許嫁は土地神さま。

夙多史

四章 お出かけは大変だ(3)

 で、結局三人で回ることになってしまった。
 まずは小和の要望通り、東区画の地下一階にあるキャラメル専門店を訪れた。
 輝かんばかりの種類豊富なキャラメルたちが陳列する空間に、小和のテンション上昇率と顔の煌きとヨダレが止まらない。とたたたとたた、と駆け足であっちに行ったりこっちに行ったり……もう少し落ち着こうよ神様。そのうち『全部欲しい!』とか言い出しそうで恐い。
「全部買うのは無理だからね。金銭的に」
「わ、わかっている! 今厳選しているところだ邪魔をするな!」
 先手を打つと小和は至極残念そうに肩を落とした。しかし試食品を摘み食いすることで一気に表情が蕩けてしまう。なんというか、見た目相応の子供にしか見えないね。
 スタンダードなミルクキャラメルから始まって、チョコレートキャラメル、コーヒーキャラメルと順に試食コーナーを満喫する小和は、ある一点で不意にピタリと静止した。
「む? これは……」
 小和がその試食品を摘み上げる。あ、あれはクソマズイことで有名などっかの名物『焼肉キャラメル』じゃないか。肉成分なんて一切使われてなくてニンニクやタマネギとかの風味がキャラメルの甘さと混ざり合うことなく見事な不協和音しか奏でない絶品。もはや罰ゲーム用としか思えないそれを、まさか小和、食べる気? チャレンジャーだね。
「焼肉とキャラメル、だと? こ、これは奇跡の融合に違いなうごっ!? ごはっ!?」
 激しく咽返った。キャラメルごはんを美味しく平らげる猛者でもダメだったか。
「な、なんだこれは! 焼肉とキャラメルを冒涜している!」
「そう? 私は美味しいと思うよ」
 彩羽は事も無げに焼肉キャラメルをヒョイ、パクッ。流石は味音痴の彩羽さんだ。とても勝てる気がしない。
「なぜお前は平気な面で食せるのだ?」
 涙目で問う小和に、えっへん、と彩羽は盛り上がった胸をさらに強調するように張る。
「ふふっ、小和ちゃんはまだ舌が子供ってことだよ。これが大人の味です」
「完璧に勝ち誇っているとこ悪いけど、おかしいのは彩羽の味覚だからね?」
「あれ? え? なるくんまで……そ、そんなことないもん! このシーフードキャラメルも美味しいよね? ね?」
 彩羽の味覚はもうどうにもなりそうになかった。まあ、そういう僕も市販されているゲテモノ程度なら不味いと感じるだけで割りと普通に食べられるんだよね。伊達に常日頃と危険物処理に勤しんでないってことさ。そろそろ国家資格になってもいいと思うよ。
「うげぇ、一気に食欲がなくなってきた……」
 今にも吐き戻しそうな青い顔をしている小和に、僕は口直し用に選んだ試食品を持っていく。あの彩羽得なキャラメルはしばらく口内に味がこびりついて離れないからね。
「ほら、小和。これで口直ししなよ」
「うぅ、なんだそれは?」
「生キャラメル」
「な、生キャラメルぅ!!」
 徐々に下がっていた小和の食欲メーターは一瞬で振り切れてしまったらしい。青い瞳を大海原のようにキラッキラと輝かせて僕の指が摘んでいる固形物を凝視する。
「よ、寄こせ! ――はうっ、んんぅ……と、とろけるぅ!」
 幸せの絶頂に達したらしい小和はもう先程の焼肉キャラメルの味は忘れてしまったみたいだね。よかったよかった。
「決めた! これを買うぞ!」
「はいはい」
 僕は苦笑しつつ棚から一箱手に取る。八百五十円か。けっこう高いけど、このくらいなら奮発してもそこまでの痛手には――
「十年分だ!」
「無理だよ!?」
 お財布的にも、消費期限的にも。

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