ルームメイトが幽霊で、座敷童。
カミと異形の緊急会議(後編)
タイガノミコトの言葉を聞いて、百鬼夜行は笑い出した。
「笑止! タイガノミコトよ、よもやお前の口からそんな言葉が出るとは思いもしなかったぞ! こりゃ依頼を引き受けて正解だったようだな!」
「依頼……だと?」
「そうだ。今回はオオヤシマが依頼……したんだよ。もし交渉が決裂するような事態になれば、消しても構わないってね! これでせいせいするんじゃないかな、オオヤシマの神々は!」
タイガノミコトはそれを聞いてもなお、動揺などすることは無かった。
それどころか、どこか落ち着いている様子にも見える。
「成る程……。それさえ聞ければ充分だよ、百鬼夜行」
その言葉を聞いて、百鬼夜行は漸く気がついた。
タイガノミコトを中心として煙が出ていること、そしてキガクレノミコトの周りの色が変わっているということに。
「貴様、まさか!」
「死んでもらおう、百鬼夜行! この私の命をかけて!」
タイガノミコトの身体が光に包まれ――。
刹那、神社が完全に破壊された。
神社が破壊されたが、しかし完全に、完膚なきまでに破壊されたわけではなかった。
キガクレノミコトが居た場所は奇跡的に、いや、必然的に無事だった。タイガノミコトが配慮したのだ。
「タイガノミコト……そこまでする必要なぞ無かったというのに……。お前はまだこの日本に必要な存在であったというのに……。何故……」
「ほんとだよ。まったくもって、死んだ理由が思い付かない」
声が聞こえた。
それは紛れもない百鬼夜行の声だった。
「百鬼夜行、貴様……!」
「おっと。あんたはここでタイガノミコトの死を無下にするのかい?」
それを聞いて彼女の手が止まる。百鬼夜行は溜息を吐いて、話を続けた。
「ほんとうならばあんたも倒さなくてはいけない。それがオオヤシマからの命令だったからな。しかしタイガノミコトは死んだ。キガクレノミコトを守るために、自らの命を犠牲にした。美徳だよ、矜持だよ。それを僕は潰すことなんて……出来るわけがない」
踵を返し、百鬼夜行は立ち去る。
キガクレノミコトはただ百鬼夜行を見つめていた。
「助けて……くれるのか?」
「助けるとかどうとかそういう問題ではない。オオヤシマからはこっぴどく叱られるだろうが、退散するよ。タイガノミコトが必死に守ったんだ。ちっとは大事にしろよ」
そして百鬼夜行は姿を消した。
キガクレノミコトはその場で腰を下ろし――涙を流した。
泣いて、泣いて、泣き尽くした。自分でもこれほどまでに涙が出るのかと思わせるほどに、彼女は涙を流した。
空間を、彼女の泣き声が支配した。
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