いだろう。
「……よし」
俺は一通り能力値を上げ終えてウインドウを閉じ、二人に視線を向ける。
「二人は何のステータス上げた?」
俺がそう尋ねると、まず答えたのはユカの方だった。
「私は双剣スキルに1ポイントと、俊敏に4。で、筋力3かな」
「なるほど……まあ双剣使いは早いイメージがあるしな……って、体力と防御は上げねーのな」
「まああくまでこのポイントは、ボーナスだから。一応レベルアップで、全パラメータがある程度上がる様になってるし……ほら、私体力上げてないけど、HPが400から440になってる」
ちなみに、体力ステータスに1振った俺は、480となっていた。どうやら1ポイント辺り、HPが40上がるらしい。
「ちなみにスキル何覚えた?」
気になったので聞いておく。
「螺旋乱舞。なんか回転しながら、何回も斬りつける攻撃みたい」
なんとなく初っ端から強そうなスキル来たな……酔いそうだけど。
「で、ヨウスケ。お前は?」
案外防御と体力固めてそうだな。ビビリだし。
だけどその予想は、大きく外れる事になった。
「とりあえず防御2、体力2、魔力2、詠唱速度1、攻撃魔法スキル1かな」
あろうことか……剣士なの魔法ステータスを上げていた。
「えーっと……何故に魔法ステ?」
まあ前衛の剣士タイプでも、魔法を覚えて魔法剣士にでもなるっていう選択肢もある。ただ、剣士の装備では十分に魔術の力を引き出せない事に加え、能力ステータスで、運以外のほぼ全てを上げないといけないので、全体的に中途半端な能力値のキャラが生まれてしまう。βでも地雷と呼ばれていた上げ方だ。
ていうか、魔法剣士どころか、ステータスの振り方、完全に純魔術師の振り方だったぞ?
俺がヨウスケの行動に色々考察していると、ヨウスケは苦笑いしながらこう言った。
「俺さ、剣士止めて魔術師になる」
「は?」
「やっぱ俺前衛向いてないわ。だから後方から魔法をバンバン撃つスタイルに変更する! そう決めた!」
何故かドヤ顔でそう言うヨウスケ。
まあつまりは、前衛怖いんだろ。このビビリが。
……まあ俺剣士だし、魔法の方がバランスは取れるかな。
「だからまあ、街帰ったらさっきの戦闘で手に入れた素材売って、この武器も売って、俺は魔術師系の装備を買う」
「うーん……でもそれでも足りないと思うよ。さっき一度お店除いたけど、結構高かったもん」
「……マジで?」
ヨウスケは計画が狂ったと言わんばかりに、複雑な表情を浮かべる。
だいたいMMOの道具屋で売っている装備は割高だ。安く作りたきゃ、素材を集めて工房へ持ていけという話だ。
まあ俺達の持っている、アクアシープの毛皮だけでは、とてもじゃないが武器なんて作れないだろう。作れたらおかしい。
「じゃあさ、もう少し奥に行ってお金稼ごうよ」
ユカがそう提案した。
「奥って……ここのフィールドは基本的にアクアシープか、それに近い難易度の敵しか出ないわけだし……貰える金もそこまで変わらないよな?」
「だから潜るの」
「潜るって……何処に?」
「ダンジョンに」
ヨウスケの問いにユカが短くそう返す。
「ダンジョン……って、そんな所行って、勝てるのか?」
「大丈夫だよ。流石にボスはムリだろうけど、この東側はチュートリアルみたいな物らしいから。ユウキ君も強かったし……レベル二が三人もいたら、それ以外の敵位どうてことないよ」
「まあ……そうかな」
正直アクアシープは弱すぎたし、もう少し上の相手なら戦えるかもしれない。何より強い敵の方が、経験値、金、ドロップアイテム。どれを取っても上回る。
「じゃ、じゃあ……洞窟行く?」
アクアシープよりも強い敵が出てくるダンジョンに、恐れをなして逃げだしそうな雰囲気を醸し出していながらも、最終確認を取ったのはヨウスケだった。
「まあ俺はいいよ」
「じゃあ決まりだね」
「……俺一応魔法で援護するから、俺の事護れよ、ユウキ。モンスター怖いから」
……コイツはマジでダンジョンではなく、合コンにでも行くべきだと、改めて思った今日この頃。
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「うん。確かに十分なんとかなるレベルだな」
俺は訪れたダンジョン≪勇気試しの洞窟≫で、ついさっきまで戦闘していた、ガイコツ系のモンスター。弱き者の残骨との戦闘を振り返って、そう口にした。
やっぱりダンジョン名が勇気試しなだけあって、外より多少強いモンスターといった程度だった。違いとしては、一応人型という事で、剣を持っていた事位だが、別にスキルを使ってくる訳でもないので、攻撃を防ぎつつカマイタチを放つの繰り返しで、楽勝に倒す事ができた。
