New Testament
21
「世界は様々なエゴイズムが重なって構成されている。今更それを否定するには遅いがな。しかし普通はそんな自分主義な行動を正当化しようと、様々な名前で呼ばれたりする。どれもエゴイズムには変わりないし、名前を変えたからどうこうということもないが」
老人の眼は、ずっと酒を飲んでいただろうに先を見据えていた。まだはっきりとしていた。
もしかしたら今飲んでいるのは酒等ではないのではないか、そんなことを疑ってしまう程に。
しかし、未だリニックが聞きたいことは全く聞けていない。それについてリニックが訊ねようとしたのを、老人が制した。
「まぁ、焦るな。まだ話は終わっちゃいない。寧ろここからがお前たちの聞きたかったことだと思うがね。……そんなエゴイズムの結晶である人身売買だが、最近はある組織が隠れ蓑に使うようになった。何処だか解るか?」
「シュラス錬金術研究所……なのか」
「近くて遠い。そこまで解れば、もはやそれは正解に近いだろうが……まだまだ及第点には程遠い」
老人の反応は、回りくどい言い方で返された。結局は「及第点ではない」とだけ言えばいいだけの話であるのにそこまで回りくどく言う必要はあるのか――リニックは内心そんな思いを抱いていた。
「シュラス錬金術研究所はただの通名に過ぎない。その正体はカミサマにも抗うカルト集団だ。その名前はエデンの園にある知恵の木の実からとられたもの……ここまで聞けば、もしかしたら聞いたことがあるのではないかな?」
「まさか……」
「ああ」
レイビックは驚愕し、まともに言葉を発することが出来なかった。
対して老人はそれを見て口を綻ばせる。
「『フォービデン・アップル』……、その起源は旧時代にも及ぶ『人神同義』を考える組織のことだ」
◇◇◇
その頃、闇。
「ルーンペスタの老人と、リニック・フィナンスが邂逅しているが、それに関しては問題ないのかね?」
「まさかルーンペスタが生きているとは、まったくもって予想外だったが、まぁ、まだ想定内だ。何の問題もない。ルーンペスタはさっさと殺してしまおう。『生き字引』など、今の世の中には必要のない存在だ。特に、我々が我々であるためには」
「せめて彼の知る歴史を遺しておきたいものだが、まぁしかたあるまい。今送ればリニック・フィナンスにも刺客としての役割が成立する。いいことじゃあないか」
「……君がそう言うのなら問題もなかろう。ルーンペスタに関しては君に任せる。どんな殺し方をしても構わないが、絶対に逃がしてはならない。一撃で仕留めねば、奴は歴史を他の人間に報せる手段を用いるやもしれないからな」
「そうなれば、そいつらも……同罪でしょう? ともかく、私にお任せ下さい。次の会議には彼奴の頭を持ってきましょう」
そうして会話は終了した。
◇◇◇
老人と別れたリニックたちはウォードの町並みを歩いていた。リニックにはどうも先程の話から不可解な点が拭いきれない。
どうしてあの老人はそこまで知っているのか。リニック自身も最後に老人に訊ねた。なぜそこまで情報を得ているのかと。
老人は笑って、答えた。
「それは、私が生き字引だからだ。誰もが羨む程長く生き、誰もが羨む程の情報を手に入れた。普通の人間ならば簡単に忘れてしまいそうな情報も、私にとっては忘れない、大事なものだ。その情報の蓄積こそが、生きている証と言えるのだからな。……そうして、私は膨大な情報を蓄積した。少しばかり生命力が強かっただけの話だがね……」
老人は昔話でもするような語り口でそう言った。しかし不思議とその表情には、昔を懐かしむ様子などは見られなかった。
「……確かにそのあたりは私も気になるのよね。誰もが羨む程長く生きた、って不老不死の類い? けれど、あのお爺さんはよぼよぼで弱っていた。もし本当に不老不死の類いならば、今でも若々しい姿で居たはずだもの」
リニックの疑問をレイビックにぶちまけたところ、返ってきた返答がこれだった。とどのつまり、彼女はそこまであの老人の言ったことを本気に捉えていないらしい。
「……もしかしてレイビックはあの話を信じてない?」
リニックが訊ねるとレイビックはそれを隠すことなく頷いた。
「リニックはもしかして信じている? だったら申し訳ないけれど、あの人の発言は半分以上戯言にしか聞こえないよ。全く、何が何だか解らないんだもの。まだ人身売買の件は、やっぱり私たちが聞いたからか真実味を感じるけれど、それ以外はただの出鱈目よ。そもそも酒を飲みながら話している時点で、まともな思考をもって話をしているとは思えないしね」
