《異世界の主人公共へ》

怠惰のあるま

《憤怒》

さて、着きましたよ。
え?早すぎるって?実はですね。エクリプスが移動呪文なる物を覚えていたんですよ。
俺はそんな呪文初めて知った。
面白いから唱えてもらうと一瞬で【ダート.ルート】付近の草原に飛んだ。
いや、ワープと言っても過言ではないな。
その呪文について教わると、ある大賢者が創ったらしい。
.....やるなそいつ。
ついでに呪文書を見せてもらった。
その名の通り呪文のことが事細かく書かれている。魔法使いや賢者などの呪文の素質がある者はこの本を読めば会得が可能。
便利。
かく言う俺も素質があるようで一発会得。
素質がない方は魔道石使ってね。
さて、のんびり解説もお開きにして入国しますか。

「言い忘れていたが、この国では入国審査がある。まあ、人間以外に厳しいだけだ。難なく通れるはずさ」

エクリプスの言う通り、竜人ドラゴニュートが混じっていたみたいで追い払われてた。
なんという人種差別。いや種族差別。
だが、種族以外に関する検査は緩いというかほぼ無いみたいだ。
俺たちの順番はすぐに回ってきた。
が、なんでか俺たちの時は色々と質問されたよ。
運が悪いのかな?
まあいいや。そんなに難しい内容ではないし、すぐに答えおわった。
さぁて、行きますか。

「まて」

あれ?なんで?
質問終わりましたよね?
それに種族に関しても大丈夫ですよ?どうみても人間だろ?腐ってるけどーー精神的にーー
何食わぬ顔で振り向くと検問の兵士が片手に何かを持っている。
なんすかこれ?

「お前さん初めての入国だろう?」
「え?なんでわかるの?」
「俺は物覚えが良すぎてね。ここを通る人間の顔はだいたいわかる。お前さんの顔は見たことなかったんでね」

いや、物覚えが良すぎるって....そんなレベルじゃねえよ?
もはや才能のレベルだよ?

「なぁんて言うのは冗談だ。ほら、入国許可証だ。これを持っていなかったからよ。次からこれを見せれば特になにも言われない」

ああ、だからみんな特に止められてなかったのね。

「ん?なんだ。グルーじゃないか」
「おお!?おまえがなんでいんだよバッグル!?」
「いいだろうが俺がどこにいようと。それともおまえの許可がいるのか?」
「むしろ許可をもらって欲しいぐらいだ!!」

なんだ?知り合いか?
バッグルも義賊だから名は知れてると思うが、この感じは友達っぽい。
けど、あんまり仲良くなさそう。

「それにエクリプスもなんでこんなのといるんだ!!」
「俺はこいつの道案内をしただけ。この義賊はたまたま一緒にいたんだ」
「あんたも大変だな」

なんか同情された。
まあ、正直大変だよ。魔王軍の方々はみんながみんな個性的でね。
精神的に....くるものあるよ....

「俺たちは急いでるんだ。早く通せ」
「ったく...今回は見逃す。だが、次来たら追い返すからな」
「ふん。やれるもんならな」

なんだかんだで仲がいいのかな?深くは追求しないけどさ。

「あんたとは変な縁ができちまったな。俺はグルー.Tホーン」
「俺か?名前はなーーーグヘッ!?」

話の途中にバッグルに頭を殴られた。
何だよ急に痛いじゃないか。
半ばキレ気味に言った。

「なんでもいいから偽名を使え」

....おお!その手があったか!
今まで偽名を使おうという案がなぜ出て来なかった。さすがバッグル頼りになるネェ。

「俺はマッドだ」
「よしマッド。これからバッグルに悩まされる子があったら俺に言え。いい弱音を教えてやる」
「おい!変なこと吹き込むんじゃねえ!!」
「まあまあ...それじゃあグルーまたな」
「ああ、頑張れよ!」

そう言ってグルーはまた検査の仕事へと戻った。面白い奴だな。
俺たちも国の中へと進む。にしても......意外だな。

「お前ら二人が顔見知りとは」
「俺が勇者となる前からの仲で...まあ所謂腐れ縁だ」
「ほんと、勇者様が魔王軍からの宣戦布告の材料に使われるとは世も末だ」
「黙れ...」

腐れ縁と言っても仲は悪いようだ。
別にこいつらの関係にどうこう言うつもりはないが、当分は一緒にいるわけなんだから仲良くしてほしい。
火花を散らす二人をなんとか宥めーー半分脅しーー国の中心街に向かった。
中心街には武器や防具が取り揃ったお店や、マジックアイテムやちょっとした薬品が販売するお店などが所狭しとあった。
正直、ここまでお店いる?

「この店の多さに驚いてるな」
「いや...ここまでいるか?」
「それは一理ある。だが、ここの商人達も必死なんだよ」
「は?どうゆうーーーー」

理由を聞こうとしたが俺はあることに気づき、言葉を失った。
よく見れば商人達は半分以上が痩せ細り、目に光が無い。
人だかりができるのもごく少数のお店だけだ。
何この格差社会の見本みたいな光景。
俺は近くにあるお店を覗いてみた。
売っているのは飲めば切り傷程度の小さな傷を一瞬で治す《回復ポーション【丙】》
毒や麻痺を治す《状態回復ポーション【丙】》
という品質が低いマジックポーションが二種類と武器が少々。
しかし、それでも品質が悪くともマジックポーションは高級な物のはずだ。
どうゆうことだ?

