《異世界の主人公共へ》
《最強生物の目覚め》
砂が舞うほどに風が吹き荒ぶ。
水場はなく草木も生えない枯れた荒野。
地面と一体化するように転がる生き物の骨。
生命の声を感じない死の大地に、たった一箇所で不自然に土が盛り上がっている。
その土は形を作るようにもぞもぞと蠢く。
最初に形成されたのは骨、土で作られたとは思えないほどに頑丈だ。
次に作られる内臓でスカスカの中身を埋めるように形成。
血管が内蔵の血を循環するためにつながり、骨と内蔵を守るように筋肉で硬め、皮膚でコーティングが施される。
人の形が生成された異形の者は大きく呼吸を行い身体中に酸素を回し、ストレッチを始める。
この生き物と呼べるかわからない物体は《腐った死者》と呼ばれる存在で空気中に浮く魔素を吸収し自然発生するか、墓や戦場などで魔族によって生み出される。
魔物の分類では不死者に入る。
自然発生したゾンビは体が腐っており、動きも鈍く戦闘力は皆無に等しい。だが逆に魔族によって造られた場合は特殊でどれだけ体に決裂、爆散する攻撃を受けても生成の元となった物質があれば再生できる。
まあ、共通していることは電気信号を送る脳を潰されるか、浄化をされてしまえば再生するのは不可能となり死滅する。
今、復活したゾンビは元となった物質が土であるが、少々異質な存在のようだ。
やぁやぁみんな! 俺様またまた復活しちゃったぜ!
...魔王が倒されて俺だけが生き返る。
なんで? ねぇ、なんで?
これじゃあ、魔王になれそうな人材を探す担当は今回も俺になる。
めんどくさい。
さてさて...君達もいい加減、俺が誰だか気になるだろう?
え? ならない? またまたぁ冗談きついよぉ! しょうがない説明しよう!
俺は土の四天王。名前? 何回も復活しているうちに忘れた。まあ適当に呼んでくれ。
大昔に不老不死の呪法をかけられ、俺の体は不老不死の体となった。
最初はどうにかしようとしたんだろうけど今の現状を見てわかるとおり諦めてます。
現実逃避とも言える自己紹介をする俺に近づく気配が一つ。
その気配が俺に声をかけた。
「指揮官お久しぶりです。気分がどうですか?」
なんと知り合い。こいつはゾンさん。
名前に関しては知らないです。
名前は教えてくれなかった。
べ、別に信頼されてないわけじゃない!
見た目は中性的な美少年。俺よりは身長が小さい。どっちかっていうと小柄かな?
こいつが俺の側に一番長くいてくれているゾンビだ。
でも、なんでここにいるんだ? というか、よく生きてたな。
まあ、この子も土を元として造ったゾンビだから運良く生き残ったのかな。
さぁてと、質問に答えんとな。気分はどうかだっけ?
「うん。もう死にたい」
俺は絶望するかのように地面に倒れ伏した。
「そうっすよね。数百年も生き死を繰り返せば」
「悪いな.........お前も不死身にさせちまって」
俺は自分の部下に謝るが、当の本人は一切気にしてませんと言う感じであった。
「気にしないでください。指揮官と違って浄化できますから」
先ほども説明したとおりゾンビは不死者と呼ばれる部類に当てはめられ、どの魔族よりも聖なる呪文が効きやすい体質。
つまり、浄化の呪文を唱えられてしまえば一発昇天。
しかし、残念なことに俺の体に掛けられた呪いは不老不死と言ったが、厳密には《死と言う概念が消える》呪い。
なにがおころうと俺の魂は昇天せず、肉体も死ぬことは決してない最悪の呪いだ。
そのあと、ゾンビにされたおかげで再生能力もつき人間離れの力を与えられた。まさに最強です。
一人で自分の体に悲しみを抱いているとゾンさんは話を切り替えた。
「それよりもリーダー」
「おまえさ。俺の名前定まらないよな」
「そうですか? そんなことはどうでもいいです。ほら、服着てください」
生前に俺が着用していた武装ズボンとタンクトップを手渡された、なんでゾンさんが持っているかはさておき俺復活したばっかりだから裸だった。
「なんか肌寒いと思ったら」
「まったく...露出狂リーダーって呼びますよ」
「やめてください」
今日はまず、復活に体力を使いすぎた。ゆっくり休もう。
余談だが、土の中ってヒンヤリしているようで暖かいから寝心地がいいんだよ。知ってた?