「そいつはひどいバッシングだな……。まぁ、しょうがないと言えばしょうがないんだろうが」
そう会話を交わしながらリニックとレイビックは路地裏へと足を踏み入れる。
行き先はあの老人が教えてくれたオークション会場だった。
人身売買の相場は決まっているが、その購入方法はオークションで高値を叩き出すことである。そのような業者もウォードには何社も存在しており、それにより業界が形成されるほどだ。
リニックたちが向かっている会場はその業界最大手の『シルフィード・ブラザース』が経営しているオークション会場だ。路地裏に入口があるものの、その規模は業界最大のものらしい。
「しかし……本当にそんなことが有り得るの?」
「可能性はある。幸科研で僕の母さんが言っていただろう? 魔術師狩りには気をつけろ、って」
「魔術師狩りと人身売買に何らかの関係がある、と?」
その言葉にリニックは頷く。
「実は朝宿屋の店主に話を聞いていたんだ。もしかして何か知っているかな、と」
「結果は?」
「結果として、魔術師狩りについてある仮説を立てられる程度の内容はあった」
リニックの言葉に、とうとうレイビックは失笑する。
「その仮説、勿体ぶらずに聞かせてくれないか」
いいだろう――そう言ってリニックは自らが考えた仮説について話しだした。
「先ず、魔術師狩りというのは『魔術が使えない人間』が行うのだと、僕は勝手に認識していた」
第一声。それは聞いていたレイビックが思わず言葉を失ってしまうほどの衝撃だった。
「……そう。これを聞いて君も驚いたと思う。そうなんだよ、魔術師狩りは魔術の使えない人間がするんじゃない。強い力を持つ魔術師を妬む魔術師が行ったものなんだ」
「そんな……そんなことが……。いや、でもそれだと人身売買との結びつきが見えてこない」
「簡単だ。魔術師は高く売れる。それだけのことだよ」
レイビックの唯一の疑問に対し、リニックは小さく、笑うこともなく、言った。
「魔術師が……売れる……?」
「あぁ、だって考えてもみれば解る。普通の人間と違う。それだけで価値が上がるのは一目瞭然。それでいて家を守ってくれることすらする。ともなれば値段はさらにつり上がる。が、実際に魔術師や傭兵を雇うよりかは安く済むだろうからね」
「そんなことが……可能なのか?」
「人間は常識というリミッターを外せば幾らでも私利私欲のために行動する欲深い存在だよ。現にアースにも雇われの魔術師は居たが、やはり貴族や名が売れている博士など、ある程度地位の高い人間だけだったし。逆に地位の低い人間が地位を高くみせようと魔術師を雇うケースもあったけれど、それは若干例外とも云えるかな」
リニックが言っているのは、現にアースに限った話ではない。他の星でも同じ現象が起きている。やはり、皆人間なのだ――そんなことが払拭出来ない程に、恐ろしい程に一致する。
もしかしたら、それが人間の性なのかもしれない。カミサマが人間に通告した原罪の一部なのかもしれない。
人間の先祖であるアダムとイヴははじめ裸であったが、知恵の木の実を食したことで『羞恥』という感情を知り、陰部や胸を隠した。
これが知恵のはじまりで、これによってカミサマは人間に原罪を付与した。
この部分について解釈は恐ろしい程に別れるが、あるひとつの解釈を取り上げるならば、カミサマは人間が同等の地位に来るのを恐れて追放したのではないか、という解釈が挙げられる。
カミサマは人間と同じ形をしているとも言われているし、そうでないとも言われている(現在主流の宗教となっている神殿協会のカミサマは、一応人間の形を為している)。
しかし、現在どちらかといえば人間はカミサマの姿写しというのが通説である。
だからカミサマは人間であり、人間はカミサマにもなれるのだ――神学者の間ではこの議論はこのような結果で一応結論付いている。
「……だとしたら、何処かのカルト集団が『邪悪な人間を滅ぼそう』等という危険思想を持ち始めても些か不思議ではない、ということになるわね」
レイビックの言葉もどちらかといえば危険思想に入る。しかしながら、リニックはそんなことに目を瞑ることにして、会話を続けることとした。
「確かにその通りだ。そして……そのために魔術師を大量に手に入れているとすれば……? それは最早こう言い換えられるだろう。その連中は『魔術師による軍隊』を構成しようとしているのだ、と」
魔術師による軍隊。それはどの国が一度は考えた政策だった。
しかし、ガラムド暦2115年現在、少なくとも表向きに正式な魔術師の所属する軍が設立されてはいない。
なぜか?