「いやーそれにしてもユカちゃんのスキルなかなか強かったねー」
ヨウスケが軽い感じでそう言う。
その時その時でバラバラだが、通常攻撃より威力の高い攻撃を、3,4ヒット。悪くない技だった。
「それに比べてお前と来たら」
俺はヨウスケをジト目で睨む。
「悪かった! マジで悪かったって!」
ヨウスケも先程のレベルアップで、攻撃魔法を覚えている。
単純な、炎の玉を飛ばす術、ファイアボール。
装備補正の恩恵は得られなくても、それなりの威力を誇るソレは……あろうことか、俺にヒットしたのだ。
「お前に削られたダメージが、一番焦ったわ」
「悪いユウキ。なんつーか、なかなか難しくてな」
まあ剣とは普段使っている体の動きで繰り出すわけだけど、魔法は違うからな。寧ろ最初は皆そうなのかもしれない。
「まあとりあえず、経験値もソコソコ良いし、金も溜まる。次のレベルアップ位には、装備帰るんじゃないか?」
「そうだね。あとその頃には魔法使うのうまくなってるといいね」
ユカの言葉に、ヨウスケがまるで心臓に杭でも打たれたかの様な表情を浮かべる。うん。お前全体的にメンタル脆いなー。
俺達がそんなやり取りをしていた時だった。
「おーい、君達」
近くから、俺達を呼ぶ男の声が聞こえ、俺達はその方角に振り向く。
視界の奥には、二人のプレイヤーが居た。
一人は大学生位の青年。恐らく声の主は彼だろう。
そしてもう一人は、俺達位の年頃で少し背の低めな、おとなしそうなロングヘアーの女の子。
「お、あの子可愛い!」
さっそく元気になりやがったなヨウスケ。なんつーか扱いやすい奴だ。その内変な坪でも買わされそうだ。
とまあそんなヨウスケは別にどうでもいいとして、俺は駆け寄ってくる二人に、こう声を掛けた。
「どうかしましたか?」
「いや、ちょっとした誘いをね」
誘い……何のだろう。
パーティだとしても、パーティは一組四人だから違うだろうし。
俺が答えを導き出す前に、青年は答えを述べる。
「俺達と、この先のボスを狩らないか?」
「ボス……ですか?」
ボスってオイ……俺達レベル2の上に、一人アレだぞ?
「えーっと、お二人のレベルは?」
「俺が4で、コイツが3。あ、俺の名前はリューク。で、こっちが妹のチカ」
「どうも……」
チカは静かにそう言う。
「そっかー、チカちゃんかー。俺ヨウスケね、以後よろしくー」
本当に水を得た魚みたいだ。
でもっまあ先に自己紹介してくれたら、流れで俺もやりやすいってもんだ。
「俺はユウキって言います」
「私はユカ。よろしく」
とまあ俺達もこんな風に自己紹介を済ませ、本題に入る。
「それで、ボスって……このレベルで勝てる物なんんですか?」
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うん。最低四人はクリアしているな。
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なんだ、この人βテスト上がりか。
「どんなボス何ですか?」
「なんつーか、弱き者の残骨をそのまま大きくしたような奴。攻撃パターンも全部覚えてっから、これさえ頭に入れとけば勝てるよ」
「ちなみに、経験値とかお金とかはどうでした?」
「うん。まあそれなりにいいよ。ボスだから」
なる程……それならボスを倒せば、、一気にヨウスケの装備購入ができるかもな。
「いや、でも俺達金貯めてるんですけど、死んだらデスペナが発生しませんか?」
それで今まで貯めた金が吹っ飛んだら洒落にならない。
「大丈夫。レベル10までは、死んでもデスペナ無いから」
「あ、そうなんですか」
「だから、デスペナが無くて、ノビノビ出来る間に、ボス戦を経験しておいた方がいいよ……で、どうだい?」
どうしようか……俺は別にいいけど。
「二人はどうする?」
「私はいいよ。その方が効率良さそうだし」
「お、俺も……別に大丈夫」
おーい。声震えてんぞーヨウスケ。
でもまあ、行こうという意思はあるようだった。
「じゃあ、俺達も行きます」
俺はリュークさんにそう返事をした。
するとニコリと笑ったリュークさんは通路の向こうを指さしてこう言う。
「この先を暫く進んだ所にボスの部屋の扉がある。だから着くまでは連携の練習でもしながら行こうか」
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