《異世界の主人公共へ》

怠惰のあるま

《ピエロ》


パンドラは自分の目の前で起きた現実に驚いていた。
初代魔王と名乗る女性...いや男の子の言う通りに詠唱を行った結果、凄まじい爆発が起こったのだ。自分の入っていた牢屋だけでなく、他の牢屋も巻き込んで破壊したのだ。

「ほら、何ぼーっとしてるの?」
「わ、私がこれを...?」
「僕の生まれ変わりなんだ。これくらいできて当然さ」

胸を張って偉そうにしているが、パンドラは全然見ておらず自分の中に入った知識を思い返していた。
その中に一つ気になる記憶も混じっていた。

「これって....!」
「どうかしたかい?」
「記憶の中にお兄ちゃんがいた!!」
「おにい...?ああ、あいつか...」

パンドラは自分の中にある初代魔王の記憶を確認し、ある結果に辿り着いた。

「お兄ちゃんが不老不死になったのはあなたのせいじゃないの!?」

初代魔王は首をかしげる。どうやら、身に覚えがないようだ。そのことに初代魔王は思い出したように納得した。

「勘違いしてるようだけど、あいつが不老不死なのは僕と会う前からだよ」
「え...?」
「まあ...記憶が曖昧なのは僕の責任でもあるけど不老不死なのはあいつの運命で決められた力だ」
「運命に...決められた力...」

運命という言葉にさらに疑問を抱かせた。初代魔王が言うあたり、土の四天王にはある運命があった。それを果たせぬままずっと生きていることとなる。
なら、彼の運命とは何か。何のために与えられた不老不死なのか。ただ、ただ、パンドラの中で謎は深まっていくばかりだ。
それでも今は立ち止まっている場合ではない。自分の他に捕まってしまった魔王軍のメンバーを助けなければいけない。ひとまずパンドラは土の四天王の事を頭の隅に置いた。
目の前の壊れかけた螺旋階段を走って上っていく。なぜか止まることのない胸騒ぎを紛らわすためにーーーーーーーーーー




△▼△




その頃のバッグルはと言うとーーーー

今か今かとマッドからの合図を城門の前にて待ち侘びていた。だが、ずっとそこに立ち尽くしていたわけではない。足元には無謀にも彼に挑んだ兵士たちが何十人と転がっていた。
ほとんどのものが鎧に拳の跡が残っており、全員が鎧を砕かれるかヒビを入れられていた。
全くもって手加減を知らない男である。
そして、彼の前にまた一人無謀にも現れた者がいた。だが、鎧は着ておらず兵士には見えないが剣を腰にさし不気味にもピエロの仮面をつけていた。

「おやおやぁ...?兵士達を一掃するとは〜あなたつヨォいねぇ?」
「誰だ...?気味の悪い仮面をつけおって」
「僕チンは...まあ《ピエロ》とでも名乗っておきましょうかねぇ?フヒヒヒ...!」

ピエロと名乗る男にただならぬモノを感じたバッグルは組んでいた腕を解き、腰に差している愛刀に手を添える。
構えるバッグルに焦った様子で手を横にブンブンと振った。

「おぉおっとっと!物騒なモノに触れないでくださいな!僕チンはお話しをしに来ただけですよん?」
「話だと?」
「Yes!あなたは異法を知っていますよねぇ?」
「ああ、知っているが?それがどうしーーーーっ!?」

どこからか取り出したかわからない赤く脈動する刀をピエロは何もない空間から出現させた。
その刀は直に戦い、実際に見たからわかる。マッドが使っていた異法の秘術によって作られる物だ。そして、それは秘術の成れの果てに生まれた産物であることも...

「これなぁ〜んだぁ〜?」

厭らしく見せびらかすピエロにバッグルの拳がギリギリと音を立てる。

「キサマァァァァァ!!それをぉどこでぇ手ぇに入れぇたぁぁぁ!?」
「さぁ、どこでしょう?」
「答える気がないのなら...叩きのめした後にじっくり聞こうではないか...!」

ミチミチとバッグルの筋肉が謎の音を発す。正直、聞いていて不快だ。怒りに満ちた表情に不気味な笑みが浮かんだ。

「殺してしまうかもしれんが...許せよ?」

殴りかかるバッグルにピエロはやれやれと両手を上げて首を横に振った。
ギィィ...ン!
バッグルの拳とピエロの刀がぶつかり合い、火花が散る。鉄の硬度を持つバッグルの拳はそこらの武器では簡単にへし折れてしまう。だが流石、異法の秘術と言える。そこらの武器とは比べ物にならない武器の質であった。

「ぐぬぅ...!!」
「ワァオ!拳で武器を止めるなんてぇ〜!僕チンびっくりぃ〜!」
「その刀は返してもらうぞ!!」
「フヒヒヒ!力尽くで...奪ってミーよ!!」

踊るような動きで攻撃を避けバッグルを翻弄し、隙をついて攻撃を仕掛けるピエロの戦い方に怒りが込み上がる。だが、幸か不幸かバッグルは極めて冷静だった。憤怒に呑み込まれているとは思えないほどに頭が冴え渡っていた。
この状況に本人でさえ驚いているが今の状況を楽しむことにした。
バッグルを嘲笑うように踊るその姿。まさに道化師。だが、彼は気づかない。翻弄していると思っている自分がじっくりと観察されていることに.......

