《異世界の主人公共へ》

怠惰のあるま

《初代勇者の記憶》

城に戻った俺は途轍もない疲労と睡魔に襲われた。

あんだけの本を調べれば疲労も来るか......今日はもう寝よう。

たぶん夜になった頃、俺は不思議な夢を見た.......

荒廃した砂漠のように草木が一本も生えていない淋しい土地に大きな城がポツンとあった。

その城の扉の前に俺は一人立っていた。

頑丈に作られた大きな扉は巨人族でも容易に入れそうな大きさだった。

その扉に触れるとギギギ...と大きくこすれる音を出しながら扉が開いた、扉の先を進んでいくと次々に声と映像が頭の中に流れた。

頭に流れた映像の場所は大きな闘技場を思わせる円形の部屋には二匹の魔物がいた。

紅く炎のように淡く光る鱗、四本の足には鉄さえもバターのように切り裂く硬度の鉤爪が生え、口元からは溶岩のように煮えたぎるヨダレを垂らす碧眼の赤竜が雄叫びをあげている。

その真上には黒いローブを纏い中身がまったく見えない魔道士が黒い魔力を放ち、それぞれ用途が違う杖を何本も周りに浮かばせ、詠唱を始めていた。

二匹に相対するのは四人の人間達であった。

それぞれの武器を構えると赤竜が先に攻撃をしかけた。勢い良く振り下ろされた右前足は人間程度なら軽々と踏み潰すだろう。

迫り来る赤竜の攻撃に対して、四人の中で一番ガタイがよく人柄の良さそうな茶髪の戦士が剣を抜いた。

戦士は赤竜の足に飛びかかると鉤爪に向け攻撃をしかけた。普通の攻撃であれば容易に弾かれるほどの硬度を持つ爪であるが、この戦士は違った。

剣が鉤爪に当たると爆発音にも等しい金属音が響いた、その音にも驚いたが何より驚いたのは赤竜の振り下ろされた前足がそれていた。

俺は赤竜の攻撃を弾いた戦士を見た、彼は勝ち誇ったように笑っていた。そして、剣先を赤竜に向けながら仲間達に叫ぶような声量で言った。

ーーここは俺が止める!行けぇ!ーー

だが、それを止めるように赤竜の真上にいた魔道士が立ちはだかるように降り立った。先ほどまで行っていた詠唱を終えており、周りにあった杖が背後にある壁に突き刺さり魔法陣を描いた。

そこから現れたのは数え切れないほどの量の氷の槍であった。魔術師が腕で空を切ると、槍が全て人間達に向けられた。そして、一斉に放たれた。

絶体絶命の光景に見えたが、神聖なローブを纏い子供のような背丈の魔法使いが詠唱を終えていた。

杖を目の前にかざすと、巨大な炎の魔法陣が描かれた。槍は魔法陣を貫通せずに蒸発した。

ーーさっさと行きなよ、長くは持たないーー

軽装備の少年が仲間達を見捨てられずにその場でたじろいでいた。

しかし、彼を横にいた少女に一喝された。

ーーあなたが行かないで誰が勝てると言うんですか!私達に構わず行ってください!ーー

その言葉に呼応され、少年は後ろにあった階段から上って行った。

映像はここで止まった。

そして、俺の前にはその少年が上った階段があった。

後ろを振り向くと真っ暗な空間になっていた。まるで、進む以外に道がないかのように...........諦めて階段を上ることにした。

階段を上り切ると扉があった。その中からは強大な魔力と、殺気も感じられた。

扉の取っ手に触れると、先ほどと同じように頭により鮮明な映像と声が流れた。

ーー来たか.......勇者ーー

映像に映ったのは風呂場に現れた初代魔王とまるっきり同じ姿だった。

と言うことは、この人間は初代勇者ということになるんだがその勇者の姿が俺だった。

不思議な夢を見るもんだ。

ーーああ、来たよ魔王...........ーー
ーーさて......僕はこの世界を壊す予定だ、そこで確認のために問う、何をしに来たんだい?ーー
ーー.........とりあえず、戦ってみるーー