それは遥か昔、人々が有り余る戦力の使い方が解らなかったために発展した戦争までのプロセス――人はそれを『悲しみの弾雨』と呼んでいる――があったからだ。
それによる反省の結果、各国は有り余る戦力をとことん捨て去った。そしてそれを永遠に使えないようにした。
だが、捨て去った力は後世迄も残り、時折平和を脅かす程度には使われている。
それでも国が公式に(表向きに)魔術師を含めた軍隊を設立したことはなかった。
表向きに、と但し書きするということは裏では活躍しているのだろうか?
やはり、裏方にもなれば多少強引でも構わないし、そうでもしなければ駄目な時がある。
だから表向きには魔術師は国属ではない、あくまでもフリーランスとしてはいるものの、裏では普通に魔術師が活躍しているのだ。そうでなければ魔術師も食いっぱぐれをくらってしまう。
しかし、そんな中でも軍隊に与しない魔術師の家系もあった。
やはり豊かだったというのもあるのだろうが、魔術は人の生きるために使うものだと考えていたというのが彼らの持論だった。
確かに、魔術が成立したのは荒廃した世界で人々が生きていく術としてカミサマが与えてくださったものだというのは、歴史書を見ればそんな記述はごまんと出てくるだろう。
しかし、生きていくためには金が必要だ。
そして、大抵魔術師の家系はそれ以外に取り柄がない人間ばかりだった。
その魔術しか、彼らにはなかったのだ。
魔術でしか、金を稼ぐことが出来なかったのだ。
老人の眼は、ずっと酒を飲んでいただろうに先を見据えていた。まだはっきりとしていた。
もしかしたら今飲んでいるのは酒等ではないのではないか、そんなことを疑ってしまう程に。
しかし、未だリニックが聞きたいことは全く聞けていない。それについてリニックが訊ねようとしたのを、老人が制した。
「まぁ、焦るな。まだ話は終わっちゃいない。寧ろここからがお前たちの聞きたかったことだと思うがね。……そんなエゴイズムの結晶である人身売買だが、最近はある組織が隠れ蓑に使うようになった。何処だか解るか?」
「シュラス錬金術研究所……なのか」
「近くて遠い。そこまで解れば、もはやそれは正解に近いだろうが……まだまだ及第点には程遠い」
老人の反応は、回りくどい言い方で返された。結局は「及第点ではない」とだけ言えばいいだけの話であるのにそこまで回りくどく言う必要はあるのか――リニックは内心そんな思いを抱いていた。
「シュラス錬金術研究所はただの通名に過ぎない。その正体はカミサマにも抗うカルト集団だ。その名前はエデンの園にある知恵の木の実からとられたもの……ここまで聞けば、もしかしたら聞いたことがあるのではないかな?」
「まさか……」
「ああ」
レイビックは驚愕し、まともに言葉を発することが出来なかった。
対して老人はそれを見て口を綻ばせる。
「『フォービデン・アップル』……、その起源は旧時代にも及ぶ『人神同義』を考える組織のことだ」
◇◇◇
その頃、闇。
「ルーンペスタの老人と、リニック・フィナンスが邂逅しているが、それに関しては問題ないのかね?」
「まさかルーンペスタが生きているとは、まったくもって予想外だったが、まぁ、まだ想定内だ。何の問題もない。ルーンペスタはさっさと殺してしまおう。『生き字引』など、今の世の中には必要のない存在だ。特に、我々が我々であるためには」
「せめて彼の知る歴史を遺しておきたいものだが、まぁしかたあるまい。今送ればリニック・フィナンスにも刺客としての役割が成立する。いいことじゃあないか」
「……君がそう言うのなら問題もなかろう。ルーンペスタに関しては君に任せる。どんな殺し方をしても構わないが、絶対に逃がしてはならない。一撃で仕留めねば、奴は歴史を他の人間に報せる手段を用いるやもしれないからな」
「そうなれば、そいつらも……同罪でしょう? ともかく、私にお任せ下さい。次の会議には彼奴の頭を持ってきましょう」
そうして会話は終了した。
◇◇◇
