許嫁は土地神さま。

夙多史

三章 お願いごと叶えます(4)

 やることが決まれば僕たちの行動は迅速だった。
「幽霊が出そうな場所ぉ? どうしたよセージン、急にそんなこと訊いてきて」
「うん、まあ、ちょっといろいろとね」
 翌日の昼休み、いつものように机を寄せてきた変態兄妹――もとい出原兄妹に僕はさりげなくそんな聞き込みをした。今日から開始する作戦『彩羽に自信をつけさせよう ~その除霊術効果あるよ編~』のためには実施するそれらしい場所が必要なんだ(作戦名はベッドの中で三十分かけて考えました)。
「あ、わかった。前もって調べておいた危険な場所に愛しの霊媒少女が入らないよう警戒するためでしょ? 妬けるねぇ。そんなセージンくんにあたしの糸こんにゃくをあげよう」
「いらないよ! 嫌がらせだよねそれ!」
 出原妹が弁当箱の肉じゃがから糸こんにゃくを摘まんで僕の弁当(自作)に放り込もうとする。それを僕は弁当箱を下げてブロック。不名誉なあだ名をここぞとばかりに突いてきやがって、油断も隙もないね。
 実は今朝も彩羽が朝食を作るとか震え上がることを言ってたんだけど、昨日のうちに丁重にお断りしておいた。弁当を小和の分も含めて自作することにしたから朝食はその残りでカバーできるのさ(彩羽さんは弁当も作るとか心臓が止まりそうなことを言ってましたが、もちろん死ぬ思いで断ったよ)。
 小和はといえば、今ごろ自分の足で町内を散策していると思う。神気云々の件は月単位で長時間僕から離れていなければ特に影響はないんだってさ。
「俺っちがパッと思いつくっていやぁアレだな、物置棟。あそこは誘拐監禁されて死んだ女の子の霊がいても不思議じゃないぜ」
「幽霊が限定されまくってるよ。確かに不思議じゃないけどね」
 でも物置棟は却下だ。理由は僕も彩羽もよく知っている場所だし、なにより昨日行ったばかりだからね。いたのは女の子じゃなくてわんこの幽霊だったけど。
 というか別に本当に幽霊が出る場所を探しているわけじゃないんだよ。お芝居をするんだから寧ろ出てきてもらっちゃ困るくらいだ。かと言ってその辺のテキトーな場所だとリアリティーに欠けるし……まったく難しい問題ですな。
「あっ、それならあそこはどう?」
 出原妹がなにかを思いついたらしくパン! と手を叩いた。その弾みで揺れたのは残念なお胸様ではなくツインテールだったのがホント、残念。
「なんか失礼な視線をセージンくんから感じる」
「気のせいだよ。それよりあそこってどこ?」
「ヤだ、セージンくんってばあたしに恥ずかしいこと言わせようとしてぇ」
「他をあたることにするよ」
「ああ待って行かないでふざけましたすみません!」
 出原兄と出原妹、どちらが面倒臭いかと言えば確実に妹の方だ。
「で、どこなの?」
「あーうん。えっとね、町外れに古くて大きな日本屋敷があるんだけど、何十年も前から誰も住んでないっぽいのよ。ほら、セージンくんがいつも通ってる神社のさらに向こう」
 そういえばそんなところもあったかな。白季神社より向こうなんてほとんど行くこともないから忘れてたよ。
「なるほどあそこか。俺っちたちが小四の頃に秘密基地にしてた」
「そうそう、懐かしいねぇ。いやぁ、あの頃はエロゲーなんて知らない若者だったよ」
 なんか出原兄妹が揃って年寄り臭く昔を思い出し始めた。小学四年と言えばまだこの二人とはあまり接点のなかった時期だね。小五で初めてクラスが一緒になったんだ。
「そういえばちょっと前に『火の玉が出た!』って子供たちが騒いでたねぇ」
「どうせ秘密基地を他の連中に奪われないようにする方便だろうよ。俺っちたちもそんな噂流したりしてたろ」
「あはは、やってたやってた。『大蛇が住んでる』なんて言ってたっけ」
 火の玉はちょっと気になるけど、こんな風に子供が秘密基地にできるくらいだ。危ない幽霊はいないかな。
 でも念のため参拝ついでに下見しておいた方がいいよね。なんにもないと思うけど。

 ――と。
 この時の僕は、自分が楽観的過ぎたなんて微塵も思っていなかったんだ。

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