《異世界の主人公共へ》

怠惰のあるま

《大鬼と星ピエロ》


上への階段を上るとパンドラの目の映ったのはこの階を守っていただろう看守達が床に転がっていた。全員重傷のようだが死んでる者は誰一人いない。
ところどころに破壊跡があり、現在も破壊音が鳴り響く。今も誰かが暴れているようだ。
何個か檻が破壊されているのを見る限り、他の魔王軍のメンバーが脱走したと思われる。破壊音がする方へパンドラは近づくとそこにいたのは狂気的な笑みを浮かべ看守を嬲るムーとそれを止めるカイネがいた。
状況を察するにどうにか檻から脱走した二人は看守に見つかり止むを得ず戦闘。そして、情報を得るために拷問していたが味を占めたムーが看守を嬲り始めたのだろう。
土の四天王がいないとブレーキが効かないムーはカイネの制止を聞かず嬲り続けていた。

「ムーさん! カイネお姉ちゃん!」
「パンドラ! 無事でよかった! っと今はムーを止めるの手伝ってくれ!!」
「うひ...うひひひ...!! 次はどこを痛めつけましょうか...?」
「む、ムーさん! そんなことしてないでお兄ちゃんのところに帰ろう!!」

ピクッと耳が動くとゆっくりとパンドラの方へ視線を向けた。そのヌメヌメと纏わりつくような視線にパンドラは寒気を感じた。

「ああ...リーダーに会わなければ...愛しのリーダー...」

この時のパンドラの心境はただただ後悔をしていたそうだ。
自分たちの行いで生まれたヤンデレのムーさんがこれほどまでに恐ろしい存在になるとは思わなかったようだ。
パンドラは生暖かい目でムーさんを見つめた。そしてこれ以上、深く考えるのをやめたのであった。






△▼△






時同じくして、城の外。ガルフ団 団長バッグルが城の入り口で胡座をかいて踏ん反り返っていた。少し機嫌が悪そうだ。
そんな悪いタイミングに来てしまったのはリリーであった。しかし、全身に怪我を負い血だらけの重傷。足を引きずりながら必死に何かから逃げるようにバッグルの元へ戻ってきたのだ。

「だ、団長...!! 助けて...!」
「リリー? どうしたその傷は」
「ピ、ピエロ...ピエロのぐんぜーーーーーぷぎゅっ!」

状況を言い終える前にリリーは後ろから頭を潰された。額に星のマークを付けたピエロによって。

「もう! 逃げちゃ〜ダ☆メ」
「貴様は...いや...さっきのピエロとは違う奴か...!!」
「おや〜ん? もしかして〜僕のお仲間を倒したのって〜き☆み☆か」

少しウザい喋り方をする星マークのピエロは笑っていた。だが、バッグルはピエロの言葉は気にも留めない。
ゆっくりと頭を潰されたリリーの死体を優しく抱き上げた。その行為に星マークのピエロは首を傾げる。

「なぁにしてるのん?」
「痛かっただろう...すまないリリー...守ってやれなくて...」
「聞いてるの〜? 無視すると〜僕おこだよ〜!」
「おこ...だと...?」

ピエロの言葉にバッグルの頭から何かが切れる音が聞こえた。
ゆっくりとリリーの死体を下ろすとバッグルはピエロの頭を掴み地面に叩きつけた。グチャッ! という音を響かせ辺りに血を撒き散らした。
ピクピクと頭がない体は痙攣する。完全に死んでるように見えるピエロの体に追い打ちをかけるように拳を振り下ろした。何度も何度も振り下ろし、その度にグチャッグチャッ!と肉を潰す音が鳴った。
数分続いて振り下ろすのをやめたバッグルは拳についた血を拭い、殴り潰した肉塊を見つめ言葉を投げた。

「おい...何をふざけている...? 貴様らがこんな事では死なんことはわかっている...!!」
「ありゃありゃ...づまらないびとだな...?」

鼻声で肉塊は言葉を発すると嫌な音を立て体の再生が始まった。
その光景はあまり見ていて気持ちがいいものではなかった。

「もう......責任とってよね!!」
「黙れ...再生できぬほど殴り潰すぞ...!」
「お〜こ☆わ☆い! けど、僕よりも強いあの子を倒しちゃった君に僕がかなうわけがないかぁ。なので、ここは引かせて貰うよ〜ん!」
「逃すと思うか...?」