「フヒヒヒ!と・ど・メ!」

目の前にいたピエロは突然視界から失せ、後ろから首元を狙うように襲いかかった。
それでもバッグルは動かない。動く必要がないと確信する理由に気づいたからだ。

「アヒャヒャヒャヒャ...ひゃ......?あ.......れ...?」

異法の秘術と言えど彼の拳で折れないだけで筋肉には傷一つ付けることはできなかった。

「う、うっそ〜ん...!」
「俺に傷を付けたければ......最強生物と呼ばれるようになるんだなぁぁ!!」

渾身の右ストレートがピエロの右頬に入る。スローモーションで見れば彼の顔はかなり波打っていることだろう。まあ、波打つ前に頭が破裂したが。
パァァァン!と血飛沫を上げてピエロの顔は破裂し、頭が無くなった胴体は噴水のように血を吹き上げ血が止まるとともに地面に倒れ伏した。

「ふん。準備運動にもならん...」

死体が握っている異法の秘術で生まれた刀を拾いバッグルは何か小さく呟くと刀は赤黒く輝いた。それが何を意味するかはわからない。ただバッグルには伝わったようだった。
悲しみを感じる目を向け、彼は刀の刃を両手で握りそのまま折った。刀は血を吹き上げながら小さくなっていく。収縮が収まると刀は穴の空いた心臓となった。
バッグルはそれを拾おうとするが触れたところから灰となって崩れ、風に舞った。謂れのない怒りが込み上がったが何処からか聞こえる声によってそれは消えた。

『あり...がと....』

声が聞こえ、気配を感じたバッグルは辺りを見渡すが誰もいない。だが、見えないだけで聞こえた。そして、何かがいる気がした。

『壊してくれて....本当にありがとう...けど...ごめんね探してる人じゃなくて...』
「気にするな。どのみち最初っから折るつもりだった」
『素直じゃないね...そろそろ時間...ありがとう盗賊のお兄....さん....』

気配と共に声は消えた。
異法の秘術の被験者だったのか、それとも戦いで生まれた産物だったのか、バッグルには知る由もないが彼女の冥福を祈るばかりだ。
ふと、バッグルはピエロの死体に視線を移した。別に何かを感じたわけではない。ただ、視線を向け目に入った光景はピエロの死体から何かが飛び出しウネウネと何かを探していた。

「なんだ...!?」

そして、目的の物が見つかったのか。ウネウネと動く触手は弾け飛んだ頭の残骸を掻き集め吸収し何事もなかったようにピエロは立ち上がった。
だが、流石に壊れた仮面は復活せず素顔が見えた。光の灯っていない目。右頬まで裂けた口。でっかく残る切り傷。何をされればここまで傷つくのだろうか。
素顔が見られたことに気付いたピエロは急いで予備の仮面をつけた。

「ふぅ...ごめんね〜!気持ち悪かったでしょ〜う?」
「いや、慣れてる。俺の仲間にも似たような不死身がいるからな」

聞きたかった返答ではなかったようでピエロは頭をかき困った顔をする。

「僕チン顔のこと聞いたつもりなんだけど〜?まあいいや。その不死身くんって〜土の四天王でしょ〜?僕チンなんと!彼の正体を知ってるんだよ!」
「あらそうか。すごいな」
「なっ!?よ、予想外な反応だ〜?」
「あいつが何者だろうと俺はあいつについて行くと決めてるんだ。故に正体など興味がない」

ピエロは口を尖らせブーイングを飛ばす。
自分の期待していた反応でなく、面白くないようだ。まあ、そんなことはバッグルにとってどうでもいいことだが、ただ一つ腑に落ちない点がバッグルの中にあった。

「お前はなぜ不死身なんだ?」
「お?僕チンに興味を持ってくれた?そ〜んな君に教えてあっげよ〜う!っと言いたいところだけど......ごっめ〜ん?僕チン帰る時間なっちゃった!」
「なんだと?」
「まあ、ヒントは上げよう!僕チン達と土の四天王は同じ!それでは今日のショーは終わりです。それではまたじっかいぃ〜!!」

ボフン!
白い煙を出して姿をくらませると目の前からピエロは消えた。

「僕チン....達だと...?」

ピエロのヒントは謎を深めるばかりだった。

「《異世界の主人公共へ》」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く