△▼△
次の日、朝早く起きた俺は体の痛みをどうにかしております。土の中でも野宿はやっぱり体が痛いものです。それよりも、復活をしたのはいいが俺とゾンさんだけじゃ何もできないな。
毎度のことながら復活したら俺が魔王候補探さないといけないのどうにかならないかな。
無理か。俺しか生き残れないからな!
「そうだ! 街へ行こう!」
「魔王を何故人間から探すのか。いい加減疑問に思ってきました」
「だって人間の方が潜在能力あるだろ?」
「そんな理由なんすか」
実際のところは自分でもわからない。本能的な何かがそうさせてる? と言えばいいのか。とにかく俺自身もわからない。
さて、こんなところで駄弁ってないで移動。ここ何もないしな。
というわけで...生前(?)最後に立ち寄った街へと向かうことにした。
魔法を使って飛んで行くこともできたが、死んだ後の調整アンド運動だ。ゾンビでも健康には気を使うんだよ。
そうそう、数分走っているとゾンさんが途中で襲われました。
助けるよ? 大切な俺の一番の部下ですから、相手は超ゴロツキ感を出している人間共だった。
笑いながらゾンさんを襲おうとしていたので、イラッときた俺は地面に腕を突っ込んだ。
土の中で融合させ、拳を突き上げるイメージを思い浮かべた。
すると、ゴロツキ共の立っていた地面がアッパーをするように拳の形をした土が彼らを殴りあげた。
これは土系呪法の応用と土系ゾンビの特質が成せる技だ。慣れれば結構使えます。
中々遠くに吹き飛んだ彼らをほっといてひた走る。
さらに数時間走り続けて、俺たちは到着した。たった二年の間にここまで発展するとは人間ってすごいな。
「発展してるなぁ」
「そうですね。では、いってらっしゃい」
あれ? 行ってらっしゃいって言った気がするんですが、私の耳が腐っているわけじゃありませんよね? 色んな意味で腐ってはおりますけどね!
「行かないのかよ」
「いけないんだよ」
「What?」
「このなりで街に入れるとお思いで?」
そうでした。ゾンさんは完璧な死体から作られているので肌がとっても青白く、どちらかと言うと魔族よりの見た目だしね。ところどころも腐食してる部分あるし。
俺ちゃん? 呪いかどうか知らんが腐ってない。
その事に不満たっぷりのゾンさん氏は不満を包み隠さずぶちまけてきました。
「腐らないゾンビなんてゾンビじゃない! それにイケメンなのも不公平だ!!」
「俺の顔は下の下だ!」
「自覚がないだと...?」
引くというか嫉妬というかよく分からない顔でゾンさんは僕を睨んできました。
全く俺の顔をイケメンと言う輩がいつもいるがこけにしているのか?
俺の態度が気に食わないらしく。さらにお怒りになったゾンさん氏は何処からか取り出したモーニングスターで滅多打ちにしてきました。
結果《モーニングスターでも死ねなかった》
死ねなかったショックから立ち直り、街に入るとなんと言うことでしょう。大量に人間がいてすごく居心地が悪い。そして極め付けには街に入っても強そうなのがいません。最近の人間さんは困ったものです。
「あ、あの.........」
「ん?」
突っ立っていると見知らぬ少女に話しかけられた。背丈は14歳ぐらいでちょっとみすぼらしい。捨て子か家出少女だろう。
そんなチンケな情報なんかどうだっていい。気になるべきことはこの少女の魔力が普通の人間が蓄えられる量を大幅に超えていることだ。
例えるなら、秋刀魚と鯨。もしかして、この少女ならいけるんじゃ! いやまずこの子が話しかけてきた理由を聞こう。
「どうしたの?」
「お兄ちゃん......魔族?」
「え?」
やばい。何がやばいかは説明できないが絶対にやばい。今すぐゾンさんと合流せねば...!!