老人と別れたリニックたちはウォードの町並みを歩いていた。リニックにはどうも先程の話から不可解な点が拭いきれない。
どうしてあの老人はそこまで知っているのか。リニック自身も最後に老人に訊ねた。なぜそこまで情報を得ているのかと。
老人は笑って、答えた。
「それは、私が生き字引だからだ。誰もが羨む程長く生き、誰もが羨む程の情報を手に入れた。普通の人間ならば簡単に忘れてしまいそうな情報も、私にとっては忘れない、大事なものだ。その情報の蓄積こそが、生きている証と言えるのだからな。……そうして、私は膨大な情報を蓄積した。少しばかり生命力が強かっただけの話だがね……」
老人は昔話でもするような語り口でそう言った。しかし不思議とその表情には、昔を懐かしむ様子などは見られなかった。
「……確かにそのあたりは私も気になるのよね。誰もが羨む程長く生きた、って不老不死の類い? けれど、あのお爺さんはよぼよぼで弱っていた。もし本当に不老不死の類いならば、今でも若々しい姿で居たはずだもの」
リニックの疑問をレイビックにぶちまけたところ、返ってきた返答がこれだった。とどのつまり、彼女はそこまであの老人の言ったことを本気に捉えていないらしい。
「……もしかしてレイビックはあの話を信じてない?」
リニックが訊ねるとレイビックはそれを隠すことなく頷いた。
「リニックはもしかして信じている? だったら申し訳ないけれど、あの人の発言は半分以上戯言にしか聞こえないよ。全く、何が何だか解らないんだもの。まだ人身売買の件は、やっぱり私たちが聞いたからか真実味を感じるけれど、それ以外はただの出鱈目よ。そもそも酒を飲みながら話している時点で、まともな思考をもって話をしているとは思えないしね」
「そいつはひどいバッシングだな……。まぁ、しょうがないと言えばしょうがないんだろうが」
そう会話を交わしながらリニックとレイビックは路地裏へと足を踏み入れる。
行き先はあの老人が教えてくれたオークション会場だった。
人身売買の相場は決まっているが、その購入方法はオークションで高値を叩き出すことである。そのような業者もウォードには何社も存在しており、それにより業界が形成されるほどだ。
リニックたちが向かっている会場はその業界最大手の『シルフィード・ブラザース』が経営しているオークション会場だ。路地裏に入口があるものの、その規模は業界最大のものらしい。
「しかし……本当にそんなことが有り得るの?」
「可能性はある。幸科研で僕の母さんが言っていただろう? 魔術師狩りには気をつけろ、って」
「魔術師狩りと人身売買に何らかの関係がある、と?」
その言葉にリニックは頷く。
「実は朝宿屋の店主に話を聞いていたんだ。もしかして何か知っているかな、と」
「結果は?」
「結果として、魔術師狩りについてある仮説を立てられる程度の内容はあった」
リニックの言葉に、とうとうレイビックは失笑する。
「その仮説、勿体ぶらずに聞かせてくれないか」
いいだろう――そう言ってリニックは自らが考えた仮説について話しだした。
「先ず、魔術師狩りというのは『魔術が使えない人間』が行うのだと、僕は勝手に認識していた」
第一声。それは聞いていたレイビックが思わず言葉を失ってしまうほどの衝撃だった。
「……そう。これを聞いて君も驚いたと思う。そうなんだよ、魔術師狩りは魔術の使えない人間がするんじゃない。強い力を持つ魔術師を妬む魔術師が行ったものなんだ」
「そんな……そんなことが……。いや、でもそれだと人身売買との結びつきが見えてこない」
「簡単だ。魔術師は高く売れる。それだけのことだよ」
レイビックの唯一の疑問に対し、リニックは小さく、笑うこともなく、言った。
「魔術師が……売れる……?」
「あぁ、だって考えてもみれば解る。普通の人間と違う。それだけで価値が上がるのは一目瞭然。それでいて家を守ってくれることすらする。ともなれば値段はさらにつり上がる。が、実際に魔術師や傭兵を雇うよりかは安く済むだろうからね」