剣を抜いて魔王へと剣先を向けた。

玉座に座っていた魔王は立ち上がり、魔力を帯びた右手を勇者に向けた。

そして、数分......二人の鼓動の音が聞こえそうなほどの静寂が訪れた。

先に動いたのは勇者だった。間合いは一気に狭まれ、剣が魔王の喉元に迫った。

だが、刃が触れるところまで近づくとすり抜けた、いや抉られた。

刃の途中は抉られ、剣先と柄の部分を分けられた。

武器を失い、一旦距離をとると今度は魔王がしかけてきた。

魔力を帯びた手で勇者の腕を掴んだ。掴まれた部分から焼けるような痛みが走った。

咄嗟に蹴りを放つが掴んでいた手を離して後ろに飛びのいた。

掴まれていた腕は手のひらの跡が黒く残っていた。

余裕そうな顔で魔王は聞いた。

ーー君に一つ聞きたい、僕と戦って勝ったとしよう。その後君は僕をどうするんだ?ーー
ーーそれは............今から考えるーー
ーーそうか、なら遊戯を続けようーー

手を向け魔力を溜めた。勇者は装備していたマントから鎖で繋がった棒と三日月型の大きな刃を取り出した。

カチャカチャと組み立て出来上がったのは大きな鎌、それだけでは終わらず魔力を大鎌に溜めた。

すると、鉄製の大鎌だった物は禍々しく輝き、死神の鎌と化した。

ーー勇者が大鎌を使うか、しかも死神の鎌ーー
ーー俺には合ってるよーー
ーー死神にでもなるのかい?ーー
ーーもう........なってるよーー

鎌を両手で持ち、横薙ぎに一閃をはなった。

切り裂かれた空間は大きなスキマとなった。そこから無数の黒い腕が伸びていた。

黒い腕は魔王に向かって伸びていったが、近づいた腕から次々に崩れ去っていく。

しかし、徐々に腕の量が増えていた。

勇者は追い打ちをかけるように次々と空間を切り裂いていく。

新しくできていくスキマからさらに黒い腕が伸びている。

消しても消しても止まらない黒腕の猛攻に苛立ちを覚え、両腕に魔力を溜め空間のスキマに接近した。

黒腕の勢いは魔王が近づくほどに増すが、それも意味がなく消えていく。

そして、触れれるところまで近づくとスキマを掴み力づくで閉じてしまった。

ーーそんな方法で閉めるやつ初めてみたぞーー
ーーこっちの方が手っ取り早いだろう?さて、そろそろ君の答えを聞きたい......君は僕をどうしたい?ー

俺は部屋の端っこの方で二人の戦いを見ていた。魔王の問いかけに勇者は押し黙った。まあ、答えは決まってるだろう。

勇者として魔王を倒す、これが使命だ。勇者として生まれた者の.......な.......だから、魔王を殺すだろう。

しかし、俺が想像していた言葉とは全く違うことを口にした。

ーー俺は......お前と友達になりたいーー
ーー.......君は言っている意味がわかっているのか?魔族と人間が友になど............ーー
ーーなれないなんて、誰が決めた?ーー

なぜだろう、俺はこの勇者が言う言葉がわかる気がした。いや、勇者がこれから喋ろうとする言葉がわかる。

まるで、自分自身が口にしたことがあるかのように............

たんたんと話を続ける勇者の顔をみて、俺は驚いた。

泣いていたのだ、自分と魔王が戦わなければいけない運命に......同じく生きるものを殺めることを......

ーーなぜ泣いているんだ?ーー
ーー俺と同じ人間を.......殺すことが悲しいんだーー

その言葉で一瞬驚いたが、魔王はおかしそうに笑った。

ーー僕を人間と言うのかい?ーー

魔族であり、その王であるこの僕を、と......

ーー俺とお前は同じだ、同じくーーーに創られた存在だーー
ーー君は......何を知っているんだ?ーー
ーー全てだ、俺の話を聞いてくれるか?ーー
ーー.........いいよ、聞いてあげるーー

勇者が喋ろうと口を開いたところで声が途絶え、目の前にいた二人も消えた。

周りを見渡すと部屋に動くものはいなかった。

部屋を出ようと入り口に進む、扉に手をかけると背中に冷たい殺気を感じた。

すぐさま振り向くとそこにいたのは初代勇者だった。

「殺気すら感じるとかリアルな夢だな.........」
ーー目を覚ませよ、そして思い出せお前の役目を.........ーー

そう呟き、初代勇者は消えた。

目の前が徐々に暗くなり、視界が完全にブラックアウトした。





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