「お兄ちゃん...買ってくれるの?」

店員をよく見るとまだ幼い少女だった。この店はこんな幼い子が営んでるのか?

「なあ嬢ちゃん。親はいるのかい?」
「お父とお母はお城でマジックポーションを作るために連れてかれたの」
「連れてかれた?」

他のお店を覗いてみたがなるほど...必死って言うのはそうゆうことか。
周りの売れていないお店の店員は全員この少女のように親を城に連れてかれた子供達ってわけか。
エクリプスを見ると申し訳なさそうに俯いていた。心なしか拳が震えている。

「腐ってる......!」

バッグルも同様に拳を震わせ怒っていた。

「故郷に帰ってみれば腐りきってやがる」
「俺にもっと力があれば......」
「......お前のせいでは無いだろう?」

どうやら、この国は闇が深そうだ。
この光景を見ていると、何か沸々と体の奥で湧き上がるものがある。このマグマみたいに煮え滾る感覚はなんだ?
感じたことは何度もあった気がする。
一体なんだこれは?
一人、謎の感覚に悩まされていると城に近いお店から怒声が聞こえた。
行ってみると少年が一人、三人の兵士に囲まれ、その中の一人に胸ぐらを掴まれていた。

「おぉいクソガキィ?今、なんて言った?」
「う、うるさい!お前らみたいなクズにやるお金は無いって言ったんだ!!」
「あぁん?クズだと?ふざけるなよクソガキがぁぁ!!」

胸ぐらを掴んでいた兵士は少年を地面に叩きつけた。
まだ幼い少年は体も丈夫ではなかった。ましてや貧困なためかガリガリに痩せ細っている。
少年は呻き声を上げ頭から出る血を手で押さえていた。
さらに他の二人に腹や脚を蹴られ、ボロボロになっていく。

「ったく...誰のおかげでお前ら生活できてると思ってるんだ?それもこれも勇者王様と俺達兵士のおかげだろうが!」
「そうだぞ貴様ら!俺たちのおかげで魔物は愚かこの間宣戦布告をした魔王軍が攻めてこないのも俺たちのおかげだぞ!!」

なんだろう...抑えきれないな。この感覚。
少しでも気を緩めると奥底から溢れてしまいそうだ。
俺の異変に気付いたのか、エクリプスは不思議そうに質問をした。

「マッド?どうした?」
「おい...エクリプス...あいつらの言ってることは正しいか?」
「お爺様のおかげで魔物が寄り付かないのはわかるがあいつら一般兵は特に何も」
「そうか......」

ゆらゆらと気が付けば俺の足は進んでいた。少年が営んでいたお店を漁っていた兵士が喜びの声を上げた。
手には頑張ってコツコツ貯めたであろうお金の袋が握られていた。

「おい見ろよ!こんなにあったぜ!」
「そ......れは...弟達の...お金だ......返せぇぇ...!」
「おいおい?お前らが生活するには税が必要だぜ?まっ!それでも足りないがな!」

ゲスな笑い声を上げ、その場を立ち去ろうとした。
だが、少年はボロボロになってなお兵士達からお金を取り戻そうとしていた。
力を振り絞り兵士の一人の足首を掴んだ。

「かえ...せぇ......」
「はぁ......きみぃ?そろそろうざいぜ?」
「もうあれだな!反逆罪で死刑だ!」
「そうだな」

チャキ...
腰に下げていた鉄製の剣を少年の首に突きつけた。
ゆっくりと振り上げ少年の真上に高々と掲げられた。

「バイバァイ...クソガキィィィ!!」

振り下ろされた剣は綺麗に肉を断ち、断面図を見せ二つに分かれた。
切り離された肉塊はゴトンと重量を感じさせ地面に転がった。
ポタポタと切り口から血が垂れる。
数秒で血の水たまりとなった。周りの野次馬達は目の前の光景に息を飲む。
しかし、それは少年が死んだことではない。
いや、少年は死んではいない。
切られたのは......俺だ。
少年を掴んで代わりに俺の首を差し出した。
え?死ねるかと思ってさ。

「まあ...死ぬわけないか。この前切れたばっかだし」
「な、生首が喋ったぁ!?」
「いやあ...いい剣さばきだねぇ!綺麗に体から分離できたよ!死んでないけど!」

血管が体から伸び、頭を拾って結合完了。
今も驚いている目の前の兵士に俺はニコニコと笑顔を向ける。
一歩近づくと剣を抜き、俺に向けた。まあ、警戒するわな。

「き、貴様!何者だ!!」
「俺か?俺はお前達のおかげで攻めてこないはずの魔王軍が一人。土の四天王だ!!」
「ま、魔王軍がなぜここに!?」
「ん〜...本来は俺の仲間を取り返して穏便に帰るはずだった」

だが、この湧き上がった停めることができない火山の噴火のような感情を収めるためにはやっぱりやるしかないよな。
バッグルに聞こうと思ったが同じ気持ちのようだ。
許可も出た。宣戦布告もしてる。

「てめえらと勇者王をぶちのめして俺がこの国を治めることにした」

ああ...よくわかった。この抑えることができない黒い感覚の正体が。
俺は数十年ぶりに《憤怒》と言う感情を思い出した。

「さあ...宣戦布告だ。人間共!!」



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