「そんなことが……可能なのか?」
「人間は常識というリミッターを外せば幾らでも私利私欲のために行動する欲深い存在だよ。現にアースにも雇われの魔術師は居たが、やはり貴族や名が売れている博士など、ある程度地位の高い人間だけだったし。逆に地位の低い人間が地位を高くみせようと魔術師を雇うケースもあったけれど、それは若干例外とも云えるかな」
リニックが言っているのは、現にアースに限った話ではない。他の星でも同じ現象が起きている。やはり、皆人間なのだ――そんなことが払拭出来ない程に、恐ろしい程に一致する。
もしかしたら、それが人間の性なのかもしれない。カミサマが人間に通告した原罪の一部なのかもしれない。
人間の先祖であるアダムとイヴははじめ裸であったが、知恵の木の実を食したことで『羞恥』という感情を知り、陰部や胸を隠した。
これが知恵のはじまりで、これによってカミサマは人間に原罪を付与した。
この部分について解釈は恐ろしい程に別れるが、あるひとつの解釈を取り上げるならば、カミサマは人間が同等の地位に来るのを恐れて追放したのではないか、という解釈が挙げられる。
カミサマは人間と同じ形をしているとも言われているし、そうでないとも言われている(現在主流の宗教となっている神殿協会のカミサマは、一応人間の形を為している)。
しかし、現在どちらかといえば人間はカミサマの姿写しというのが通説である。
だからカミサマは人間であり、人間はカミサマにもなれるのだ――神学者の間ではこの議論はこのような結果で一応結論付いている。
「……だとしたら、何処かのカルト集団が『邪悪な人間を滅ぼそう』等という危険思想を持ち始めても些か不思議ではない、ということになるわね」
レイビックの言葉もどちらかといえば危険思想に入る。しかしながら、リニックはそんなことに目を瞑ることにして、会話を続けることとした。
「確かにその通りだ。そして……そのために魔術師を大量に手に入れているとすれば……? それは最早こう言い換えられるだろう。その連中は『魔術師による軍隊』を構成しようとしているのだ、と」
魔術師による軍隊。それはどの国が一度は考えた政策だった。
しかし、ガラムド暦2115年現在、少なくとも表向きに正式な魔術師の所属する軍が設立されてはいない。
なぜか?
それは遥か昔、人々が有り余る戦力の使い方が解らなかったために発展した戦争までのプロセス――人はそれを『悲しみの弾雨』と呼んでいる――があったからだ。
それによる反省の結果、各国は有り余る戦力をとことん捨て去った。そしてそれを永遠に使えないようにした。
だが、捨て去った力は後世迄も残り、時折平和を脅かす程度には使われている。
それでも国が公式に(表向きに)魔術師を含めた軍隊を設立したことはなかった。
表向きに、と但し書きするということは裏では活躍しているのだろうか?
やはり、裏方にもなれば多少強引でも構わないし、そうでもしなければ駄目な時がある。
だから表向きには魔術師は国属ではない、あくまでもフリーランスとしてはいるものの、裏では普通に魔術師が活躍しているのだ。そうでなければ魔術師も食いっぱぐれをくらってしまう。
しかし、そんな中でも軍隊に与しない魔術師の家系もあった。
やはり豊かだったというのもあるのだろうが、魔術は人の生きるために使うものだと考えていたというのが彼らの持論だった。
確かに、魔術が成立したのは荒廃した世界で人々が生きていく術としてカミサマが与えてくださったものだというのは、歴史書を見ればそんな記述はごまんと出てくるだろう。
しかし、生きていくためには金が必要だ。
そして、大抵魔術師の家系はそれ以外に取り柄がない人間ばかりだった。
その魔術しか、彼らにはなかったのだ。
魔術でしか、金を稼ぐことが出来なかったのだ。
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