ルームメイトが幽霊で、座敷童。

巫夏希

カミサマの同化と特殊能力(後編)


 カミサマと同化しているならば、こちらも同化しちまえばいい話なのだ。

「……カミサマの同化なんてそう簡単に出来るもんじゃないんだよー。だってさ、同化ってことは即ち精神を共にする……託すってことだ。精神が弱けりゃ……あっという間に乗っ取られてお仕舞いだね」
「だが、美夏さん。あんたはそんなことしないだろ?」
「ワタシ自身の判断ではね。だけれど、そんな簡単なシステムではないんだよ」
「システム?」
「あぁ、そうだ。神憑きでもそれは簡単に操作出来ない。あの海馬王明も……きっとそうだろうな」

 海馬王明ですらコントロール出来ないシステム。
 それは、いったい。

「……私たちは別の名前で呼んでいるのだけれど、彼らにんげんはそれを『アリス・システム』と呼んでいる……らしい」
「アリス?」

 不思議の国にでも迷い込んだというのか?
 ……長く、色々と聞いてみたいこともある。だが、今はそう話している場合でもない。
 ここは一先ず海馬王明を倒してから考えることにしよう。

「碧さん!! さっきの作戦、ちゃんと理解しているよな!」
「わたしをなんだと思っているんだ。任せとけ」
「碧さんを信じられないわけではないんだが……どうもな……」
「それは信じてない証拠だろうが!! 少しはカミサマ以外の存在を信じてみろ!!」

 碧さんの話もごもっともだ。だが、相性さえ悪くなけりゃ俺は百パーセント美夏さんで戦っていた。碧さんが“都合よく”あんな力を持っているからこそ、今回は碧さん主導になっているに過ぎない。大方、ドイツでの『アマテラス』の威力に自らの立ち位置が危ぶまれる……と考えたのだろう。大体そんなものだ。
 一先ず、今は碧さんに任せるしかない。


 ◇◇◇


「さてと……、それじゃ少しは頑張りますかね」

 そのころ碧さんは海馬王明の傍にまで迫っていた。

「誰が来るかと思っていたが……力もない幽霊か。神憑きの名に恥じるものだな、瀬谷家というものは」
「海馬王明、といったね。あんた、あいつのこと知っているのか?」
「幽霊如きに答える必要もない」
「そっか」

 碧さんはまるでその言葉を待ち構えていたかのように、笑って答えた。

「それじゃ……もし私が“幽霊じゃない”としたら?」

 海馬王明はそのとき、その幽霊から――殺意を感じ取った。
 明確な殺意。

(……いくら殺意とはいえそれは幽霊からのもの。カミサマなどとは違う……!)

 海馬王明はそう考えて、最悪の場合ケースの考慮を放棄した。
 彼は神憑き最強の人間である。
 彼は神憑きの中で最も完璧な人間である。
 だからこそ。
 彼は――最悪というものを考慮しない。
 だが、彼は今――ほんの一瞬、最悪を考慮した。
 それをさせた存在はカミサマでも、人間でもない。
 人間のルームメイトで、幽霊で、座敷童である『碧』という存在だった。



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