怒りが頂点に達したバッグルは全身の筋肉を震わせ星ピエロを全力で叩き潰そうと襲いかかる。
だが、星ピエロはそれを意に介さず目の前に巨大な壁を作り出した。しかもそれは死体によって作られた肉壁だった。

「なっ...!?」
「この国の住人の半数ぐらいかな? 肉壁として使わせてもらったよ〜ん!」
「き、貴様ぁぁぁぁぁ!!!」

肉壁を避け星ピエロに殴りかかるバッグル。それを簡単に避けた星ピエロは指を鳴らした。すると、肉壁として固められているはずの国民達が蠢き出した。
それぞれの顔らしき部分からは悲痛の声が洩れ、変に折れ曲がった腕はバッグルを誘うように動く。
肉壁はまるで生きているかのようにバッグルは思った。
その考えを見据えた星ピエロは不気味に可笑しく嘲笑する。

「くひハハハハハ!! 君はこう思ってるね! 肉壁が生きてるようだ。うんその通り!! この肉壁に使った国民達はい☆き☆て☆ま☆す!」

バッグルは絶句した。そして、憤慨する。目の前で嘲笑うかのように立っている星ピエロに。人を人と思わないかのように、まるで道具のような仕打ちをしたことに。
その怒りが彼にある変化をもたらした。
肌の色が指先から徐々に濁った赤色に染まり、全身へと広がる。髪の色も真っ赤な炎のように燃える色に変色する。そして、額には二本の突起物が出現した。その姿はまるで大鬼オーガであった。

「お、おやおやん? 何事かな?」
「きさまはぁぁぁぁ....!! 死にたいと懇願する程の恐怖をォォぉぉ! 与えてヤルゥゥゥゥああ!!」

耳を劈くような雄叫びを上げると肉壁は恐怖したかのように震え出し、ボロボロと崩れ落ちた。壁の向こうにいた星ピエロは驚愕していた。
深紅に染まった双眸が彼女を捉えると目にも留まらぬ速さで彼女の心臓を貫いた。
異常の強さの変化に星ピエロは動揺するが自身は死なないという過信から笑っていた。その笑みはすぐ消えることも知らずに。

「僕は不死身だって言ったよね?」
「ああ...だが、死なぬからと言って恐怖は消えぬよなぁぁぁ?」

貫いた手とは反対の手で星ピエロの頭を鷲掴み胴体から引きちぎった。血飛沫が飛び散りバッグルは返り血を浴びるが意に介さず星ピエロの頭を何度も、何度も、何度も殴りつけた。
殴る箇所が無くなるほど潰れて肉塊と化した頭を捨てると回復するのを待つかのように腕を組む。
その行為に何の意味があるかを星ピエロは理解できず、回復が終わった頭で静かに笑おうとした。だが、それは叶わず。さっきと同じ様に肉塊になるまで殴りつけられ、また捨てられ回復を待つ。
それが十回を超えたあたりで星ピエロがある疑問を覚えると共に何かが湧き上がった。

この残虐な行為はいつまで続く?
この痛みはいつまで続く?
この苦しみはいつまで続く?

また頭が回復を完了すると今度は殴られず胴体と接合するまでバッグルは待った。

「ふ...ふふふ...! な、何度やってもおな...じだよ?」
「そうは見えんがなぁぁ? どうして体が震えてるんだぁぁぁ?」

彼の言う通り星ピエロはカチカチと歯が音を立てる程に体を震わせていた。その震えを止めるかの様に両腕で自身の体を押さえつける。それでもなお震えは止まらず、むしろ強くなった。
感じたことのない何かが彼女の中で強くなっていく。
目の前の男を見るだけでその何かが強まっていく。
ブルブルと体の震えは止まらない。