△▼△
その頃、ゾンさん氏はと言うと暖かい日差しに当たらないように日陰で気持ち良さそうに休んでいた。
日陰のほうがゾンビは落ち着くらしい。
「それにしても遅いな隊長.........いっつも遅いよな」
「遅くて悪かったな」
愚痴をこぼしている時に、タイミング現れる俺ってば、間が悪いねぇ。
「おわっ?!な、なんすか」
「助けて」
「へ?」
ゾンさんは、俺の背中にへばりついた可愛らしい少女が引っ付いているのを見ると、とても冷たくゴミでも見ているかのような目で見下し言い放った。
「憲兵所に行きましょうゴミ屑」
「誤解してるよね?!あとひどい!」
俺はとても震えた声だったと思う。
なんとも言えない気まずさというものがあり、まるで親に隠していたエロ本が見つかった子供の気持ちが理解できた気がする。
憲兵所に連れて行かれそうだったので、なんとか必死に説明しました。
え?連れて行かれても抜け出せるだろって?
その後の俺の腐生に汚名が付くので、嫌なんです。
「魔力がすごいですね」
「だからこの子はダメかね?」
「まあいいと思うっす。あとは了承もらって」
「わかった。お嬢ちゃん魔王にならなーーー」
思いっきり背負い投げされて、奥の木にぶつかり内臓が潰れた。それでも、死ねなかったよ、残念。
立ち上がると追い打ちで、槍を投げられ、腹部にヒット。縫い付けられました。
とっても痛いです。腐った死者にもましてや不老不死にだって痛覚はあるんだよ。あと中々深く槍が刺さったおかげで抜け出せません。
「あ、あの大丈夫なんですか?」
「大丈夫だよ。死なないからこの.........人?」
「そうなんですか、それで魔王っていうのは?」
なんやかんやで、ゾンさんの説明が終わり。微妙にあやふやな説明であったが、だいたいの部分は理解したようだ。
少女は、少し考え込んでいた。
ゾンさんも無理してならなくていいと言っているが、どうやら少女は決心してくれたようだ。
「わたしなりたいです!魔王に!」
「まじで?」
「やった!」
そして、さも当然のように四天王は復活し喜んでいた。復活の速さにゾンさんは驚いていた。不死身ですが、何か?
魔王になりうる人材は見つけた、次にやることはなにがあっても魔王に必要なものがある。
それは魔王が住む城だ。見映えって重要なものなんだぜ?ショボイ城に住んでる魔王なんて威厳もクソもないんだぞ。
「じゃあ!まず拠点作成しよう」
「あの〜」
「どうした?」
「名前なんて言うんですか?」
名前.........?ああ、俺名乗ってなかった。
まあ、名乗る名前すら忘れているから、名乗れないんだけどね。
自分で言ってて、悲しくなるような時って、誰しもが、あることだと思うんだ俺。
「ない。っていうか忘れた」
「えぇぇぇ!?」
「ああこの.........人?何回も生き返ってるから、忘れたんだよ」
正確には百五十二回だ。え?そんな事より、名前の方を覚えろよって?なんで、こっちの方だけ覚えてんだろ。
あ.........あれだ。大切な知識よりも、無駄な知識の方が、記憶に残りやすいってやつだ。
まあ、死んだ回数も覚えておいても無駄ではないと思うんだ。
「名前がないと呼びにくいです.........」
「わがまま」
最近の若者は名前を知らないと、話すことができないのかい?まったく困った物だ。
しかし、それに対しゾンさんも困っていたのか恐ろしい提案をした。
「じゃあ、嬢ちゃん付けなよ」
「はあ?!俺は犬か?そんな簡単に、名前変えられてたまるか!!」
「ないよりはいいでしょ?」
確かに、名前があった方がいいけどよ。そんな、ほいほい変えられてもよぉ。
俺だって、多少はプライドあるんですよ?腐った死者にも人権はあるんですよ?いや、腐権だった。
「じゃあ!気に入ったら、それでいいですか?」
「なんで名前変えなきゃいけないんだよ!!」
「わ、私が考えた名前はダメですか......?」
少女は涙目になっていた。
そんな顔されたって、俺は名前を返させはしないぞ。絶対にだ。
しかし、少女の顔はもう泣く寸前であった。
「わかった......お前が決めな、ただし!気に入ったらだ!」
「はい!期待していてください!」
「やっぱロリコンだな」
「なぜそうなる?」
汚点は既に着いているのであった。
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