Sea Labyrinth Online

山外大河

とある少女の話

 全世界で初となるVRMMOの完成を心待ちにしている人間は、一体どれほどいるのだろうか。
 まだテスト段階のゲーム内で、はじまりの 街に一人歩く少女は、そんな感情を胸に抱いた。
 もうすぐこの世界に人がやってくる。
 それが少女には堪らなく嬉しく、その思いが少女の作業スピードを加速させる。

 VRMMO、《Sea・Labyrinth・Online》通称SLO。
 彼女は言わば、SLOの管理プログラムの様な存在だ。 

 町を歩くNPCと同じように、プログラムによって全てが構築された存在ではある。だけどNPCと彼女では、役割以外にも大きく異なる点が一つある。

 少女は……自らの心を持っている。
 自分の意思で、臨機応変にトラブルに対応できるようにするため。そういう理由で彼女にのみ与えられた特権であった。
 そんな特権を持っているが故に……少女は同じように心を持つ、プレイヤー。冒険者を待ち焦がれる。

 あともう少し。

 今確認している区分のバグチェックを終わらせれば、ようやくSLOは完成する。
 冒険者を……迎える準備ができる。
 そう考えると、少女は思わずにやけてしまう。これから自分を取り巻くだろうプレイヤーを創造すると、止めようにも止まらなかった。
 だが……そんな少女の前に、とある一つのバグが立ちふさがった。

「何……コレ」

 そう呟いた少女は……しばらく悩んだ末、結局そのバグを見逃すことにした。
 それがSLOを最悪のゲームに帰る事を知っていながらも……少女は目を瞑り、自らの記憶からそのバグに関する事を、完全に抹消する。

 こうしてSLOは未完成ながらも完成した。
 史上最悪のVRMMOが。

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