《異世界の主人公共へ》

怠惰のあるま

《最強生物vs戦闘狂》其の参

心が喜びで溢れた四天王の顔は満面の笑みーーーとはとてもじゃないが言えないほどに狂気の笑みを浮かべていた。
そして、なにを思ったのか。また骨を異常に鳴らし三眼六手から元の人間の姿に戻っていた。

「何故元に戻る...あのままなら余裕で俺を殺せるだろ?」
「楽にお前を倒すことができる目を潰された、そうなると時間がかかるだろ?」

めんどくさいと言わんばかりに両手を上げてため息をした。
その行動と言動に戦闘狂は顔をしかめた。
それに気づいた四天王はまるで宥めるように言った。

「怒るなって、別にお前と戦いたくないって意味じゃない」
「じゃあ、なんだと言うんだ?」

今にもブチ切れそうな彼はギリギリと音が聞こえるほど歯ぎしりをする。
それが可笑しくて笑ったのか、違う理由なのか、四天王はほくそ笑んでこう言った。

「さっきは本気を出すと言ったが............ありゃ嘘だ」
「なに?」
「ここからが本気の本気だ」

何を言っているんだこいつ?とバッグルはそう言いたげだ。
しかしそれは、四天王の異様な光景によって失った。
彼は自分の心臓がある左胸に手を突き刺した。
辺りにグチャリ......グチャリ......と生々しく何かをかき混ぜる音が響く。
その動きを意に介さないまま、彼は続けるように喋りはじめた。

「俺ってさ......ある程度の武器、戦術、その他諸々の戦いは基本的にできるんだけど、どれも自分に合うものがなくって......」
「......なにが言いたい?」
「つまりだ......さっきの変身だって俺にはしっくりした戦い方じゃないってこと、やっぱり俺はこの武器が一番合ってる」

自分の胸に突き刺さっていた手をゆっくりと繊細な物でも引っ張り出すように動かした。
胸から手が見えると棒のような物を握っていた。それを反対の手も使いゆっくり、ゆっくりと引っ張り出し自分の身長ぐらいの長さまで棒が出てくると両手でガッチリと握り、一気に胸から抜き取った。
胸から取り出したるは、禍々しい輝きを放ち半月を朱い血で染めたかのような湾曲の刃を持つ大鎌である。
だが、この鎌は一言で言うと普通ではない。
金属による光沢を放ち鉄やミスリルでも簡単に斬り裂きそうな硬度のそれは目を凝らせば、小さくゆっくりと脈動していた。バッグルは大鎌自体が生き物なんじゃないかと思った。
刃に眼を象ったレリーフもギョロギョロと動きだしそうだった。

「魔の武器か?」
「いや......これは異法の秘術だ」
「秘術......?異法にそんなものがあるとは」
「誰も知らない使った奴は高確率で死ぬからな」

俺の言葉にバッグルの眉がピクッと動く。

「死ぬ?異法というのは武器化した部分は元に戻せるんじゃないのか?」
「秘術は違う。心臓自体を武器に変える捨て身の秘術だからな」

前も説明したが、異法は身体を武器化させたりすることができる異形の呪文だ。
メリットは武器を持つこともなく使用者の力の度合いで武器化した時の強さが変わる。
例えるなら一の力の男が武器化したのが木の棒、十の力が鉄、百の力がミスリルと言った感じだ。
そして、問題のデメリットが武器化して破損した体は二度と治らない・・・・・・・ことだ。
秘術は心臓を武器化する。
ちょっとでも破損すれば心臓が傷つくこととなる。ましてや、心臓は魔力を循環する重要な場所。
一番魔力が高い箇所と言っても過言ではない。
力の代償が異常にでかいのが秘術の欠点でもある。だが、その死んだ後が一番残酷だ。

「秘術は心臓を武器化し力を得るが代償はそれだけじゃない、もしも秘術を使って死んだら......本当の武器になるんだ」
「なんだと!?」
「しかも武器の強さは死んだ後の方が強い、下衆な輩はその武器を手に入れるためにワザと異法の秘術を使わせ殺してる」

異法は全身兵器で戦うために生まれた呪文ではなく、強力な武器を作り出す過程で生まれた違法の呪文。
故に《異法》だ。
この話を聞いたバッグルは何か納得を得た顔をし、何故だかわからないが怒りを隠しきれておらず殺気となって俺の皮膚に鳥肌を立たせた。

「............礼を言おう四天王よぉぉぉ......」
「は?」
「俺は今まで心の奥で溜め込んでいた怒りがあったぁぁぁ......だがお前が教えてくれた異法の秘術で確信を得た......俺の...怒りを向けるべき......相手がなぁぁぁぁぁ!!」

怒りの雄叫びは大気を震わせた。思わず俺は耳を塞ぐ。
こいつの怒りの原因はわからないが相当の怒りを感じた。
とても意外だったこいつがここまで怒ることがあるとは......まさか................

「バッグル、お前が戦闘狂になった理由は......向ける矛先が定まってなかったからか?」
「......あぁぁあぁぁ!!そうだ!俺はこの怒りを全て戦闘にぶつけて来た、しかしその内に気づいてしまったよ............俺は根っからの戦闘狂だということになぁぁぁああぁ!」

自分の刀《豪炎》を抜き焔を纏った刀身で四天王の胴体を焼き斬る。
辺りに人の焼ける匂いが立ち込め、自分の体につく炎を消し、即座に再生を行う四天王は高らかに笑う。
目の前にいる生粋の戦闘狂を見据えながら言葉を投げかけた。

「ここからがお前も本気ってか?」
「そういうことだ...さぁぁ!最終ラウンドだ!!決着をつけようじゃぁぁぁあぁぁないかぁぁぁぁ!」



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