「さて...そろそろ頭を潰すのは飽きてきたなぁぁ? 次は四肢を引き裂き続けてみようか...?」

そう言って一歩近づくと星ピエロは一歩後ろに下がった。その行為にバッグルはニンマリと不気味な笑みを浮かべる。

「どうして後ろに下がるんだぁぁ?」
「こ、これは...僕だってわからないよ!!」
「あのふざけた態度はどうした? ほらピエロのように躍り狂うがいい!!」

狂気の笑みを浮かべて星ピエロに一気に近づくと両腕を掴んで引き千切った。すぐに再生が始まるが先程よりも再生速度が下がっていた。彼女でさえも気づいていない異変だが、理由は単純である。体が再生を拒んでいるのだ。心の底からバッグルの残虐な行為に恐怖し、もう痛みを感じたくないと体が言っていた。
本人もそれに気付き始めたが体は既にこの場から逃げ出そうと走り出していた。
まあ、逃げるという選択肢が選べるわけもないが。

「どぉこにぃぃぃぃ...いくんだぁぁぁぁ...!!!」

この狂気の大鬼からは決して逃げられるわけがないからだ。

「い、嫌だ! もう嫌だ!! もう痛いのヤダァぁぁぁ!!!」

泣き叫ぶ声が響き渡るが彼にはもう同情というものはない。
寧ろそれが嗜虐心を昂らせるだけだった。

「さあ...もっと踊ってみせるがいい...」

その後、バッグルによる残虐な行為は数十分にも及びその間も星ピエロの苦痛に悶える声が響き渡っていた。
彼女は何度も何度も殺されもう再生したくないと考える意思とは裏腹に肉体は無情にも再生する。そして、繰り返される虐殺に耐えれなくなった星ピエロは悲鳴に近い叫びを上げた。

「もう嫌だ...!! 殺して...!! 死にたい死にたい!!」
「どんなに叫ぼうとも貴様は死ねないだろうぅ?」

不死身の星ピエロを嘲笑うようにバッグルは彼女を見下す。
だが、ここで想定外のことが起こった。星ピエロの足先が崩れていっているのだ。まるで彼女の願いに応えるかのように。

「あ、ああ...わかる...わかるよ...僕は死ぬんだね...」
「おい...? どうゆうことだぁぁ? 貴様らは死なないのではないのかぁぁ!?」
「ふ、ふふ...僕にもよく分からないけど...この不死身の体は呪いのようなものさ。けど、どうやら死にたいと思えば死んでしまうような脆い呪いだったみたいだね......」

そう言いか細く笑う彼女にバッグルは自分の中に生まれた疑問をぶつけた。

「貴様は言ったな。マッドは貴様らと同じだと。なら、なぜあいつは死にたいと思っても死ねないんだ!?」
「......この呪いは《運命の呪い》。その者の人生に纏わりつくように与えられた力。僕達は人工的にこの呪いを掛けられたから不完全だったのかもしれない...けど彼の呪いは生まれ持ったもの。きっと彼の呪いはその運命を終えるまで消えないんだと僕は思う...」
「なんだ...そのクソみたいな呪いは...?」

自分が思っていた以上に彼女らの不死身の体は恐ろしいものだったことにバッグルは絶句した。しかも、土の四天王とは違い人工的な呪い。すなわち誰かに呪いを掛けられたということ。そのことに彼は腸が煮えくり返りそうだった。
フツフツと怒りをこみ上げるバッグルに気づいたのか星ピエロは小さく笑う。

「そうだね...僕もそう思う。いや、今の戦闘で何度も死んだ僕だからわかる...こんなにも死ねないことが怖いものだったなんて...土の四天王君はどれだけ辛い年月を過ごしたんだろう......僕には想像もできない恐怖だろうなぁ...」

どこか悲しそうに空を見上げる星ピエロにバッグルはあっけらかんとした態度で答えた。

「どうだろうな。あいつはそんな素振りを一切見せぬから正直、恐怖というものがあいつの中にあるかすらわからん」
「ははは...何それ...さぁ時間だ...僕は久しぶりに眠るよ...」
「そうか。いい夢を見ろよ...」
「うん......おや...す.....み...」

星ピエロの体は砂のように朽ち果て、残ったのは彼女が着けていた星マークの付いたピエロの仮面と謎の黒い何か。
その黒い何かをバッグルは拾い上げようと手を近づけると小さい破裂音と共に黒い何かは砕け散った。それが一体なんだったのか知る術はないが、その黒い何かが後に彼らの旅路に大きく関わることは知る余地もない。



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